米電気自動車メーカーのテスラが2022年5月、「2021年インパクトレポート」を発表しました。

このレポートでは、環境・社会・カバナンス(ESG)に関連した同社の取り組みが詳しく報告されています。非常に長く、正確には144ページに及ぶレポートですが、時間が空いたので、読んでみました。

テスラがまとめたレポートの全容

このレポートはさまざまな意味で、予想どおりの内容です。

同社が公言している、前向きなインパクトを与えるための取り組みが網羅されています。

たとえば、テスラ製電気自動車に乗る顧客は「840万トンに相当する二酸化炭素(CO2)の排出を回避」できたと書かれています。

どういう意味なのかはよくわかりませんが、どうやら素晴らしいことのようです。電気自動車メーカーとしてはなおさらでしょう。

また、テスラは10万件の雇用を創出したと書かれています。こちらはもう少し具体的で、やはり素晴らしい話です。レポートは最初から最後まで、いいことずくめなのです。

言うまでもありませんが、企業はみな、自らを立派に見せたがるものですし、自社が与えたインパクトをできる限りポジティブに描写したいと考えています。

いかに優れた企業であるかを語った144ページもの長大なレポートを書き上げて公表する理由は、そこにあるわけです。

しかしこのレポートには、環境へのインパクトに限らず、さまざまなことが盛り込まれています。

レポートで見えた、テスラ経営の姿勢

実際、レポートの山場と言えるのは、12ページ目のコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関するセクションかもしれません。

コーポレート・ガバナンスとは一般的に、企業が、違法行為や同義に反する行為、ないしは利害関係者に不利益となる行為をいっさい行わないようにする取り組みを意味します。

とはいえ、テスラのレポート12ページ目に書かれている次の英単語10個からなるシンプルな文章は、その枠を越えた意味を持っています。

テスラは、“正しい行いをする”企業になることを強く望んでいます(Tesla aspires to be a 'do the right thing' company.)。

たしかに、どんな企業でも書きそうな文章であるのはわかっています。

あるいは少なくとも、すべての企業がこう宣言すべきでしょう。私たちは企業に対して、「自分たちは正しい行動を目指している」と言える姿勢を求めています。

たとえ、実際には多くの企業が正しくない行為に手を染めていることを承知していても、そう期待しています。

しかし、テスラのレポートに書かれているこの一文は、それとは少し違います。テスラは、正しい行いをする企業になることを「強く望んで(aspire)」いるというのです。

正しい行為で知られる企業のリストが作成されるときは、ぜひ名前を連ねたいと思っているわけです。

そこからは、いくぶんかの自覚が感じられます。そして、そうした自覚を持つのは、当たり前のことではないのかもしれません。正しい行いをする企業になるためには努力が必要です。そしてテスラは、その努力が大事だという考えを表明しているのです。

なぜこの表明が大事なのか?

自分が熱望することをチームに伝えることで、基準が生まれます。その基準は、社員全員が決断を下す際の判断材料となります。そうした信念とも言えるものは、ありとあらゆる行動に影響を及ぼすでしょう。

どのような人材を採用するのか、その人をどう扱うのか、顧客とどう関わるのか、といったことを決定づけます。リーダーシップを形成することにもなります。

しかし、テスラは必ずしも正しく行動しているわけではありません。

企業は人間から成り立っています。

そして人間とは、いつもこちらの思いどおりに行動するとは限りません。ときには、会社や顧客、利害関係者の利益にならないような決断を下すこともあるでしょう。

リーダーに求められるべきことは、社員一人ひとりが決断する際に、先ほどの英単語10個からなる文章を必ず中心に据えるよう、態勢を整えることです。

自分が強く望んでいる方向へとチームが向かっていくよう配慮すること、それがリーダーの仕事です。全員の賛同が得られない限り、その強い望みは実現しません。

だからこそ、テスラがレポートに盛り込んだこの一文は、効果的なルールだと私は考えます(ルールではないかもしれません。少なくとも、信念と言うことができるでしょう)。リーダーが自ら理想とするかたちをチームに伝えれば、その一部を担ってほしいと、メンバーを招き入れることになります。

何を期待しているのかを明確に描き出すことにもなります。

決断を迫られたときに誰もが、「この決断を下したら、自分たちが望むような企業のかたちに近づけるのだろうか?」と自らに問いかける――。

これ以上にシンプルなことはありません。

Source: 2021年インパクトレポート

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