精神科医が教える 毎日を楽しめる人の考え方』(樺沢紫苑 著、きずな出版)の著者は、1日の終わりに「きょうあった楽しい出来事を3つ書く」という「3行ポジティブ日記」を勧めているのだそうです。

根底にあるのは、「人生は楽しむためにある」という考え方。自分にとって楽しいことを積極的に見つけ、新しいことにチャレンジしていくことで、人生は圧倒的に楽しくなるということです。

私は、精神科医として「情報発信を通してメンタル疾患を予防する」ことをビジョンとして掲げています。何とかして「うつ病」「自殺」を減らせないか、といつも考えています。

結論として、「毎日が楽しい!」と言える人は、大きなストレスもなく、そう簡単には「うつ病」にもならないし、「自殺」もしないのです。(中略)

「今日1日、楽しかった!」と言える人が1人増えると、「メンタル疾患になる人が1人減る」のです。(「はじめに」より)

趣味や娯楽で「毎日が楽しい」と感じることができれば、日々のストレスが減ることは間違いなし。そして「メンタル疾患」になる人も、大きく減るはず。そう考えるからこそ、著者は本書においても、人生の楽しみ方、毎日の楽しみ方について解説しているわけです。

きょうはそのなかから、第2章「『遊び』『楽しむ』の5つのすごい効果」に注目してみたいと思います。

仕事ができる人は打ち込める趣味を持っている

著者によると、テレビの人物ドキュメント番組などに登場する成功者には、間違いなく共通点があるのだそうです。

キーワードは、「情熱」「熱中」「夢中」「没入」。目の前のことに夢中になれる、時間を忘れるほど集中する、ひとつのことに特化して、深めることができるということ。

そして、一流の仕事人ほど、一流の趣味を持っていることが多い。それこそ、人に教えられるレベルまで、「遊び」や「趣味」を極めているのです。

あるいは、自分の「気分転換」や「リラックス」。仕事に熱中できるのは当然として、余暇時間においても「極上の時間」を持っている。そして、その「極上の時間」への熱中が、本業へのモチベーションや創造性とつながっているのです。(53ページより)

人物ドキュメント番組から著者が抽出したのは、「なにかに夢中になり、無邪気に楽しめる人が成功する」という法則だといいます。それほど、熱中できること、夢中になれること、没入できることは大切なのでしょう。(52ページより)

楽しめる人が成功する脳科学的な理由

「仕事ができる人」の多くは、歯を食いしばって余裕なく仕事をしているのではなく、前向きに仕事を楽しんでいるもの。仕事が終わったらプライベートも楽しみ、すべてにおいて充実しているため、余裕すら感じられたりもします。

つまり仕事がうまくいっている人は、仕事やプライベートを楽しんでいるということ。それは、「楽しむ人が成功する」ということでもあるはずだと著者は指摘しています。だとすれば、その理由を知りたいところ。

その答えは、脳科学的には、実にシンプルです。

「楽しむ人」は、ドーパミンを味方にしているからです。(54ページより)

幸福物質とも呼ばれるドーパミンが分泌されると、「楽しい」「うれしい」「ワクワクする」といった幸せでポジティブな感情に包まれるというのは有名な話。

たとえば目標を達成したとき、仕事、スポーツ、趣味などで結果を出したとき、ボーナスや臨時収入が入ったとき、人からほめられたときなどに分泌されるわけです。

何か大きな目標を達成したときに限らず、「TO DOリストを1つこなした」という小さな目標達成でもドーパミンは分泌されます。

あるいは、おいしいものを食べ、おいしいお酒を飲んで、「おいしい! 幸せ!」と感じるとき。物理的な刺激でも、ドーパミンは分泌されます。

また、運動をして「実にさわやか! 今日は、良い運動ができた!」というときにもドーパミンが出ています。(55ページより)

ドーパミンを分泌する脳の回路は「報酬系」と呼ばれ、なにかを達成したり、報酬を得たときなどに活性化するそう。

ドーパミン自体が脳にとってのご褒美、報酬なので、分泌されると「楽しい」「うれしい」という気持ちになれるということ。

さらには「もう一度その楽しみを得たい」と思うため、「次もがんばろう!」とモチベーションが高まるわけです。(54ページより)

ドーパミンでスーパーマンになれる?

ドーパミンが分泌されると脳が活性化するため、集中力や記憶力がアップして、学習効率が高まることに。「もっとがんばろう」と、意欲やモチベーションが上がり、ポジティブな感情が湧いて、物事に前向きに取り組めるようになるということです。

ラットの迷路実験では、ドーパミンの前駆物質(脳内でドーパミンに変換される)。を注射したラットは、そうでないラットよりも、早く迷路を脱出することができます。

ドーパミンが分泌されると、明らかに記憶力などの脳機能が高まるのです。(56ページより)

ここからわかるのは、「楽しい」と感じてドーパミンが分泌されると、記憶力、集中力が高まり、モチベーションがアップするということ。頭が活性化され、脳のパフォーマンスが飛躍的に高まるのです。そんなドーパミンのことを著者は、「記憶増強物質であり、学習物質であり、モチベーション物質です」と表現しています。

ドーパミンは「楽しむ」だけで分泌されるわけですから、「楽しむ」だけでスーパーマンになって、圧倒的なパフォーマンスを発揮できる! こんな簡単なことがあるでしょうか。(57ページより)

そういう意味で、「楽しむ人が成功する」ということは脳科学的に見て間違いないのだそうです。(56ページより)

新型コロナを筆頭に不安の多い時代ですが、そんななかにあっても自分の力で毎日の「楽しい」「うれしい」「おもしろい」は容易につくり出せるもの。

大変な時代だからこそ、あえて「遊び」や「楽しむ」ことの重要性を伝えたい。著者のそんな思いが軸になった本書は、楽しく生きていくためのヒントを与えてくれるかもしれません。

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Source: きずな出版/Photo: 印南敦史