お金とは、完全に人為的につくり上げられたリソースです。
現代では、お金は文字通り、何もないところから生み出されています。さらに言えば、物理的に存在することさえ必須条件ではなくなりつつあります。巨額の財産が、ブーンとうなりを上げるサーバーに保存された「1」と「0」の数字で表現されているのです。
おまけに、通貨の価値でさえ、不可解なアルゴリズムによって上下しています。そのアルゴリズムの仕組みを本当の意味で理解している人など、ほとんどいないにもかかわらずです。
私たち人間とお金との関係も、不可解なものになっています。社会における本当の重要性がものすごく低そうな人たちが莫大な報酬を手にする一方で、文明社会の屋台骨を支えている人たちが最低レベルの賃金で働かされています。
それを思うと、私たちの大半がマネーを、映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場する「フォース」のようなものとして捉えているのも無理はないでしょう。「ダークサイド(暗黒面)」が強いのはわかりきった話だ、というわけです。
私たちは、フォースの善の力を信じるオビ=ワン・ケノービに自分をなぞらえながらも、勝つのは常にダークサイド側のダース・ベイダーなのだと考える傾向にあります。
インパクト投資に関しても、こうした否定的な見方がはびこっています。
インパクト投資に向けられがちな否定的な意見
インパクト投資とは、社会や環境をより良いものにする具体的な変化を、社会全体にもたらすことを目的とした投資戦略です。
そしてこうした投資戦略に対しては、「確かに志はご立派だが、たとえばソイレント・グリーン(1973年のSF映画に登場する、特権階級以外の人たちが食べる合成食品の名)に投資した時ほどはもうからないだろう」という、皮肉な目を向けられがちです。
けれども、本当にそうなのでしょうか?
最悪を想定するほうが、ずっと簡単なのは世の常です。それは一部には、「インパクト投資みたいなものは無益だ」と決めつければ、何もしないことの言い訳になるからです。「自分たちのお金で、この世界をより良い場所に変えようとしても損をするだけなのから、こんなものに関わり合わないのが正解だ」というわけです。
一方で、インパクト投資を提唱する人たちはしばしば、実はこうした投資戦略は、より倫理性が低いアプローチよりも運用成績が良いのだと主張します。
実際のところは、話はもっと複雑です。
投資家によって「戦術」も「目標」もさまざま

最初に知っておくべきなのは、ひと口にインパクト投資といっても、その実態は一枚岩ではないということです。その戦術や目標は、投資家によってさまざまに異なります。
「インパクト」の部分に100%フォーカスし、自分たちが望む変化が実現できるなら、リターンが多少低くてもかまわないという投資家も、確かにいます。
しかし、大半のインパクト投資を行なう人たちは、ほかの要素と同じくらい、利益も重視しています。
実際、資産運用に関わる多くのインパクト投資家は、受託者責任を負っています。これは、自身の投資戦略で最大のリターンを得て、委託者の利益につなげることを目指すという責任のことです。
つまり、「良い社会変化への後押し」と「資産を増やすこと」の間で、バランスを取らなくてはならないわけです。
さらに、インパクト投資家のなかには、これとは別のレベルで影響力を行使しようとする人たちもいます。自分たちが掲げる目標に沿った企業や政策を支援することに注力する投資家たちもいますし、「エンゲージメント」戦略を採用する投資家もいます。
これは、ターゲットとした企業の株を大量に保有し、株主として、自分たちが望む前向きな変化を起こすよう働きかけるというものです。
インパクト投資から生まれるデータの重要性
実際、インパクト投資には、ある単純な理由から、メリットがあると考えられています。それは、分析に使えるデータの量を増やすという側面です。
投資は情報戦です。あるセクターに関して理解を深め、その内部で起きていることについて多くのデータを得ているほど、賢い選択をして大きなリターンを手にする確率は高まります。
投資家としての目標が何であれ、より多くのデータを得ることは、常に良い方策です。
これは重要なポイントです。というのも、「環境・社会・ガバナンス(ESG)」の概念が、世界中で重視される傾向が強まっているからです。
つまり、あなた自身が「もの言う投資家」になることに関心があるか否かに関係なく、自分の投資がESGの世界にどう関わっているかを知ることが、その投資からどれほどのリターンを得られるかを推測するために不可欠ということです。
「邪悪になるな」というモットー
ここまでの話でわかるように、インパクト投資は、決して慈善事業ではありませんが、万能の魔法でもありません。
確かに、この概念が生まれて間もないころは、リターンに関しては妥協を余儀なくされるところがありました。しかしその後は、手に入るデータの質が向上し、戦略が洗練されたことで、今ではそうした妥協は必要なくなっています。
インパクト投資から得られるリターンは、従来の投資アプローチとおおむね同等です。実際、一部のインパクト投資のベンチマークによると、こうした戦略は、従来型アプローチよりも良い実績を残す傾向があるようです。
とはいえ、安定して大幅に上回っているかといえば、そんなことはありません。
ほかのあらゆる投資と同様に、リスクもあります。インパクト投資には、リターンを保証、あるいは底上げするような「倫理的投資に伴うボーナス」はついてきません。
大半のインパクト投資家は今でも、投資において「インパクト」の部分を優先しています。
それでも、データが厚みを増し、分析もより洗練されたことで、必ずしもリターンを犠牲にしなくても、この世のなかをより良い場所にするよう働きかけていくことは可能になっているのです。
最後に、フリーランス・ライターである私が実行している「インパクト投資」にも触れておきましょう。私が力を入れている「投資」は、行きつけの店のバーテンダーにたっぷりとチップをはずむこと。
今までのところは、十分なリターンが得られて満足しています。
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Source: Finimize, J.P. Morgan, REUTERS, Merrill Lynch, Cambridge Associates