この記事を読む前に、まずは以下に記した一連の数字を見てください。
この中に、仲間はずれの数字が1つあるのですが、それはどれでしょうか?
- 14
- 40
- 68
- 96
この問題の回答をあれこれと考える間、脳はいくつかの作業を行なっています。
それぞれの数字を読みとり、選択肢のリストを眺め、計算を行ない、その結果を頭に刻みます。それと同時進行で、追加の計算を行ない、答えを導き出します。
こうした認知的タスクを行なう際、頭には一時的に情報が保管されます。この機能は一般的に「作業記憶(ワーキングメモリ)」と呼ばれます。
そして、この作業記憶は、ビジネス世界のプレゼンテーションでも非常に重要な役割を担っているのです。
どうしてでしょうか?
最初に挙げた問題では、正しい答え(おそらくもうおわかりかと思いますが、正解は40です)にたどり着くために、頭の中で計算をしたはずですが、この作業は、プレゼンの際に発表者が聞き手に求めていることと同じなのです。
要するに、一連の項目を眺め、その内容を一時的に頭に刻み、それを頼りに結論を導き出すという作業です。
短期記憶と作業記憶
一部には、作業記憶を短期記憶と同じものだと考える人もいますが、この2つは微妙に異なる概念です。
短期記憶では、情報を操作することなく、ただ保存します。一方の作業記憶は、一時的に頭にある情報を使って、何らかの作業を行なうという含みがあります。
アメリカの大統領10人のリストを渡され、その名前を頭から記憶して暗唱するよう頼まれたなら、このタスクは短期記憶です。
一方、この10人の名前をアルファベット順に読み上げるようにと頼まれたなら、こちらは作業記憶になります。
プレゼンで情報を提示している時、発表者は聞き手に対して、自分が示した情報を、ただ記憶するように求めているわけではないはずです。
聞き手が本当に言いたいことを頭に刻み、それを理解し、自分のビジネスの文脈に当てはめたらどうなるかを思い描き、具体的な項目に関心を向け、将来に備えて計画する――さらに、それ以上のことも求めていることでしょう。いま挙げたタスクはすべて、作業記憶を必要とするものです。
では、次回のプレゼンで、この作業記憶を有意義かつ効果的な形で利用するにはどうしたら良いでしょうか?
ここでは、認知科学の考え方に基づく3つのルールをお教えしましょう。
1. 「記憶の干渉」を起こさないよう留意する
プレゼンテーションの中で、同じような項目があまりにたくさん並んでいると、ある記憶がほかの記憶に影響を受ける「記憶の干渉」現象が起きます。これは、作業記憶の大敵です。
たとえば、あるプレゼンで、「写真が左、テキストが右」というフォーマットが、大半のスライドで使われていたとしましょう。すると、時が経つにつれて、これらのスライドに載っていた情報が混ざり合ってしまうのです。
記憶の干渉は、順向(以前に見たプレゼンの項目が、今見ているプレゼンと似ていて混乱する)と逆向(今見ているプレゼンと似た内容をあとで目にして混乱する)、どちらの形でも起きるおそれがあります。
特に、逆向の干渉は、発表者にとって深刻な問題です。人は「物事を忘れるのは時間が経ったからだ」と考えがちですが、多くのケースで、人が誰かに会って聞いたことを忘れてしまうのは、そのあとで起きた出来事によって記憶が置き換えられてしまうからなのです。
では、この記憶の干渉を防ぐ対策はあるのでしょうか?
