マネジメントやリーダーシップの在り方は時代と共に変化しています。でも、変わらないことは「人を動かして事業を前に進めること」。
この「ズルいマネジメント」特集では、そのために必要なさまざまな裏技や新しいマネジメントスタイルについて、実例を交えながらご紹介していきます。
「これからのマネージャーは『何もしない』マネジメントを学ぶ必要がある」──そう話すのは、株式会社キャスター取締役CROの石倉秀明さん。
働き方の選択肢が広がる今、マネージャーも旧来の手法ではミッションを遂行できなくなってきています。管理職が行ないがちな「NGマネジメント」について伺った前編に続き、後編では石倉さんが失敗を通して学んできたという“多様な働き方の時代”のマネジメント術をお届けします。
▼前編はこちら
マネージャーの仕事は「ミッション達成」ただ1つ
前編で「上手くいかない組織のマネージャーは“余計なこと”を気にしすぎている」と指摘していた石倉さん。
「これまでのマネジメントは、チームの一体感を出す、部下に自主性・主体性を持たせるなど、“こうあるべき”という常識に引っ張られてきた側面があると思います。
ただ、マネージャーの仕事で絶対に外してはいけないのは、こうした“余計なこと”ではなく、ミッションや目的の達成です。
任せる仕事や役割、求める成果を出してもらうことについてはマネジメント(管理)すべきですが、それ以外のことについては口出ししないし、邪魔をしないことが重要です」(以下、石倉さん)
ミッションが達成できていないのに、組織や育成の課題を語る…「そんなマネージャーは逃げているだけだ」と石倉さん。
今の戦力でなんとかするのがマネージャーであり、重要なのは目的を達成するための人材配置やタスクマネジメントなのです。
会社・個人として、求める役割やミッションが果たされているのであれば、お互いの働き方や周囲との付き合い方、会社との距離感などは干渉しない。組織のパフォーマンスを最大限に出そうとするなら、これからはこうした考え方が必要だと石倉さんは語ります。
テキストコミュニケーションでは感情よりも情報を優先
リモートワークでのコミュニケーションは、現代のマネージャーが頭を悩ませる問題の1つでしょう。
「リモートワークで何よりも重要なのはチャット(テキストコミュニケーション)です。
チャットを連絡ツールの1つだと思っている方も多いと思いますが、リモートワークでは“チャット=オフィス”。私はチャットをバーチャルオフィス空間と捉えています」
チャットでやり取りをする時は、1つ気をつけるべきことがあると石倉さん。それは、文字で相手の感情を推測しないことです。
「コミュニケーションには情報の交換と、感情の交換の2種類があります。
情報の交換は、相手が何を言いたいか、こちらが言いたいことが伝わったかなど、文章の理解がポイント。
一方、感情の交換は、相手が喜んでいる、怒っているとか、本当はこうしてほしいのではないか?といった、いわゆる“裏に隠れたもの”の理解がポイントになります。
仕事においてどちらが重視されるかというと、当然情報の交換でしょう。みんな感情まで伝えよう、読み取ろうとするけれど、それはテキストでは限界がある。
ならば、チャットでは文字として書かれた以上の情報を読み取ろうとしないほうがいい。むしろそこに気を取られて、情報の交換やテキストの精度を優先していない人が多い気がします」
新時代のマネージャーのコミュニケーション術3原則
これからのマネージャーは、部下・後輩とのコミュニケーションにおいてどのような点に気を配るべきなのでしょうか?
石倉さんが特に大切にしているのが以下の3つのポイントです。
1. チャットを日常会話のように使う
「対面での会話とチャットの大きな違いは、軽い相談や雑談がしにくいこと。
対面だと会話のキャッチボールで理解が深まっていきますが、チャットではそうしたコミュニケーションが難しいと感じる人もいるでしょう。
私が心がけているのは、チャットを日常会話のように使うこと。重要なことや結論を伝えるツールではなく、言いたいことをそのまま書くのがおすすめです。
話したい内容を一度で伝えきるというよりは、ポンポンと短めな会話をカジュアルにやり取りする。テキストが分かりにくいと感じたら、その場で確認します」
2. なるべく会議をしない
「大事なことを会議で言うと、その場の参加者にしか伝わらないため、必要以上に会議をしないようにしています。
パワハラのような問題をなくすためにも、クローズドな場はなるべくつくらないこと。キャスターでは、マネージャー以上が集まるオンライン会議でもURLを公開し、見たいスタッフは誰でも見られるようにしています」
3. フィードバックはアウトプットにフォーカスする
「部下へのフィードバックとして『100点中2点!』といったキツい言い方をすることもあります(笑)。
ただ、ダメ出しをするのはアウトプットに対してのみで、人格をどうこう言うことはありません。
お互いにダメ出しを引きずらないのも大事。厳しく指摘したあとで、普通にくだらない話をするような感じです」
自分だけの「戦えるマネジメント手法」を見つけよう
石倉さんは著書『これからのマネジャーは邪魔をしない。』の中で、「邪魔をしない」「何もしない」という新たなマネジメントのキーワードを提唱されています。
石倉さんのマネジメント手法には特定のロールモデルがいるわけではなく、部下からのフィードバックや、「あの人のこの言い方はいいな」といった気づきを掛け合わせた結果とのこと。
実は「何もしない」というマネジメントが生まれたのも、部下に「このチーム、死んでますよね。石倉さんは何もしないほうがいいと思います」とズバリ言われたことがきっかけだったとか。
「元々、私のマネジメントは失敗の歴史。当時はマイクロマネジメントで部下を追い詰めて、チームが崩壊してしまうこともありました。
そんな試行錯誤を経ての今なので、マネジメント全般が得意だという意識もないんです」
もともとコミュニケーションが苦手な自分だからこそ、同じ悩みを抱えるマネージャーに伝えられることがある。そうした思いが執筆につながったと石倉さん。
「もっとも重要なのは、自分が戦えるマネジメントの手法を見極めること。
たとえば私のやり方なら、部下の育成や採用、チームビルディングが苦手でもマネージャーとして戦えます。
『マネージャーは色々なことができなければいけない』という思い込みを1回捨てて、シンプルに自分のミッションに立ち返ってみるといいのでは?
きっと自分にとってベストなマネジメント手法が見つかるはずです」
「何もしない」マネジメント術まとめ
● オフィスで働く場合とリモートワークとでは環境が違うのは当然。働き方のルールが変わったことを前提に考えるべき。
● マネージャーがやるべきことはミッションの達成。できない管理職は本来の責務が疎かになっている。
● NGマネジメントの共通項は「部下・後輩を大人として扱わないこと」。自主性を求めるなら「何もしない」ことが必要。
● これから必要なスキルは、テキストコミュニケーション力。文章で情報を的確に伝え、余計な感情は伝えない&読み取らない。
● マネジメントの正攻法は1つに限らない。個人に合った、自分だけの「戦えるマネジメント手法」を見つけることが大切。
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石倉秀明(いしくら・ひであき)

1982年生まれ。群馬県出身。1400名以上の従業員全員がリモートワークで働く株式会社キャスター取締役 CRO(Chief Remotework Officer)。 フジテレビ系列「Live News α」にコメンテーターとして出演中。近著は「これからのマネジャーは邪魔をしない。」(フォレスト出版)。
Source: キャスター