マネジメントやリーダーシップの在り方は時代と共に変化しています。でも、変わらないことは「人を動かして事業を前に進めること」。
この「ズルいマネジメント」特集では、そのために必要なさまざまな裏技や新しいマネジメントスタイルについて、実例を交えながらご紹介していきます。
今回お話を伺ったのは、株式会社キャスター取締役CROの石倉秀明さん。キャスターでは、2014年の創業以来、完全リモートワークで会社が運営され、2022年5月末現在で約1400人のスタッフが在籍するまでになっています。
そんな“リモートワークが当たり前の会社”を経営する石倉さんのマネジメント方針は、「邪魔をしない」「何もしない」ことだそう。果たしてその真意とは──? 働き方の多様性が広がる時代に即したマネジメントの考え方についてお話を聞きました。今回は前編です。
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「競技は変わった」起きている働き方のルールチェンジ
石倉さんは今でこそ経営者ではあるものの、以前はリクルート、リブセンス、DeNAでプレーヤーとして成果を出し、マネジメントのキャリアを積んできました。
石倉さんが「株式会社キャスター」と出会ったのは、DeNAから独立し、フリーでコンサルタントをしていた時のこと。キャスターは企業のバックオフィス業務をリモートアシスタントが請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を手がける会社。当時はアシスタントを含めて20人程度の規模だったといいます。
石倉さんはその後、キャスターの発展に伴い事業に参画し、2016年より取締役COOに就任。
「リモートワークを当たり前にする」ことをミッションとするキャスターは、当然ながら全社的にフルリモートで組織を運営しています。
リモートワークを導入したものの伸び悩む企業(もしくはチーム)と、業績を伸ばし続けるキャスターとの違いはどこにあるのでしょうか?
「まず前提として、オフィスに皆が集まって仕事をしている場合と、リモートで働く場合では環境が大きく異なります。
要は競技が変わる、働き方のルールが変わるということ。私はよく『サッカーとフットサルくらいの違いがある』と説明しています」(以下、石倉さん)
皆がオフィスにいる時は、口頭でコミュニケーションをとり、“察する”部分も含めて仕事を進めていくのがセオリー。物事が動くのはミーティングの場でした。
しかしリモートワークでは、チャットなどテキストを使ったコミュニケーションが日常(基本もしくはベースなど)となります。口頭とは違い、ふんわりした表現では何一つ伝わりません。
「リモートワークでは、“言う・聞く”よりも、“書く・読む”コミュニケーションの比率が高くなります。
これらのコミュニケーションが苦手な人は、非常に伝達コストがかかる。こうしたルールチェンジが様々な場面で起きているのです」
“上手くいかない”マネージャーは「余計なこと」を気にしすぎ?
「リモートワークだとコミュニケーションが上手くいかない」「会社への帰属意識が育たない」「部下の管理ができない」。
世間でリモートワークの導入がはじまって、こんな相談を受けることが増えたと石倉さん。
しかしそれは、従来のオフィスでのコミュニケーションに固執しているだけで、大切なのはマネジメントの考え方を変えることだと話します。
「会社員時代の私は、“仕事は好きでも人付き合いは苦手”というタイプでした。
組織で働いていると一体感を要求されることがありますが、私のようにそれがモチベーションを低下させる人もいます。
価値観はそもそも多様で、働きやすい働き方も皆違う。上手くいかない組織のマネージャーは、余計なことを気にしすぎて、本来の責務であるミッションの達成が疎かになっているのではないでしょうか?」
「会社(チーム)として一体感を醸成する」「部下のモチベーションを上げる」といった課題感も、石倉さんから見ると“余計なこと”。
今はリモートワークの有無に関わらず、フルタイム、時短勤務、フリーランスの人もいます。それらを1つのルール、1つの価値観だけでマネジメントしようとすることが、果たして正しいと言えるのか──。石倉さんはそう問いかけます。
管理職にありがちな「NGマネジメント」4つの罠
マネージャーが行ないがちな「NGマネジメント」の具体例として、以下のようなものがあると石倉さん。
1. 「不安の解消」のために部下を監視する
「物理的に部下の姿が見えないと不安になる」と話すマネージャーは多い。
オンライン会議はもちろん、在宅勤務中も常に「カメラON」を推奨。自分の不安を解消するために部下の働きぶりを監視してしまう。
2. 部下に「細かすぎる報告」を求める
業務の進捗を逐一報告させる、ミーティングを頻繁に行なうなど、マイクロマネジメントにより部下の仕事を滞らせてしまう。
3. 部下を信用しない
マイクロマネジメントの根底には、「部下を信用せず、大人として扱わない」マネージャーの心理がある。
4. 部下に自主性・主体性を求める
部下が「自主的」「主体的」かどうかが気になるのは、相手に「自分と同じ気持ちを持ってほしい」という願望の表れ。
部下を自分のコピーにしようとしてはいけない。自主性・主体性がなくても、ミッションを達成できれば問題はない。
リモートワークに不安を感じ、部下をマイクロマネジメントしたくなるのは、部下を大人として扱っていないからだと石倉さんは指摘します。
「部下を自立した大人として扱わなければ、部下は大人として働かなくなります。
思考することを求めずに、思考停止することを求めているとも言える。本当の意味で部下に自主性を求めるなら、“放っておく”“何もしない”マネジメントが必要です」
石倉秀明さんに聞く「何もしない」マネージャーのあり方。後編では、石倉さんが自身の失敗を通して学んだという、これからのマネジャーがすべきこと・コミュニケーションのコツを伺っていきます。
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石倉秀明(いしくら・ひであき)

1982年生まれ。群馬県出身。1400名以上の従業員全員がリモートワークで働く株式会社キャスター取締役 CRO(Chief Remotework Officer)。 フジテレビ系列「Live News α」にコメンテーターとして出演中。近著は「これからのマネジャーは邪魔をしない。」(フォレスト出版)。
Source: キャスター