「手伝ってほしい」と人に頼みごとをしたり、「助けてほしい」とお願いしたりするのは、とかく気がひけるもの。
とくに日本人に「人に頼ることを苦手とする」人が多いことは、調査によっても明らかとなっているようです。
けれども、これからは“弱音を吐きやすい社会”“誰もが困っていることを打ち明けやすい社会”にしていかなければならない。そう主張するのは、医学博士である『社会人に最も必要な 「頼る」スキルの磨き方 あなたの力を120%発揮させる「伝え方+考え方」』(吉田穂波 著、KADOKAWA)の著者です。
ちなみに本書のテーマは「受援力」であり、それは「他の人から助けられることをよしとする力」を指すのだそう。
受援力は、人口減少が続き、新型コロナウイルス感染症予防で人との対話が生まれにくくなっている日本社会において、ますます重要性を増す力です。
聞きなじみのない言葉かもしれませんので、本書ではこの力を、しばしば「頼るスキル」と言い換えます。「頼る」という言葉にネガティブな響きを感じるかもしれませんが、そんなことはありません。
むしろ「人に頼るスキル」は、社会にとって最も必要な能力の一つといっても過言ではないのです。(「プロローグ」より)
受援力という力は、同じ人であっても、本人のメンタリティや環境によって上がったり下がったりするもの。ならば、折れない受援力をレジリエンス(ストレスに対応するしなやかさ)につなげ、いつでも発揮できるようにすればいい。
こうした考え方に基づき、“助けられ上手”といわれる人たちに注目。その「元祖・受援力人」の共通要素を抽出しながら、公衆衛生学、コーチング理論、脳神経科学などの科学的な知見を整理したのが本書だということです。
きょうはそのなかから、第6章「心理的安全の高い職場と社会をつくろう」に焦点を当ててみたいと思います。
SOSを出しやすくなる「心理的安全性」とは?
著者はここで、職場の雰囲気に関わるキーワードとしていま注目されているという「心理的安全性」について触れています。
これは、Google社が“チームのパフォーマンス向上のためには、心理的安全性を高める必要がある”と重要性を発表して以来、多くの企業や組織に関心が広がっている概念です。
簡単に言うと、心理的安全性が高いというのは、「一人ひとりが自分らしく働いている状態」「安心して何でも言い合えると感じる状態」「否定されない、拒絶されないと感じる状態」です。(201ページより)
受援力を発揮するために自分の弱みをさらけ出すには、心理的安全性が確保されている必要があります。誰かに助けを求めようとしても、心理的安全性が担保されていなければ対話は表面的なものになってしまうため、実りを生み出すことができないわけです。
場合によっては相手への恐怖や怒りが生じることすらあるため、つい助けを求めることを避けてしまうことも考えられるでしょう。
したがって私たちがSOSを出すためには、「なにをいっても非難されない、ダメ出しされない」「勇気を出してリスクを取っても(他の人とは違う意見を口にする、自分の失敗を白状するなど)、嘲笑されたり悪口をいわれたりしない」と思える安全性が担保されていることが重要であるわけです。(200ページより)
心理的安全性と「頼る力」の関係
逆に、受援力を発揮するためには、“自分が心理的安全性を感じられる人”をたくさん見つけておくことも有効。といっても特別な人ではなく、たとえば近所で立ち話ができる人でもOK。
日ごろからさまざまな人と会話を交わし、相手の人となりを知り、「知人」レベルの人をつくること。それが私たちのソーシャル・キャピタル(人間関係資本)の基盤になるわけです。
「悩みなどを誰かに相談することは恥ずかしくないと考えている人が多い地域では、自殺が少ない」という研究結果もあるそう。
つまり近所づきあいやそれほど親しくない関係性のなかでも受援力を発揮できる土壌をつくっておくことに意味があるのでしょう。
また、こうしたことは、これから社会に出ようとしている若者のみならず、若者を送り出す立場の人、応援する立場の人、若い社会人の上司にあたる人にも押さえておいてほしいと著者はいいます。
あなたが誰かの上司である場合、あなた自身は「部下が心理的安全性を感じられる人」になっているでしょうか?(202〜203ページ」より)
なかには、自分自身が「ひとりで自分の人生を切り開いていきなさい」「なんでも自分で解決できるようになりなさい」と教えられてきたため、同じことを部下に伝えている人もいるかもしれません。しかし、そのように教えられた若い人が本当に苦しい立場に置かれたとき、迷わずSOSを出せるでしょうか?
部下を応援する立場の人こそ、受援力を肯定し、それを鍛えさせる姿勢が必要。若い人たちや部下に対し、「がんばっているあなたは助けられていいし、守られていい」「ひとりで立ち向かわなくてもいい」「必ず誰かが手を貸してくれる」「いつでも連絡しておいで」と伝えることができるのは、受援力の大切さと難しさを理解している上の世代なのです。(202ページより)
心理的安全性と「管理職の責務」
心理的安全性を担保する最良のアプローチは、従業員が助けを求めることを恥じたり恐れたりしないような、組織としての文化を持つことです。
経営者は自ら心を開き、従業員との信頼関係を構築し、本心を語る習慣と風土を作る必要があります。また、厳しい言葉にも耳を傾ける覚悟を持たなくてはなりません。(204ページより)
そうした組織文化をサポートする仕組みをつくりはじめるのに、遅すぎるということはないと著者は断言しています。管理職の方は、部下と人間的な話し合いができるように、仕組みや環境の構築に努めるべきだとも。
コロナ禍で立ち話すらできないようであれば、アンケートを取ってみたり、定期的な電話ミーティングをするなど、さまざまな方策を試してみるのもいいようです。(203ページより)
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リモートワーク全盛のいま、新しく入社したばかりの社員が、自宅で孤独に働いているようなことも少なくないはず。だからこそ受援力を「社会人にとってもっとも必要なスキルのひとつ」と捉え、「頼る」ことをスキルとして身につけるべきなのかもしれません。
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Source: KADOKAWA