人が集まれない? コロナ時代のオフィスのありかたとは?

「グッドカンパニー研究」当シリーズでは、多様な働き方を考えるカンファレンス 「Tokyo Work Design Week」 を主催し、現代における様々な「働き方」を探求、「ヒューマンファースト研究所(※)」の外部アドバイザーでもある横石 崇さんが、時代をリードする企業のオフィスを訪問取材。

オフィスのありかたから垣間見える企業の理念やコミュニケーションに関する考え方、その企業らしい新しい働き方を探究し、「グッドカンパニーとは何か」を探ります。

いま世界中でオフィスのありかたが見直されています。次の一手のために必要なことは何なのか? 企業にとってのGOODを追求することでそのヒントが見えてきます。(横石 崇)

第4回は、日清食品ホールディングス株式会社 東京本社のNISSIN GARAGEへ。

ここは、「ニューノーマルな働き方の追求」をコンセプトに、「生産性200%の達成」×「原点回帰によるハングリー精神の再燃」の2つを軸として2021年3月に竣工したオフィスです。

「ガレージ」という名前の通り、各部門のブースや会議、収納スペースが建築資材に使用される単管パイプなどで構成されているため、まるで秘密基地のようなワクワク感も感じられる「NISSIN GARAGE」。

机や椅子は可動式なので、ソーシャルディスタンスを確保しつつ、フレキシブルにワークスペースを可変させることができます。

その独創性が評価され、「第34回 日経ニューオフィス賞」や、世界三大デザイン賞のひとつに数えられるドイツの「red dot design award 2021」など、世界各国のデザイン賞を多数受賞したことでも注目されています。インテリアデザインは、連載第2回でオフィスを取材したコクヨ株式会社が担当しています。

そんなオフィスから見えてきた新しい働き方とは?

グッドカンパニー研究 Vol.4

【調査するオフィス】

日清食品ホールディングス株式会社/東京都新宿区

【話を聞いた人】

日清食品ホールディングス株式会社 総務部 主任 關(せき) 倫太郎さん

創業者のハングリー精神に回帰する「NISSIN GARAGE」

横石 崇さん(以下敬称略):まずは、なぜ「NISSIN GARAGE」をつくられたのか、少し遡って教えてください。

關 倫太郎さん(以下敬称略):弊社では、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、2020年からリモートワークを基本とした勤務体制にいち早く変更するなど、社員の働き方が大きく変わりました。

このタイミングでとった行動がターニングポイントとなり、ここで変革を成功させた企業が勝ち残っていくのではないかという考えのもと、変化をマイナスに捉えるのではなく、“潜在能力を発揮するチャンス”とポジティブに捉えることにしたんです。

そのために、まずはニューノーマルな働き方をサポートするオフィスを構築しなければならないと考えました。

「NISSIN GARAGE」は、日清食品の創業者である安藤百福が「チキンラーメン」を開発した研究小屋(ガレージ)をイメージして創り上げました。このオフィスには、2つの大きな狙いがあります。

ひとつは「生産性200%の達成」

現在は、出社と在宅勤務を使い分ける「Hybrid work(ハイブリッドワーク)」が基本となっています。こうした状況でオフィスに求められるのは、在宅勤務では叶わない「コミュニケーション」と「クリエイティブな発想」を誘発する場所としての機能です。

そこで、様々な部門の社員の間で「カジュアルコリジョン(偶発的な出会い)」を誘発させ、新たなアイデアやクリエイティブな発想を創出する空間を目指してオフィスを設計しました。

もうひとつは「原点回帰によるハングリー精神の再燃」

自宅の裏庭に建てた研究小屋で「チキンラーメン」を開発した創業者のように、社員にもハングリー精神を再燃させてほしいとの思いから、一般的なオフィス家具や什器を使わず、「ガレージ」をイメージしたワクワクするような空間設計を目指しました。

また、2020年度は、弊社の5か年にわたる中期経営計画の目標達成がほぼ確実な状況でしたが、「成長一路、頂点なし」という創業者の言葉のもと、現状に満足せずさらなる高みを目指してほしいというメッセージも込めています。

「NISSIN GARAGE」が備える3つの要素

横石:「時代の変化に対応するのではなく、変化をつくり出せ」という、創業者・安藤百福さんの名言を思い出しました。新オフィスには、どのような変化を盛り込まれましたか。

關:「NISSIN GARAGE」を構築するにあたり、3つの要素を定めました。

要素1.COLLISION(コリジョン)

