これまでに上司がいる環境で働いたことがある人なら、おそらく上司からフィードバックをもらった経験があるでしょう。さらに、そのフィードバックは、俗に「シット・サンドイッチ」と呼ばれる方法だった、という人もいるはずです。

これは、その名のごとく、相手に対する苦言を褒め言葉で挟む情報伝達の手法です(「プレイズ(褒め言葉)・サンドイッチ」という別の呼び名もありますが、その内実は、この名前ほど良いものとはとても言えません)。

「シット・サンドイッチ」の構造

このアプローチでは、最初に部下の働きぶりの一面を褒めておいて(これが下の「パン」になります)、次に苦言を述べ(これが「シット」の部分です)、最後に再び、部下が持つ価値を褒めたり認めたりする言葉で締めます(これが上の「パン」にあたります)。

よく使われているこのテクニックの根拠となる理論は、ケン・ブランチャードのベストセラー『The New One Minute Manager新1分間マネジャー』ですっかり有名になりました。

その理論とは、この「苦言を褒め言葉で挟む」というフォーマットを使って、批判の前後に良いところを褒める発言を入れることで、フィードバックを受けた部下の側は、上司の言葉に傷つきにくくなるというものです。

つまり、批判というコンビーフを、褒め言葉というライ麦パンのスライスで挟めば飲み込みやすくなるというわけです。

この手法を使う表向きの目的は、受け手の気持ちを思いやり、フィードバックをより受け入れやすくすることです。

でも実際には、この方法で気分が良くなるのは、フィードバックを与える上司のほうだけで、受け手の部下は不安や警戒感を覚えたり、混乱したりしてしまうことが多いものです。この方法は、一部の人に対しては有効ですが、逆効果になってしまいがちなのです。

今回は、その理由を解き明かすとともに、代わりにどんなフィードバックの方法をとるべきなのかをご紹介しましょう。

理由1. 部下は上司の作戦に気づいている

部下の側は、この「シット・サンドイッチ・ロデオ」を経験するのはこれが初めてではない人が多いでしょう。

そのため、上司のあなたが最初の褒め言葉を言い終える頃には、すでにこの手法が使われると思って身構えているはずです

そして、「どうせこの後『ただ、君の悪いところは…』という話になるのだろう」と考えて、以後の話に耳を貸さなくなってしまうのです。

理由2. 嘘臭く感じられる

短い褒め言葉を前後に挟む形式にのっとって苦言を呈すると、台本通りに話を進めているように感じられ、せっかくの賞賛の言葉も、本心からではなく表面的でとってつけたような印象を与えてしまいます

相手の話に「型」の存在を感じ取るやいなや、聞き手は、自分が耳にしている褒め言葉は形式を整えるために無理やりひねり出されたもの、すなわちフェイクだと受け止めてしまいがちです

理由3. 人はマイナス面に意識が向かいがちな性質がある

「今日の仕事ぶりは素晴らしかったね! ただ、プレゼンは必要以上に長い印象が残りました。今後はもっと短くするように心がけてください。

それでも、提供された情報は、チームにとって非常に役立つものでした」

このように上司から声をかけられたら、部下のあなたはこの発言をどう捉えますか?

「自分は素晴らしい仕事をした」「プレゼンで長々と話しすぎたようだ」という2つの印象のうち、どちらを受けとるでしょう? 

超自信家だという人なら、この発言の裏にある「プレゼンは退屈だった」という含意を、あえて読み取らないで済ませるかもしれません。

でもこうした場合、最初と最後にある形ばかりの褒め言葉には注意が向かず、ミスの指摘ばかりが気になるというのが、より自然な感情でしょう

理由4. マイナス面の指摘に気づかない場合もある

時には、このシット・サンドイッチの展開がスムーズすぎて、マイナス面を伝えるというフィードバックの目的そのものが曖昧になることもあります。

この点に関して、シカゴ大学の教授で行動科学が専門のAyelet Fishbach氏が、ある実験を行なっています

実験の中で、教授は自身の教室の学生を半分に分け、一方の学生に、もう片方の学生にネガティブなフィードバックを与えるよう命じました。すると、受け手の側の学生は、批判されたにもかかわらず、「自分たちは良い成果を挙げている」という感情を抱いたというのです。

このような結果が出た理由についてFishbach氏は「ネガティブなフィードバックは、直接的な表現を避けた、具体性に欠けるものになりがち」だからだと解説しています。

「シット・サンドイッチ」に代わる方法は?

