「10秒でどれだけのことが伝えられる?」と問われたら、どのように答えるでしょうか?
このことについて『10秒で好かれるひとこと 嫌われるひとこと』(佐藤綾子 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は次のように述べています。
私が40年間専門にしているパフォーマンス心理学の研究では、10秒の間に人間は約44文字(漢字、ひらがななど区別なく句読点含む)を話せることがわかっています。
10秒で視覚から入る要素は1億、脳で処理できる要素は400ですが、言葉は約44の要素しか伝えられないのです。情報量の差は歴然です。
だからこそ、44文字という限られた情報を戦略的に使うことには価値があります。(「はじめに」より)
なんとなく発してしまいがちな“10秒間のひとこと”を意識することで、コミュニケーションの質がぐっと上がるということ。多忙な現代人にとって、これは見逃せないポイントではないでしょうか?
そもそも1秒ごとが大事な時間なのに、10秒あったらその10倍の気持ちが伝わるということなのですから。
著者が主催するビジネススキル研修でも、常に「10秒スピーチ」を実施しているそう。10秒という時間を効果的に使うことで、相手の心をつかめるのはもちろん、ある特定の目的に沿って相手の気持ちを変えられることもわかってきたのだといいます。
ただし、それは「意識し、正しいルールを知って日常的に練習していれば」の話。そこで本書では、「お願いする」「謝罪する」「いいにくいことをいう」「自己アピールする」「共感する」「ほめる」「叱る」「本音を引き出す」という8つのテーマについて、それぞれ“10秒の使い方”を解説しているのです。
きょうは第6章「やる気を引き出すほめ方」の中から、2つをピックアップしてみましょう。
プロジェクトの下調べが完璧だった部下に声をかけるとき
10秒で嫌われる
✖️
すごいね。
新人の君がそんなことが
できるとは驚いたよ。
(25文字)
10秒で好かれる
○
忙しい中で必要な準備を
しっかりと進めてくれて、
本当に助かったよ
(31文字)
この場合のポイントは、「過小評価するようなことばはやる気を下げる」ということ。「新人の君がそんなことができるとは驚いた」とは、裏を返せば「まさかできるとは思えなかった」という解釈にもなります。
つまり相手のことを「できないはずの人」だとみていたことが露呈してしまい、相手は、ほめられたのか、けなされたのかわからない状態になってしまうわけです。
また、「すごいね!」という雑なほめ方では「自分の具体的になにが評価されているのか」が伝わらないため、今回ほめられたことを今後に生かせない可能性も出てきます。
一方、「助けられた」というメッセージで実力を評価すれば、相手は気持ちよく話しての評価を受け入れられるもの。また、このいいかたは「忙しいなかでも必要な準備をした」ということを高く評価していること、すなわち具体的な評価のポイントをわかりやすく伝えてもいます。
これなら部下も、なにを忘れずにいれば高く評価してもらえるかを学べるので、今後の仕事のやりかたに生かせるはず。(194ページより)
板挟みになっているリーダーをほめるとき
10秒で嫌われる
✖️
山田主任、ありがとう。
この最悪の事態で気をぬくと
大変なことになるから
さらに頑張って
(41文字)
10秒で好かれる
○
山田主任、大変な時期にこれだけの
努力をしてもらって、
僕は本当に励まされていますよ
(40文字)
前者の問題点は、脅すようなことばはやる気につながらないということ。せっかく「ありがとう」というセリフを口にしたのに、その後が心理的な分類で「脅迫的動機づけ」の範疇に入るというのです。
ちなみに脅迫的動機づけとは、「勉強しないと落ちるよ」などとネガティブイメージを強調して相手にメンタルな緊張を与えてがんばらせる手法。
しかし、それでは相手にプレッシャーをかける表現になってしまいます。そればかりか、相手がおとなしい性格だと大きなストレスにつながり、うつなどに追い込みやすくもなるそう。
ただでさえ最悪の事態で緊張している相手に、余計ストレスを与えてしまう「脅迫的動機づけ」は、相手を潰してしまうことがあるので注意が必要だといいます。
対する後者は、「自分も助かっている」というイメージを伝えることが可能。大変な状況下でがんばっているタイミングを逃さずに、お礼のことばをかけたことに意味があるわけです。
また、ほめるときはこのように、「相手の行動によって自分がどのように恩恵を受けているのか」をしっかり伝えることも大切であるようです。(202ページより)
*
気になったテーマ、場面から読むことが可能。またビジネスシーンや日常での具体的場面を設定し、「好かれるひとこと」「嫌われるひとこと」の例が紹介されているので実用性抜群。手もとに置いておけば、なにかと役に立ってくれそうな一冊です。
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Source: ディスカヴァー・トゥエンティワン