最近、「ジェンダー」の表現に関する議論が盛んです。

ジェンダーとは、(生物学的でなく)社会的・文化的な性別という意味合い。

「男らしさ」「女らしさ」にまつわる表現に、メスを入れる動きが活発になっているのです。

「無意識の思い込み」が助長する問題表現

わかりやすい例を挙げると、「女医」「女子高生」「女子アナ」など、頭に「女」がつく表現。あまりに見慣れたものですが、なぜ、あえて女性であることを明示するのでしょうか?

これを解くキーワードとなるのが、無意識の思い込みを意味する「アンコンシャス・バイアス」です。

チームの関係性に悪影響を与えてしまう「アンコンシャス・バイアス」とは? | ライフハッカー[日本版]

チームの関係性に悪影響を与えてしまう「アンコンシャス・バイアス」とは? | ライフハッカー[日本版]

職業に「女」をつけるのは、「ふつうは男が従事する仕事であり、女性はまれ」という、アンコンシャス・バイアスが世間で共有されているからではないでしょうか。

また、女性の容姿が過剰に注目されるという問題も指摘できそうです。

こうした「ジェンダー表現」のあり方に一石を投じたのが、書籍『失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック』(小学館)です。

著者は、日本新聞労働組合連合に加盟する新聞社などの記者ら20人。記者が直面した経験を踏まえた上で、SNSによって誰もが表現者になる時代に合わせた手引書です。

今回は本書の一部から、注意したいジェンダー表現をいくつか紹介しましょう。

「女性は家事が得意」という前提がはらむ問題

“女性社長、家庭と両立の秘訣とは”

ビジネス系メディアのインタビュー記事で見かけそうな、この見出し。どこがジェンダー表現上の問題となるのでしょうか。

本書が指摘するのは、育児を含む家事は「女性がするもの、男性は関係ない」「女性は家事が得意なもの」という前提ありきな表現になっている点です。

そして、「男女とも家庭に関わり、育児をすることが求められているこの時代にふさわしい質問かどうか」よく考えるよう促しています。仮に、そうした質問をしたい場合、男性社長にも同様の質問をしてはどうかとも。

では、家事・育児をこなす男性を意味する「イクメン」という表現は?

これについては次のように解説されています。

これらは好意的に取り上げられていることが多いのですが、育児をする男性を特別視することで、「育児は女性がするもの」という固定観念を肯定しているものでもあります。

すべての表現が批判されるべきものではありませんが、安易な「イクメン」扱いには注意したいものです。

「男の料理」など、男性がことさら料理をすることを特別視する表現もあまり好ましくありません。

「内助の功」という美談が意味するもの

“ノーベル賞受賞を支えた妻の内助の功”

この見出しで問題となるのは、「内助の功」という慣用句です。これには、夫の活躍を陰ながら支える妻の功績という意味があります。

もうおわかりと思いますが、この言葉には「妻は必ず支える側である」という固定観念を広げかねないリスクがあります。

文章内でダイレクトに「内助の功」を使わなくても、そうした文脈を醸し出すような表現も要注意。たとえば、

運動部の女子マネジャーが男子部員のために「お守りを作った」「おにぎりを毎日握った」などというエピソードの記事も、夏は特に多く見られます。

たとえ女子生徒が進んでやっているとしても、美談のように取り上げれば、旧来のジェンダー価値観の再生産につながりかねません。(本書より)

では、夫が語る「なるべく妻の家事を手伝うようにしている」という表現はいかがでしょうか。

この場合、注意したいのは「手伝う」という言葉。これには「本来の仕事ではないが、従属的な立場で参加する」という意味があると、本書では指摘されています。これも、家事は本来女性(妻)がすべきものという価値観が、透けて見えるわけです。

その写真に女性が登場する必然性はあるか

ジェンダー表現で留意すべきことは、文章にとどまりません。

商品のパンフレットなどで、若い女性の写真をアイキャッチ的に用いる問題となりえるそうです。

なぜなら、「一歩間違えば女性はお飾りとの固定観念を助長」するおそれがあるからです。これは、報道写真・映像にもつきまとってきた問題です。

新聞社では、高校野球・社会人野球などの観客席の写真で、「絵になるから」と若い女性の撮影をするよう指示されるケースもあります。

高校野球のテレビ中継で流れるスタンドの映像でも、応援する生徒の中で女子の顔をアップにした一場面、見覚えのある光景です。(本書より)

ただ、時代の流れは、変わりつつあります。

本書は、広告業界においてファッション・アイコンの起用にあたり「多様性を重視」した事例が増え、また、新聞記事で男性が商品を持つ写真が見られるようになってきたと言及。

女性モデルを使う必然性がないのであれば、手元だけとか、男女まじえて複数人で撮影する方法も提案されています。


以上の紹介は、ジェンダー表現として問題となりうるポイントのごく数例に過ぎません。本書には情報発信者なら避けては通れない、つまずきやすい表現やその改善策がわかりやすく解説されています。

職業として文章を書く方から、個人的にSNSを活用している方まで、一読されることをおすすめします。

Source: 小学館