フィードバックは、人の成長や発展のために不可欠なものです。上司の期待に添うと同時に、当然ですが個々人の仕事上のスキルを向上させるという目的に適った形で実行される必要があります。

では、フィードバックはどのような形をとるのが望ましいのでしょう? 以下に有力な代替案を挙げましょう。

Inc.の記事によると、Googleのエンジニアリング担当ディレクター、Sarah Clatterbuck氏は、ポッドキャスト「Grey Matter」のあるエピソードで、明確なフィードバックを与えるために自身が編み出した必勝法について、こう明かしていたそうです。

1. 部下のステップアップを阻んでいる行動に言及する。

2. なぜその行動が問題を引き起こしているのかを説明する。

3. その行動の重要性について、聞き手の部下に改めて考えてもらう。

4. 最後に、その行動を修正する道筋を、部下自身が導き出すように仕向ける。

このエピソードでClatterbuck氏が披露していた例では、同氏は最初に部下に対して、「あなたはリスクの重大さを見積もる時に、読み違えをすることが多いですね」と話しかけています。

次に、中止されたPRキャンペーンや、古いアプリの継続サポートなどの実例を挙げて、それぞれの事例の重要度を詳しく振り返ります。

続いて、「なぜこの点が重要なのかわかりますか?」と問いかけ、部下が自分なりの認識を説明するのを待ちます。

そして最後に、「こうした読み違いが今後起こらないようにするために、何をすれば良いと思いますか?」と問いかけます。

これによって、行動を変える責任を部下の側に差し戻します。そうすることで、ただ上司の考えに従うように命じるよりも、より効果的に状況の改善を目指すわけです。

効果的なフィードバックに欠かせない7つの要素

それでは、望まれる結果を得る可能性を最大限高めることができる、効果的なフィードバックのあり方について、ベストプラクティスを以下に挙げていきましょう。

1. フィードバックを受け入れる意思があるか、部下に確認する

もちろん、相手が聞く耳を持っているかどうかにかかわらず、絶対に伝えなければならないフィードバックもあります。

でも、差し迫ったものでないのなら、まずは次のように尋ねてみましょう。

「あなたの仕事のやり方について、いくつか気づいたことがあるので話をしたいと思います。フィードバックを聞くつもりはありますか?」

組織心理学を専門とするAdam Grant氏によれば、フィードバックを聞くかどうかを自分で決められる場合、人は相手の意見に対するガードが緩くなるということです。

2. 意図を明確に説明する(あくまでも、相手を思いやる立場からの発言と示す)

上司が、フィードバックを通じて部下を助けたいという心からの思いを伝えれば、部下の側も、より前向きにその言葉を受け取る気持ちになるでしょう。

部下を信頼し、その可能性を信じているからこそフィードバックを与えている」ことが伝わるように心がけましょう。

カリフォルニア大学バークレー校が刊行する雑誌「Greater Good Magazine」の記事には、このような記載もあります。

ある研究では、「私があなたにこのような話をするのは、私がとても高い期待を抱いていて、あなたなら達成できると思っているからだ」との言葉を本題の前に添えるだけで、フィードバックの効果が40%アップしたことが判明しています。

3. ほかの人が見ていないところで話す

可能な限り、部下が同僚に囲まれている状況でフィードバックを与えるのは避けましょう。

人前でのフィードバックでは、聞く側が驚きや敗北感、力不足といった感情を覚える可能性がありますし、バツの悪い思いを味わうのは確実でしょう。

4. 人格ではなく、気になる行動に焦点を当てる

フィードバックの内容は、上司であるあなたが実際に目にした行動に関するものとし、部下の全人格に関わるような発言は控えましょう

漠然とした印象で断じるのではなく(「最近、あなたの仕事には手抜きが目立ちますね」)、具体例を詳細に挙げる(「この前のプレゼンテーションにはいくつかスペルミスがありましたね」)ことです。

5. オープンな議論を促す

フィードバックでは、一方通行なやり方を避けましょう。常に相手の部下に発言を求め、率直な議論を促しましょう

フィードバックを与える時は、これがあくまで上司である自分の個人的な意見であることを認め、部下の見解に関心があることを示しましょう。

「私が見落としていることが何かありますか?」「あなたはどう受け止めますか?」といった言葉をかければ、率直な話し合いのきっかけづくりになるでしょう。

6. 言葉以外の部分にも気を配る

言葉は、人が伝えるメッセージの一部にすぎないことを肝に銘じましょう。

私たちは、話している間を通じて、顔の表情や体の動きでも情報を伝え続けています。笑顔や、頷く仕草、オープンな姿勢を示すボディランゲージ(腕を組まずに広げるなど)とともにフィードバックを与えれば、同じ情報を顔をしかめ、目を細めて伝えた時と比べて、受け手の側は良い印象を受けるでしょう。

7. 率直に、頻繁にフィードバックをする

世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創設者であるレイ・ダリオ氏は、著書『Principles for Dealing With the Changing World Order: Why Nations Succeed and Fail(原題)』の中で、「継続的で、意図が明確で、嘘のないフィードバック」を行ない、さらにこれを議論やオープンな心構えと組み合わせることで、最高の学習体験が得られると説いています。

こうしたフィードバックを継続的に提供することが、技能を磨く方法として一番効果的だ。

さらにダリオ氏は、フィードバックを受ける部下の側にも、以下のようなアドバイスをしています。

真実については、何も恐れることはないと胸に刻みましょう。

現実を理解し、受け入れ、効果的な向き合い方を学ぶことは、成功をつかむための不可欠な要素です。

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優れた上司が否定的なフィードバックをしない理由|科学の視点から考える | ライフハッカー[日本版]

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Source: The Ken Blanchard Companies, Amazon, The New York Times, Inc., SoundCloud, Greater Good Magazine, American Psychological Association, Harvard Business Review, Principles