コロナ禍に伴って外でお酒を飲む機会が減り、「気がつけば自宅での飲酒量が増えていた…」という方も少なくないはず。
『名医が教える飲酒の科学 一生健康で飲むための必修講義』(浅部伸一 監修、葉石かおり 著、日経BP)の著者も、どうやらそのひとりであるようです。
ネット通販で購入した5リットルの業務用ウイスキーがあっという間に空になったとき、「さすがにこれはまずい」と気づいたというのですから。
さすがは自称「酒ジャーナリスト」だなぁと感じさせるエピソードですが、しかし、それは多くのお酒好きにあてはまることでもあるでしょう。コロナ禍は多かれ少なかれ、お酒との向き合い方を考える機会になったに違いないのですから。
だとすれば、そんなときに求められるべきは、お酒が人間の体に与える影響をできるだけ科学的に、客観的に把握すること。
酒を飲み過ぎれば病気になることは、誰しも頭では理解している。しかし、そうは言っても飲む量を減らしたくないのが酒好きというもの。
だから、どれくらい飲めばどんな病気のリスクがどれほど上がるのか、なるべく正確に把握したい。人によって体質は異なるが、自分が酒を飲むことでどんな病気に気をつけたほうがいいのかが分かれば、少しは安心して酒が飲めるようになるはずだ。
そこで私は、世の酒好きを代表して、さまざまな病気のスペシャリストや、酒の人体への影響について研究する専門家のもとを訪ね、その専門的な知見をできるだけ分かりやすく解説してもらった。それをまとめたのが本書である。(「はじめに」より)
こうした思いに基づく本書のなかから、第2章「後悔する飲み方、しない飲み方」内の「コロナ禍のひとり自宅飲みはキケンか」に注目してみましょう。
コロナ禍で飲酒量が増えたのはどんな人?
コロナ禍の影響で家にいる時間が長くなった結果、自宅で飲むお酒の量が増えたというのは、世界的に共通する傾向なのだそう。事実、著者が周囲のお酒好きに聞いてみたところ、以下のような声が返ってきたのだといいます。
「仕事が終わったら移動せずにすぐ飲めるし、終電を気にしなくてすむ」
「テレワークだと早起きしなくていいから、ダラダラ遅くまで飲んでしまう」
「旅行にも行けず、その分、ぜいたくなテイクアウト料理や酒を買ってしまう」
「飲むことしか楽しみがない」
(79ページより)
ただでさえコロナ禍でストレスがかかっているのですから、お酒を飲みたくなっても無理はないのかもしれません。とはいえ、そんな状態が続けば健康に被害がおよぶ可能性もあるわけです。
そこで著者は、飲酒と健康についての研究を手がける筑波大学准教授・吉本尚さんに、「コロナ禍で酒量が増えてしまった人の抱える問題」について聞いたのだそうです。実のところ、コロナ禍で酒量が増えている人は多いのでしょうか?
「酒量が増えているという話は、あちこちから耳に入ってきます。懸念しているのは、アルコール依存症で断酒していた方がコロナ禍で再びお酒を飲み始めてしまう、「コロナ・スリップ」です。3密(密閉・密集・密接)の観点から自助グループの集いができなくなっていることが大きな要因です」(吉本さん)(80ページより)
通勤がテレワークに変わったり、子どもや家族が毎日すぐ近くにいたりと、コロナ禍の影響でビジネスパーソンの環境は激変しました。
それどころか、コロナがきっかけで休職や失職を余儀なくされ、精神的にダメージを受けた方もいることでしょう。そのため、抱え込んでしまったストレスの解消法としてお酒を選んでしまう人も少なくないということです。
「この変化にすぐ順応できる方は心配ないのですが、そうではない方は、なんとかしてこの不安を忘れたい、ストレスを解消したいという思いから、ついお酒に走ってしまうこともあるかもしれません」(吉本さん)(80ページより)
時間に余裕ができ、外部の監視の目もないだけに、飲みやすい状況になってしまっているということのようです。(78ページより)
ストレスを解消するために飲む人が危ない
では、そんななか、実際に酒量が増えやすいのはどういう人なのでしょうか?
「最も危険なのは、アルコール依存症をはじめとする精神疾患を抱えている方です。そして、監視の目がないひとり暮らしも、ストッパーがないので危ないですね。
また、ストレス解消のツールがお酒で、これまで外飲みがメインだった方が、終電を気にしなくてずっと飲んでしまうのも問題です」(吉本さん)(80ページより)
外飲みがメインだった人が「外で飲めなくなったから酒量が減った」というのであればいいものの、飲むことしかストレス解消法がなく、自宅でも飲めるようになった結果、酒量が増えてしまうのであればそれはやはり問題です。
吉本さんは、「ストレスを受けやすい、いわゆる『タイプA』と言われる人も危ない」とも言う。
「タイプAとは心理学の用語で、せっかち、怒りっぽい、競争心が強い、積極的な行動パターンを示す人を指します。このタイプは喫煙、多量飲酒などに陥りやすく、かつ日常的なストレスを受けやすい傾向にあります。
協調性が求められる日本において、タイプAの行動パターンは表に出しにくいこともあり、外飲みでストレスを発散していた人もいると考えられます」(吉本さん)(82〜83ページより)
自宅で酒量が増えたとしても、楽しい気分でいられるのならまだいいそう。怖いのが、酒量が増えるにつれて「オレなんかどうせダメだ」とネガティブになってしまう人。
罪悪感や自責の念を払拭するために、さらにお酒を追加するようになると、さらに危険だといいます。
たしかに、お酒を飲んで楽しい気分になれないのであれば、それほど残念なことはありません。したがってそういうタイプの方は、酒量をコントロールする必要がありそうです。(81ページより)
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見逃せないのは、本書を通じて得た知識と専門家のアドバイスのおかげで、著者自身が飲酒量を減らせたという事実。
だからこそ、「酒瓶とともに本書をそばに置いていただきたい」のだそうです。この週末、好きなお酒を飲みながら、ぱらぱらとページをめくってみてはいかがでしょうか? あくまでも、「飲みすぎ注意」ということで。
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Source: 日経BP