アイデア同士をぶつけ合うことで、よりよいひらめきが生まれる。

  • 基本的にはフリーアドレス制として、座る場所は自由。また、部署ブースの拠点を定期的に移動する「お引越し制度」で、異なる部署と相互に交じり合い、会話の機会を増やす。
  • “寄り合いスペース”は、エアロバイク型のチェアやアートワークを置いて楽しげに。
  • 単管パイプや木製の家具など、従来のオフィスでは触れることのない素材を多用することで、自由でクリエイティブな発想を刺激する。

要素2.GATHER(ギャザー)

Image: 日清食品ホールディングス

意識的に価値観の違う人たちと集まることで、より豊かな会話・想定外の気づきを得る。

  • エントランスには、チェキボードを設置。各部署のメンバーが手書きしたメッセージで、他部署の社員への興味を誘発する。
  • アクリルパネルは置かず、可動式の机や椅子を密にならないように移動させることで感染予防対策を徹底。
  • 各部署が個別に所有していた書籍や備品は、「共有備品」として一か所にまとめ、省スペース化を実現。

要素3.CHANGE(チェンジ)

現状に満足せず、周囲の環境と自分自身を変えることで仕事をもっと効率的に進めていく。

  • 創業者の研究小屋をイメージした空間デザインで、現状に満足することなく、クリエイティブな発想を探求する姿勢を引き出す。
  • 部署ブースや会議、収納スペースは単管パイプで構成し、スペースの可変性を高めることで、アフターコロナなど様々な環境変化にも順応。
  • 打ち合わせスペースや一人用スペースも単管パイプで区切り、密を避けつつ集中できる空間に。

現在、「NISSIN GARAGE」は、マーケティング、営業、宣伝、デザインなどの社員 約300名が利用しています。座席数は180ですが、現在は出社率の上限を25%に設定しているため、各自がスペースを広々と使用しています。

業務に集中するのはもちろん、キッチンで試食をしたり、パッケージデザインをチェックしたり、打ち合わせをしたり、ときには会話を楽しんだりと、働きながらも、自然とコミュニケーションが生まれる空間になっています。

本業以外はアウトソース。集中力がクリエイティブを育む

横石:關さんをはじめ総務部の主導でオフィスをつくるにあたって、もっとも重視されたのはどんなことですか?

關:社員一人ひとりが本来の業務に集中できる環境をつくることですね。

このオフィスには固定電話が1台もありません。固定電話を設置すると、それに付随して誰かが必ず電話当番のために出社しなければならず、さらには電話の取り次ぎも発生して、業務効率が悪くなってしまいます。

社員は基本的に携帯電話を使用し、代表電話の対応は外部にアウトソースしています。

また、郵便物や宅配便の受け取り、備品の管理などは、「オフィスコンシェルジュ」という形で日清食品ビジネスサポートプラス株式会社(NBSプラス)に委託しています。

NBSプラスは、障がいを持った方たちの雇用促進を目的に設立した特例子会社で、以前はゴミの回収や清掃業務がメインでしたが、「NISSIN GARAGE」の竣工にあわせて、新たな業務に取り組んでいただきました。

宅配便や郵便の受領などの業務を「オフィスコンシェルジュ」が担うことで、ほかの社員が本来の業務に集中できる環境が整い、生産性の向上に貢献していると感じています。

また、オフィスコンシェルジュ業務を通じて、日清食品の社員とのコミュニケーションが生まれることで、NBSプラス社員のモチベーションの向上に繋がるとともに、グループ全体のダイバーシティの推進にも貢献していると考えます。

横石:日清食品さんのホームページを拝見していたら、「EARTH FOOD CREATOR」というグループ理念が目に飛び込んできました。

そうか、日清食品という会社はクリエイターの集まりだったんだと。それを見た瞬間に、斬新なCMや、新商品がどんどん生まれてくる理由が腑に落ちた気がしたんです。

新しい価値を作り出さねばならない仕事だからこそ、集中力を削ぐ要素を徹底的に減らすよう工夫されているんですね。

オフィスは、構築後の「運用」が勝負

横石:1年間経ってみて、狙いのひとつである「カジュアルコリジョン」の手応えは、いかがでしたか?

