僕は決して誇れるものが多い人間ではありませんが、「自分にはこれがある」と思える数少ないスキルのひとつが「文章」です。もちろん、素晴らしい文章を書ける人なんか世の中にはいくらでもいます。けれど、少なくとも自分では「書く仕事は天職だな」と感じているのです。
今年は「ライフハッカー」で書評を書き始めて10年目ですが、ほぼ休むことなく毎日書き続けてこられたのも、そんな気持ちがあるから。「書くことが好き」という気持ちが、モチベーションを高めてくれたのかもしれません。
そんなこともあり、「いつの日か、自分にしか書けない『文章術』を書きたいなぁ」と密かに思い続けてきたのですが、その結果として生まれたのが新刊の『「書くのが苦手」な人のための文章術』(印南敦史 著、PHP研究所)。タイトルからもわかるとおり、文章を書くことに多少なりとも苦手意識をお持ちの方に向け、文章との向き合い方や書き方などをまとめた一冊です。
というのも、この仕事を続けるなかで、「書くこと」に苦手意識やコンプレックスを抱いている人は少なくないと実感することがよくあったのです。しかも感じるのは、書く前から「自分は文章が苦手」「書けない」と決めつけてしまっている人が意外に多いこと。
けれど、それは間違いだと思います。
難しいと思い込んでいるから難しく感じ、書く気がなくなっていくだけの話。そもそも、僕たちは物心ついたときから(稚拙ながらも)文章を書く最低限の能力は持っているものです。いま書けないとしたら、そんな根源的な部分を忘れているか、あるいは見ないようにしているだけのこと。(「はじめに」より)
だから、もっと楽に考えればいい。それこそが、本書でお伝えしたかったこと。
とはいえ、「でも、書く気が起こらないんだよなあ。自分が書かなくても困る人はいないし…」などと考えてしまう方もいらっしゃるはず。
そこできょうは第1章「書く前に知っておいてほしいこと」のなかから、「それでも書く気が起こらないときの3ステップ」をご紹介したいと思います。
① DROP(ドロップ):思いついた単語を書き殴る
書けない場合、その理由のひとつとして挙げられるのは「考えがまとまっていない」こと。アウトプットしたいことはいろいろあるはずなのに、それらを整理できていないため、うまく文章化できないわけです。そこで、まず最初のステップとしておすすめしたいのが「ドロップ」すること。
“DROP”は「落とす」という意味ですが、要するに思いついた単語をノートや紙の上に投下する、すなわち書き殴ってみるということです。(69ページより)
書き殴ればいいだけですから、順序や決まりは必要なし。むしろこの段階では、きっちり整頓することは避けるべきです。なぜなら、ただ思いついたものごとを無目的に書いていくこと、それ自体に意味があるから。
つまり目的は、「頭のなかを整理すること」。思いをドロップしていけば、自分が本当に描きたかったことの輪郭が少しずつ見えてくるわけです。(68ページより)
② EDIT(エディット):単語同士を紐づける
クラブ・ミュージックの世界でもしばしば使われる“EDIT”(エディット)は、「編集」を意味することば。いいかえれば、“いまある素材を組みなおす”ことです。
紙の上にドロップした単語を俯瞰し、「どれをどう組み合わせれば、文章としていちばんかっこよく(わかりやすく、伝わりやすく)なるか」を考え、順序を入れ替えたりしてみるのです。
たとえばここでは、「カップ」と「コーヒー」という2つの単語をエディットしたときの例を挙げています。
・いいデザインのカップを買ってきたので、さっそくコーヒーを淹れてみた。
・このコーヒーを飲むためには、ティーカップはふさわしくない。コーヒーカップを買いに行こう。
・コーヒーを飲むときにカップを替えてみたら、味まで変わったような気がした。コーヒー豆は同じなのに。
・コーヒーを淹れたことを忘れていて、冷ましてしまった。電子レンジで温めなおしたが、味が変わった気がして後悔した。
・デザインは同じだけれど色の違うカップを3つ買ってきた。朝、コーヒーを飲むときには、その日の気分に合わせて使い分けている。(70〜71ページより)
あくまでひとつの例ではありますが、「カップ」と「コーヒー」を感覚的にエディットしてみるだけでも、このようにいろいろな文章をつくることができるのです。(70ページより)
③ REMIX(リミックス):“書きたいこと”のリミックス
“REMIX”(リミックス)も、エディットと同じくクラブ・ミュージックの用語。要は「ミックスしなおす」「再構築する」というような意味です。
エディットと似ているので違いがわかりにくいかもしれませんが、基本的には「もとからある素材を抜き差しして“違ったもの”にする」のがエディット。
そして、「もとからある素材に、新たに違う楽器の音など“もともとそこになかった要素”を加え、エディット以上に“違った感じ”のサウンドを生み出す=つくり変える」のがリミックスです。
個人的には、文章についても同じことがあてはまると考えています。最初にドロップした単語を並べながら、「ここにはないけど、いま思いついたこの単語を加えたら、違ったタイプの文章になるんじゃないだろうか?」というように、新たなものを加えたりしてみる。そういう作業のなかから、自分だけの文章が生まれるわけです。
上では「カップ」と「コーヒー」だけでみましたが、ここにREMIX感覚で新たな要素を加えてみましょう。
・コーヒーを飲むときにずっと使っていたカップが欠けてしまったので、ペン立てとして使うことにした。気に入ってたから捨てたくなかったし、このカップはこれから新しい人生を歩むことになるのだ。
・ふと、ずいぶん前に使っていたカップでミルクを飲んでみた。そうしたら、昔よく聴いていたDJ KENSEI & SAGARAXXの『COFFEE & CIGARETTES BAND』のことを思い出した。飲んでいたのはミルクなのに。(73ページより)
このように、やってみればいくらでもイメージをふくらませていくことができるのです。
これら3ステップは、文章を書くことに慣れるためのエクササイズとしてとても有効。ぜひ試してみていただければと思います。(73ページより)
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ご紹介したのは“入り口”の部分ですが、決して難しい内容ではないことはおわかりいただけたのではないでしょうか? 他にも、毎日書き続けてきた経験に基づくトピックスが満載されていますので、気軽に手にとっていただきたいと思います。「書く」ことについてのストレスを、きっと解消できるはずです。
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Source: /Photo: 印南敦史