投資で失敗したくない──誰もがそう考えることでしょう。しかし、リスクのない人生はないことと同様に、リスクのない投資は存在しません。

未来を見通す投資思考」特集では、本格的に投資をはじめる前に知っておきたい投資の基本原則から思考法、現在の最新トレンドや最先端のテクノロジー投資、FIREを実現したエピソードなども交えて、「未来を見通す」投資をするために必要なことをお伝えします。

今回は、日本の個人投資家に向けて、ロボアドバイザーによる資産運用サービスを提供する「ウェルスナビ」CEOの柴山和久さんが登場。

前述の通り、「なるべく損をしないで、確実に資産を増やしたい」と多くの人がそう願う一方、そこに“失敗の原因”があると明言する柴山さん。その理由やロボアドバイザーのメリット、投資で失敗しないために押さえておきたい知識など、これからの投資の思考法について伺いました。今回は前編です。

柴山和久(しばやま・かずひさ)

柴山和久(しばやま・かずひさ)

「誰もが安心して手軽に利用できる次世代の金融インフラを築きたい」という想いから、プログラミングを一から学び、2015年4月にウェルスナビ株式会社を設立。2016年7月にロボアドバイザー「WealthNavi」をリリース。起業前には、日英の財務省で合計9年間、予算、税制、金融、国際交渉に参画。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務し、10兆円規模の機関投資家をサポート。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。著書に『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』(ダイヤモンド社)がある。

日本で投資が一向に浸透しない2つの理由

海外と比較すると、まだまだ投資をする人が少ない印象がある日本。その理由は大きく2つあると柴山さんは話します。

1. 資産運用のニーズがなかった

退職金や終身雇用の制度に守られていたかつての日本は、コツコツと貯金をしていれば、資産運用をしなくても定年を迎えられ、老後は安泰でした。

一方、アメリカを例にとると、アメリカ人の個人金融資産に占める預貯金の割合は13%ほど。これは、アメリカに退職金や終身雇用といった制度がなく、多くの人にとって資産運用が必要だからという背景があります。

終身雇用が崩壊しつつある現代の日本社会も、今後は正しい資産運用について知ることが必要だと言えます。

2. 「長期・積立・分散」をグローバルに行なう方法がなかった

現在、海外の機関投資家や富裕層にとってスタンダードな資産運用といえば、「長期・積立・分散」です。

【「長期・積立・分散」とは】

  • 10年以上(できれば20年以上)の長期投資
  • 毎月、一定の金額を投じる積立投資
  • 世界中のさまざまな資産への分散投資 

…上記3つを組み合わせる投資手法のこと


しかし、1990年代まではグローバルに投資を行なうツールがなく、自国内での投資が一般的でした。

1990年~2020年にかけて世界経済は約3.5倍に成長しましたが、日本の経済成長率は停滞していました。これでは、日本国内に投資を行なっても元本割れになることがほとんどで、長期投資を続けられる人は少なかったそうです。

その代わりに、日本で主流になったのが「安い時に買って高い時に売る」という短期投資。値動きが大きいほうがリターンも大きくなるので、FXや仮想通貨が好まれる傾向がありました。

短期投資は失敗した際の損失も大きくなりがちなことから、「投資は怖い」というイメージが広がっていったと柴山さんは指摘します。

投資しない「預金」だけの選択肢はもはやリスク

投資にはリスクがつきものであり、「ノーリスクで年3%ずつ資産が増える」といった投資商品はありません。とはいえ、ただ預金しておくことにもリスクがあると柴山さん。

「今、物価の上昇や、同価格でも食品のサイズが小さくなっている事象が盛んに報道されていますよね。

このように、物の値段が上がると預金の実質的な価値は下がっていきます

日本の場合、直近20年間はデフレが続いていたので、こうしたリスクが“預金”にあることが忘れられていました」(柴山さん、以下同)

今後も少しずつ物価が上がると考えると、投資のリスクと同程度に「預金のリスク」にも意識を向けるべきだと柴山さん。

「損をしない」「資産を減らさない」ことを主眼とするなら、物価上昇のペースに合わせて資産も増やしていく必要があるのです。

人は資産運用すべきじゃない? 原因は「脳」にあり

イギリス財務省への出向時代、日本円にして数千億円、兆円単位のお金を扱うプロジェクトに携わっていた柴山さん。

ところが、個人で投資をしてみたら大失敗の連続だったそう。著書『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』(ダイヤモンド社)では、その経験が赤裸々に語られています。