まずは、プレゼンが終わったあとも長い間覚えておいてほしいことをはっきりとさせ、ほかと差別化してプレゼンすることで、聞き手の作業記憶に必要な情報がしっかりと残るようにしましょう。
たとえば、聞き手にどうしても覚えてもらいたい3つの大切なアイデアがあって、それがプレゼンでは、3つのカラムに分けて、1枚のスライドに表示されていたとします。この場合、この3カラムのレイアウトは、この3つのアイデアを示す時だけに使うようにしましょう。
さらに、この差別化された情報を何度も提示して、聞き手の作業記憶を更新します。作業記憶に蓄えられている情報は、約30秒ごとに古いものから新しいものに置き換えられます。そのため、作業記憶に強烈に情報を叩き込みたいなら、何度も繰り返すことを検討すべきです。
2. 素材をグループ化して、作業記憶に記憶されやすくする
仮に、聞き手に覚えてもらいたい重要なメッセージに、12の項目があるとしましょう。この場合、12のコンセプトを別々に記憶してもらおうとするよりも、3つか4つのグループにまとめるべきです。こうすることで、聞き手が項目を正確に記憶できる可能性が高まります。
このテクニックが有用なのは、作業記憶が認知機能に負荷をかけるタイプのタスクだからです。そのため、あまりに過剰な負担をかけると、聞き手は、よりラクに処理できるものを求めてよそに行ってしまいます。
ですから、プレゼンの内容は、作業記憶に優しい、グループ化可能なやり方で示してください。
グループ化には、「一般的な名前のカテゴリーに分ける」やり方と、「具体的な内容に言及する」やり方の両方があります。
たとえば、データ分析ソリューションに関するプレゼンテーションを行なっているのであれば、3つのグループに概要的な名前をつけて、「わが社のソリューションには、視覚的分析、高度な分析、ストリーミング分析の3つがあります」と説明するやり方があります。
また、より具体的に話すなら「わが社のソリューションには、ダッシュボード、機械学習、リアルタイム分析の3つがあります」と説明するやり方もあります。
どちらのやり方を選ぶかは、聞き手が、ざっくりした概要をつかむことと、より詳細な中の仕組みを知ることのどちらを重視しているかによって決めてください。
3. 新しいコンセプトを、なじみ深いものと結びつける
科学界では今、作業記憶について、「注意+長期記憶=作業記憶」という公式が成り立つのではないかとの説が検討されています。
この公式が意味するのは、認知的タスクを実行するために頭に何らかの情報を保存しておくには、まずはそれに注意を払い、同時に長期記憶を活用する必要があるということです。
ですから、聞き手に何か新しい情報を伝え、作業記憶を刺激したいのなら、まずは、注意を喚起するようなテクニックを使う必要があります(たとえば、鮮やかな色を使う、コンテンツを動かす、サイズや位置を変えるといったことです)。
さらに、この新しい項目を、聞き手の長期記憶に既に存在している概念と結びつけなければなりません。
たとえば、複数の構成要素がある、複雑なクラウドのインフラについてプレゼンを行なうとしましょう。この時は、大半の要素をグレーで表示しつつ、一部に鮮やかな色を使うことで、聞き手の注意をそこに誘導することができます。
さらに、たとえ話を活用しましょう。「市場に出回っているほかのソリューションは、工事現場の足場のようなものです。ユーザーを次のレベルに持ち上げてはくれますが、建物の基礎になるほど堅固ではありません。でも、当社のソリューションならそれが可能になります」といったようにです。
この戦略は、鮮やかな色で聴衆の注意が向かう方向性を導き、同時に、「足場、建物、基礎」という視覚的なたとえを使うことで、長期記憶も利用しています。このように伝えれば、聞き手の脳のリソースに負担が生じないので、ほかの要素にも注意を向けてくれるでしょう。
人にコンテンツを提示する際、発表者は相手に対して、情報を認識し、保存し、思い出し、再現するよう求めています。聞き手の全体的な認知能力は、作業記憶の容量に制約されますし、気が散る要素があると、作業記憶の能力はさらに低下します。
特に、気が散る要素が山ほどあるバーチャル環境では、この記事で解説したガイドラインを使って、聞き手の作業記憶が機能しやすい環境をつくることが、今までに増して重要になるはずです。
Source: B2B Decision Labs
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