關:スマートフォンの位置情報機能を利用して社員の動きを確認しているのですが、一定の時間に異なる部門の社員とどの程度遭遇したかを算出したデータがあります。

提供:日清食品ホールディングス
提供:日清食品ホールディングス

左が「NISSIN GARAGE」で、右が従来のオフィスのデータです。

「NISSIN GARAGE」のデータがカラフルなのは、様々な部署の社員同士が頻繁に遭遇していることを示しています。対してリニューアル前のオフィスは社員の移動が少なく、近隣の部署としか遭遇できていないことが分かります。

横石:なるほど、「カジュアルコリジョン」の結果として生産性が上がるというデータが導き出されたら、組織研究における大発見にもつながりますね。

關:そうですね。生産性を数字で測るのは難しいですが、「NISSIN GARAGE」のようなオフィスであれば、出社する人数が限られている状況でもコミュニケーションが生まれやすいことが分かってきました。

とはいえ、『フリーアドレス制でもお気に入りの場所で毎日仕事をしたい』など、席を固定してしまいがちな社員もいるのが悩みの1つでした。

そこで、定期的に部署ブースの場所をシャッフルする「お引越し制度」を運用しています。机や椅子はすべて可動式ですし、部署ブースは単管パイプで分けているので、簡単に移動できるんです。

横石:それはすごいですね! オフィスという箱を作って終わりではなく、ソフトの部分で運用していく。それはオフィスをつくる側が、意外と忘れがちな視点かもしれません。關さんたちがそこまで踏み切ることができた理由はなんですか?

關:「NISSIN GARAGE」で結果を出し、それを生かして次のオフィスをつくっていくためには、データの蓄積、分析といった運用が欠かせません。

オフィスのデザインや機能だけでなく、データを活用した運用から変化を起こし、会社に貢献できる仕組みをつくることも、我々バックオフィスの役割だと思っているからです。

ウェルビーイングが向上し、楽しみながら働けるオフィスをつくる

關:全社員を対象に、コロナ禍におけるHybrid workのメリット・デメリットを調査するアンケートを人事部主導で行ないました。

その結果、『在宅勤務だと仕事とプライベートと両立しやすい反面、コミュニケーションが取りづらい』という社員の思いがあることが分かりました。

やはり対面に勝るコミュニケーションはないため、フランクに人と会話できる環境が必要であり、それが出社することの大きなメリットだと考える社員が多くいました。

横石:コロナの影響で、チームメンバーや同僚らと日常的に交われる場所がオフィスなのだとしたら、そこに期待することはこれまでより、たくさんありますよね。

これまでオフィスは、作って終わりというか、終わらざるを得ない部分があったと思います。しかし今は、テクノロジーの進化によりデータの蓄積や運用ができるようになった。これまで以上にオフィスづくりは可能性に満ちています。

最後に關さんが考えるこれからのオフィス、そして「いい会社」のあり方について聞かせてください。

關:オフィスでの働き方も日々変わっていく状況ですが、私たちがこれからもクリエイティブな仕事をしていくためには、働きやすさはもちろん、やはり「カジュアルコリジョンによるコミュニケーションの促進」を追求することが重要だと思います。そういったところを、オフィスという空間でサポートしていけたらと考えています。

「いい会社」像ですが、働くことでウェルビーイングが向上していくことが重要ではないでしょうか。社員の心身が健康であることは、本人にとっても会社にとっても非常にハッピーなことですから。

オフィスの見学中も、横石さんに「(働いている人たちが)楽しそうですね」というお言葉を何度かいただきました。オフィスをつくる立場からの意見にはなってしまいますが、『社員が楽しみながら働ける会社=いい会社』と言えるのではないかと思います。

横石:關さんは本当に、オフィスの話をしていると楽しそうです。關さんのお人柄も含めて、僕もこのオフィスが大好きになりました。

<グッドカンパニーとは|取材を終えて>

ある研究によれば、今まで具象画しか描かなかった子どもに抽象画を見せるだけで、自ら具象を離れて抽象画を描けるようになるという。

アートが触媒となって、凝り固まった思考から創造性を解放させてくれるように、オフィスも触媒となって従業員のクリエイティビティを高めることに寄与できるはずだ。

一見すれば、「生産性200%」という目標は無謀にみえるかもしれない。でもオフィスに行けばわかった。日清食品は本気だ。何気ない出会いを信じるということは、イノベーションを信じることに他ならない。

「時代の変化に対応するのではなく、変化をつくり出せ」という創業者の言葉は、商品づくりだけにあらず組織づくりにも生き続けている。(横石 崇)


ヒューマンファースト研究所(HUMAN FIRST LAB):野村不動産株式会社が2020年6月に設立。企業や有識者とのパートナーシップのもと、人が本来保有する普遍的な能力の研究を通じて、これからの働く場に必要な視点や新しいオフィスのありかたを発見、それらを実装していくことで、価値創造社会の実現に貢献する活動を行なっている。

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制作協力:ヒューマンファースト研究所(野村不動産)

聞き手: 横石崇 文: 田邉愛理 撮影: 千葉顕弥