では、一体なぜ自分のお金になるとうまくいかないのか? 多くの場合、その要因は「人間の脳」にあると柴山さんは話します。

「行動経済学では、人間の“直感”が正しい投資行動を妨げてしまうことを示す多くの研究が行なわれており、2002年と2017年にはノーベル経済学賞を受賞しています。

つまり、人間の脳は資産運用に向いていない。脳は、たとえ一時的でも“損をすること”を極端に嫌うため、直感に従うと判断を誤ってしまうのです」

人間の脳が正常な判断を妨げる実例として、2つのケースを柴山さんが解説してくれました。

1. 正しい「リバランス」ができない

リバランスとは、資産配分の最適なバランスを保つ取引のことです。たとえば以下のようなケース。

  • 資産配分:【株式70%、債券20%、残り10%】がベストと想定して運用を開始
  • 市場の動き:株式の価格が債券と比べて上昇。資産全体に占める割合が増加

投資の基本は「安く買って高く売る」。よってこの場合、「株式を売って債券を買う」が“正しい判断”です。

ところが統計データでは、株式が値上がりしていくと、多くの投資家が株式を追加で買っています。その一方で債券が下がっていくと、追加で買うのを躊躇ったり、マイナスが膨らむのを恐れて売る人が多くなるのだそうです。

2. 見通しが立っていても正しく行動できない

提供: ウェルスナビ

上図のように1月に1万円だった株価が、4月に6500円になるまで下がり続け、その後は上がり続けて12月に1万1000円になったとします。

この場合、

  • 1月から月10万円の積立投資をしたAさん
  • 4月に株価が底を打ってから月15万円の投資をはじめたBさん

どちらの資産が増えたでしょうか? 投資の合計金額はどちらも120万円です。

このケースでは、多くの人が「Bさん」と回答します。しかし実際には、12月時点でAさんは154万円、Bさんは149万円。相場が下がった時も投資を続けたAさんのほうが、安く投資できた分リターンも高くなりました

この問題のポイントは、多くの人が「Aさんは損をしそうだ」と直感で予測してしまうことだと柴山さん。

平均の購入価格を比べれば明白なのに、直感があまりに強く、見通しが立てられる場合であっても、冷静に計算して行動しようという思考を脳が妨げるといいます。

“脳が発するノイズ”は「ロボットで回避」が正解

行動経済学の研究では、「損をすること」による感情の揺れは、「得をすること」による感情の揺れの約2倍になるとのこと。先のAさんのように、資産が下がるタイミングで投資を続けることに、脳は強い恐怖を覚えます。

野菜や果物なら「安い時にまとめ買い」ができるのに、リーマンショックのような金融危機が発生すると、後で相場が上がるとわかっていても不安になって売りたくなる…。

こうした“脳が発するノイズ”を回避するうえで役立つのが、資産形成の新たなツールとして注目される「ロボ(ロボット)アドバイザー」。柴山さんが創業した「ウェルスナビ」は日本における先駆的サービスです。

「海外の富裕層は自分で資産運用をせず、プライベート・バンカーに任せて『長期・積立・分散』の運用を行なうことで、感情による失敗を防いでいます。

個人がプライベート・バンクを使うには莫大な資産が必要でしたが、今はテクノロジーによって誰もが同等のサービスを受けられるようになったのです」

資産運用のアルゴリズムは、資産が10億円でも100万円でも同じ。余計な感情が介在しないロボアドバイザーを活用すれば、誰でも公平な資産運用が可能と柴山さんは語ります。


「ウェルスナビ」CEO の柴山和久さんに聞く、これからの投資の思考法。後編では、ロボアドバイザーの仕組みとともに、投資を始める前の準備や投資商品の組み合わせ方など、より具体的なポイントをレクチャーします。

後編は5月17日(火)に公開予定です。

Source: ウェルスナビ, Amazon.co.jp