管理職の仕事で最も重要なものの1つは、業績に対するフィードバックを行ない、責任を持たせることです。それだけに、これを放棄したりほかの誰かに任せたりすることはできません。
それでも、管理職は多くの場合、この種の会話を避けがちです。他人の業績に対してフィードバックを行なうと考えるだけで、すぐに心拍数が上昇します。
これは、体が「闘争・逃走」モードに入ろうとしているサインです。フィードバックを受ける対象者がフィードバックをする人よりも知識や経験が豊富な時には、結果として生じる不安が特に大きなストレスとなることがあります。
「曖昧なフィードバック」をし続けた結果
私のコーチングのクライアントだったマリアの場合がそうでした。マリアは、米国に拠点を置く多国籍ロボット企業で世代も経験値も異なる直属の部下を持つ、将来有望な管理職です。
システムダイナミクスの博士号を取得したばかりで、職業経験はわずか4年のミレニアル世代であるマリアは、自分よりもベテランのチームメンバーと会話をするのが怖く、会話の際には自分でも「否定的で上から目線」になってしまうと感じるような、能力開発のフィードバックを行なわなければなりませんでした。
その結果、マリアはそのような会議を何カ月も遅らせたうえで明確な方向性を示すことのできない曖昧なフィードバックしかしないか、すべてを省いてしまったために、チームの中には、マリアが自分のことをどう考えているのか、自分の業績が基準に達しているのかと疑問に思う人が出てくる一方、「便りがないのは良い知らせ」という態度を強めるだけの人もいました。
能力開発の明確なフィードバックを行なうのを嫌がるマリアの態度はビジネスに影響を及ぼし、その結果、彼女は上司から厳しい業績評価を受けることになりました。
上司は、マリアのチームメンバーがほかの同僚に対して非常に不快な行動をとっている事例や、予定していたソフトウェアのリリースが遅れて費用がかさむことになる納期遅延を指摘したのです。
数カ月にわたるエグゼクティブコーチングで、私はマリアが以下の感情制御の戦略を理解して実践するお手伝いをしました。
この戦略によって、自分より経験豊富な同僚に対する能力開発のフィードバックのことを考え、実行することが、マリアにとっては以前より容易なものとなり、チームと組織全体にとっては生産性の高いものとなりました。
期待することを最初から設定する
専門家から成るチームを率いている状況でフィードバックを行なうことに対して感情が蓄積してしまうのを避けるには、認識はしつつも触れづらい問題に、チームに参加した瞬間から対処することが助けになります。
不安な気持ちから実際よりも自分に知識があるように装うのではなく、チーム内の先輩の経験や専門性を率直に認め、自分が状況を理解するうえで協力をお願いするのです。
同時に、自分が期待することを明確にし、個々のメンバーが持つ期待値に達する能力を確認してから、マイルストーンについて、あるいは特定のプロジェクトや取り組みの成功がどのようなものなのかについて決めましょう。
メンバーに対しては、業績面の状況が把握できるように途中で定期的にフィードバックを行なうこと、どうすればメンバーをサポートするうえで自分がさらに役立てるかを学ぶためにメンバーからのフィードバックも求めることを伝えましょう。
部下に責任を持たせることをやり通し、タイムリーにフィードバックを行なう管理職は、チームから尊敬され、長引く思い込みやコミュニケーション不足から来る感情的な蓄積を避けるのです。
感情を回避する
スタンフォード大学のJames Gross心理学教授によると、科学的に裏付けられた感情制御の戦略を用いて、一般的に恐怖・怒り・悲しみなどの感情を引き起こす4段階のプロセスに介入することによって、否定的な感情の強さを軽減することができるといいます。
第1段階:状況
このプロセスは、現実の状況、あるいは想像上の状況からはじまります。
私のクライアントのマリアの場合、それは通常、自分より経験豊富なチームメンバーに業績のフィードバックを行なうと考えることでした。
感情生成のプロセスのこの段階で不安を抑える戦略には、Gross教授が「状況回避」と呼ぶものが挙げられるでしょう。脅威となる状況に関わらないことを選択することで、ほとんどの場合、そこから生じる不安は回避されます。
たとえば、飛行機に乗ると不安になる場合には車で目的地に向かう、ということです。しかし、部下に定期的にフィードバックを行なうことが仕事として求められる管理職にとって、この戦略はまず選択肢になりません。
ですが、フィードバックをするのに最適な曜日と時間を選び、チームメンバーが締め切りに追われるプレッシャーをあまり感じていない時にすることで、状況を修正することはできます。
そうすることで、自分をある程度制御し、ストレスのかかる場面を比較的リラックスした状況で想像することができ、フィードバックのことを考える際に感じるかもしれない不安が多少軽減されます。
第2段階:注目
第2段階は、状況の側面のうち、特定の、しばしば脅威となるものに注目することです。
マリアは、自分のフィードバックに対してチームメンバーが見せると予想される否定的な反応に主たる焦点を当てて、自らの不安を煽り立てていました。
感情生成のプロセスのこの段階における介入戦略は、意図的に自分の着目点を変え、起こるかもしれない否定的なことを反芻する代わりに、フィードバックを受ける人のリーダーシップの可能性や、チームや組織への貢献度など、肯定的な側面に焦点を当てるというものです。
第3段階:評価
第3段階は、Gross教授の言うところの「評価」です。
つまり、マリアが否定的なフィードバックをしようと考え(状況)、チームから強い否定的な反応が返ってくるだろうという予測に焦点を当てた時(注目)、フィードバックを行なうことにマリアが与える意味(評価)は、チームが彼女の「無能」に腹を立て、彼女の下で働くのが嫌になるということだったのです。
第4段階:反応
そうすると、状況に対する評価は、感情生成のプロセスの第4段階である感情的な反応につながります。マリアの場合は、管理職としての職務の遂行を妨げる、衰弱させるような不安がそうした感情的な反応でした。
マリアは、自分の抱える不安が発生する神経学的プロセスを理解したあと、「チームが自分に腹を立てる」という脳がつくり出した自動的な思い込みに立ち戻ってしまうのではなく、自分を制御したうえでフィードバックという行為に割り当てる意味を変えられるということを学びました。
実践するうちに、マリアは、不安を引き起こす状況の意味を次のような生産的な形で再構成することができました。
- チームは、自分の正直さを認めてくれる
- 自分の業績がわからない状況にあることを望む人はいない
- 確かなフィードバックを行なわないことで、チームが成長する機会を奪っている
- 自分の強み・弱みを自覚していなければ、チームとして勝利を収めることはできない
脅威となる状況の意味を変えるために、さらに生産的なフレーミングを生み出すことには、限界などありません。マリアには、チームへのフィードバックという課題に対して30を超える肯定的なフレーミングをつくり出してもらいました。
その結果、フィードバックをしようと思った時に自動的に立ち戻ってしまっていた否定的なフレーミングを弱め、この実践方法が持つ、より肯定的で生産的な見方を身に着けました。
そうして、自らの不安を解消するだけでなく、チーム、そして上司からも尊敬されるようになったのです。
Source: Strategy+Business, ResearchGate
Originally published by Fast Company How to manage the anxiety of giving negative feedback.
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