幸福を求める心は、意識が生まれたその昔から存在します。

しかし昨今は特に、幸せになりたいという欲求はこれまで以上に強まっていて、とりわけ若いビジネスパーソンに顕著なようです

米ハーバード大学の「幸せの授業」という講座が、経営学修士(MBA)を目指す学生に特に人気を集めているというのが、その一例でしょう。

とはいえ、幸福を追い求めているのは、若い起業家だけではありません。あらゆる層からの大きな需要を受けて、心の健康を改善すると謳う各種のアプリやガジェットが誕生しています。

そうした新しいテクノロジーは、おおむね真面目につくられた製品です。しかしその一方で、本当に有効なアプリはどのくらいあるのかという疑念も高まっています

「幸福度」を高めるテクノロジー。本当にメリットだけ?

幸福度を測定し向上させるというアイデアは、テクノロジーの進歩によって生まれたわけではありません。心理学者のEd Diener氏は、1984年に「主観的幸福」という概念を打ち出し、人それぞれの幸福度が他人と比較してどの程度なのかを評価する方法を提唱しました。

主観的幸福という概念はまた、幸福度を高める特定の介入方法に効果があるかどうかを見きわめる目的にも利用できます。

テクノロジーを用いて幸福度を評価・測定する場合は、ユーザーがアプリやウェブページで質問に答えるのが一般的です。そうして得られたデータをもとに、数値化した指標を返すわけです。

新たに誕生したさまざまな「ハッピーテック」は、実際に効果があるという人もいるでしょうが、問題がないわけではありません

そこで、幸福度を高めるためにテクノロジーを使ってみようとお考えの方に、ぜひ一度検討してほしいことを3つご紹介します。

1. 幸福を追求しようとして喜びを失ってしまうかも

テクノロジーは、自己改善や健康的な習慣を促進するうえで、非常に役立つ可能性があります。ところが、幸福を気にしてばかりいると、かえって逆効果になりうることを示す科学的エビデンスが増えています

カリフォルニア大学バークレー校の心理学者Iris Mauss博士のような研究者は、幸福に固執する人々を研究しています。

彼らの下した結論は、自らの幸福を案じすぎる人は、憂鬱になることが多いというものです。

日々送られてくるプッシュ通知や、自分の努力を他人と比較する指標を見せられると、自分が満足なレベルに達していない理由に固執し、今この瞬間に喜びを見出すことにエネルギーを割かなくなってしまいます

神経科学者のサム・ハリス氏は、こうした落とし穴を「spiritual materialism(精神の実利主義)」と名づけました。そして、自身が手がけた人気アプリ「Waking Up: Guided Meditation」では、連続使用日数の表示を削除しました。

定量化されたデータにばかり惑わされないために

データから導き出される洞察が、自分の改善したい行動に合っていないと、かえって逆効果になりかねません。あまりに頻繁にデータが提供されたり、あるいは本来の目標達成を促すものでなかったりする場合に要注意です。

過度の定量化がもたらす弊害を研究しているデューク大学のJordan Etkin博士は、次のように説明しています。

データは、自分たちにとって有益であり、容易にアクセスできるという理由だけで問題を改善してくれると人々は考えがちです。

それは必ずしも正しくないため、非常に不幸な状況を招いてしまう可能性があります。

このことによる改善策は、アプリが自分の本当のニーズを満たしているかに注意し、アプリに振り回されないようにすることです。

通知を切り、実際に改善につながるデータだけに注目してください。

幸福にはさまざまな側面があります。ですから、どのテクノロジーを利用するにせよ、自分が改善したい側面に合致しているかどうか、しっかりと確認しましょう。

2. アプリが「エセ科学」を扱っている可能性があるか

幸福度の向上を謳うテクノロジーのほとんどは、消費財として設計されています。

そうした製品はたいてい、触れ込みどおりの効果をもたらそうと真面目につくられていますが、一方で開発者は、スマートフォンに入っているほかのアプリと、ユーザーの関心を争わなくてはならないことも心得ています

そのため、そういったアプリの多くはゲーミフィケーションの要素を盛り込んでいます。もしかしたら、このような通知が届くかもしれません。「今週は素晴らしい出来でしたね。1日2回感謝するという目標を達成しました。来週は3回に増やしましょう! 」

このように仕掛けられるプレッシャーは、全体的にいえば、アプリの土台となっていた科学から逸脱しており、有害になりかねません

アプリを喜ばせるか、それともほかの、自分の幸福度を高めるような行動をとるかという、不自然な二択をつくり出しているのです。

例に挙げた通知のように、感謝を習慣づけるよう過度に促すことは逆効果となり、ユーザーの幸福度がアプリを使いはじめたころよりも低下してしまう可能性があります。

正しい情報に基づいたアプリを利用するために

ハッピーテックが効果的であるためには、確かな科学の裏付けがなくてはなりません。

メンタルウェルネス系アプリの多くは、最初は信頼できる科学を基盤としていても、次第に、やたらと機能を詰め込むようになったり、開発チームが基盤となった科学を忘れてしまったり、あるいはその両方に陥ってしまうのです。

有効な解決策は、アプリが科学的根拠を掲げている場合は、学術論文を検索できる「Google Scholar」で、元になった研究を確認することです。

確かな科学の裏付けがない場合には、ほかのアプリを探してください。

3. 目的に合ったアプリをきちんと選択しているか

ハッピーテックを選ぶときの注意点はいろいろありますが、だからといって、そうしたテクノロジーが役に立たないわけではありません。

自分に合っているかどうかを見きわめる方法として、次のような質問を自分に投げかけてみましょう。

  • その製品やサービスは、自分が目指しているものに合致しているか。
  • ユーザーエクスペリエンスの調整が可能で、関係のないデータを非表示にしたり、不要な通知をオフにしたりできるか。
  • 確かな科学の裏付けがあるか。

自分に合ったアプリを選択するために

幸福度の向上に役立つと謳うテクノロジーの市場は拡大しており、自分に合ったツールを見きわめるのがますます難しくなってきているのも事実。

ですから、購入前に、必ず利用を考えているアプリやサービスを試してみましょう

幸福への道は人の数だけあり、すべての人に汎用的に効果のあるアプリやデバイスは存在しません。返品ポリシーやトライアル期間を忘れずに確認し、十分な情報を得たうえで購入を判断できるようにしてください。

幸福は、登るべき山でもなければ、勝つべきゲームでもありません。テクノロジーの力を借りて心の健康を改善したければ、テクノロジーがその過程を楽しむ妨げにならないよう注意しましょう。

Source: THE WALL STREET JOURNAL, the American Psychological Association. Inc, U.S.News, Berkley Research, Waking Up

Originally published by FastCampany[原文

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