シン・営業力』(天野眞也 著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、ロボットや自動機に取りつけるセンサや測定器、カメラなどをエンジニアや工場向けに販売するキーエンスで、18年にわたり営業を担当してきたという人物。

2010年に独立・起業し、メーカー数十社の営業向けコンサルティングを行ったのち、現在は製造業向けソリューションを提供する複数の企業の代表を務めているのだそうです。

注目すべきは、営業畑を歩んだ約30年のなかで、“ある日突然、お客様から大型案件の依頼が舞い込む”ということが数え切れないほど起こったという点。考えられないような話ですが、そこには理由があるようです。

ポイントは「営業しなくてもお客様から選ばれてしまう営業」ということです。そんな「営業しない営業」ともいえる営業の理想の状態になるための極意を、私はキーエンスの営業として仕事をした18年間のなかで磨き上げました。(「プロローグ」より)

そして本書では自身の経験を軸として、「対人折衝力」がとくに必要といわれてきた「従来の営業力」ではなく、これからの時代にこそ求められる営業力を「シン・営業力」と定義。「選ばれ続ける営業」=「営業しない営業」になるための独自メソッドを紹介しているのです。

きょうはそのなかから、未来に必要な営業としての考え方や姿勢について解説された第7章「シン・営業力」のマインドセットに焦点を当ててみたいと思います。

ギバーな営業であり続けよう

著者はこの項で、アメリカの心理学者であるアダム・グラントの著作『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房 2014)を引き合いに出しています。

ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、グラント氏は『フォーチュン』誌の「世界でもっとも優秀な40歳以下の教授40人」にも選ばれた大学教授であり、気鋭の学者。

そんな彼の提唱する人づきあい理論は著者が大切にしている生き方と合致しており、これからの営業においても非常に重要なヒントになるというのです。

グラント氏は、人は3つのタイプに分類できるとし、それらを「ギバー」「テイカー」「マッチャー」だと定義しました。

それぞれの意味は、「ギバー」が“他人に惜しみなく与える人”。「テイカー」が“自分の利益を最優先する人”。「マッチャー」が“損得のバランスを考える人”となり、この比率は平均を取ると、ギバー25%、テイカー19%、マッチャー56%になるのだそうです。(220〜221ページより)

著者は、営業という仕事の本質は間違いなく「ギブ(与える)」ことだと思っているのだといいます。

営業の仕事とは、「お客様が事業・ビジネスを進める一歩目をつくる仕事」。お客様を主体者とし、お客様にとって価値のある提案をするということ。つまり、営業としての行動原理は「お客様に、もっとも得をさせる」ことだというわけです。得をさせるのですから、それはまさに「ギブ(与える)」。

著者も常に、「どうすればお客様が儲かるか」についてのアイデアや、お客様とのシナジー(相乗効果)を考え、行動に移してきたのだそうです。

「お客様に、最も得をさせる」と考えた提案なわけですから、本心として「ぜひお客様の利益になりますので、聞いていただきたい」と思っていますし、何より自信を持って堂々とお客様にプレゼンできます。(222ページより)

その結果、大きな契約を獲得できただけにすぎないということ。もし契約に至らなかったとしても、お客様の利益のためにさまざまな情報提供や提案に費やした時間を「無駄だった」と感じたことがなかったそうです。なぜなら、お客様から強いられたことではなく、自分がした選択だから。

「ギバーな営業であり続けたい」遠い思いの根底には、そんな考え方があるわけです。(220ページより)

「売るための営業」だと、楽しめない

日本にはまだ、「営業=売る」という感覚が根強く残っていると著者は指摘しています。それは、会社からノルマを課され、「なんとしてでも売らなければいけない」という環境下で営業の仕事をしている人が多いからなのかもしれないとも。

しかし、行動原理が「何としてでも売る」だと、「売る」ためにお客様に対して必要以上にへりくだったり、お客様の言いなりになってしまったり、あるいは強引な手段に出たりします。

そしてその行動の繰り返しによって、営業自身が疲弊していき、ある時こう思うのです。「自分はなんでこんなことをやっているんだろう?」(224ページより)

じつは著者自身が、かつては「ギバー」ではなかったのだといいます。新人時代から数年は「売る」ために営業活動をしており、営業成績は良かったものの、毎日ハードに目標を追う日々のなかで独りよがりな行動をしていたというのです。顔には出さなかったものの、つらく、悩むこともあったようです。

しかし、そんな著者を変えてくれたのが、お客様の存在。

ギバーの担当者、ギバーの決裁者、ギバーのファン・大ファン……「量」を意識して多くのお客様と出会ってきたなかで、外部の人間である私に気持ちよく接してくださった方々、営業としてでなく、ひとりの人間として親身になってくださった方々がいました。それをきっかけに、お客様の利益を一番に考えずに提案をしてしまっていた過去の自分を大変恥ずかしく思い、「自分もギバー(与える人)でありたい」と心を入れ替えたのです。(225〜226ページより)

そうした経験があるからこそ、もし「(いまは違うけれど)自分もギバーになりたい」という気持ちがあるなら、まずは本心としてギブの精神を持てなくとも、意識と行動から始めてみてほしいと著者はいうのです。

どうしたらお客様の利益につながるかを意識し続けていると、おのずと行動は変わっていき、また行動によって意識が強化され、本当の意味で「お客様のため」を考えられるようになっていくはずだから。(224ページ)

「営業力」を再定義するべきタイミングが、なぜ“いま”なのか? それは、「営業は、売ることが仕事である」という価値観ではもはや通用しない時代になっているからなのだと著者は主張しています。そんな考え方を念頭に置き、本書を参考にしながら新たなメソッドを身につけてみてはいかがでしょうか。

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Source: クロスメディア・パブリッシング/Photo: 印南敦史