悩むのが人間です。最近の調査では、人口の90%が不安を感じていると言われています。軽度の不安であっても、自信を喪失したり性欲がなくなったり、友人や恋人から孤立したりするため、ほとんどの人は、不安はすべて悪いものだと結論づけています。

しかし、神経科学者のWendy Suzuki氏は違います。Wendy氏は新著『Good Anxiety: Harnessing the Power of the Most Misunderstood Emotion』の中で、不安をエネルギーの一形態のように扱うべきだと主張し、次のように述べています。

不安は、ある出来事や状況に対する化学反応だと考えましょう。

信頼できるリソース、トレーニング、タイミングがなければ、その化学反応は手に負えなくなることがあります。しかし、コントロールして価値ある良いことに使うこともできるのです。

本日、ポッドキャスト「Next Big Idea」にて、Wendy氏がLauren Miller Rogen氏と対談しました。Lauren氏は映画監督であり、夫である俳優のSeth Rogen氏とともに、アルツハイマー病に苦しむ家族を支援するための様々なサービスを無料で提供する非営利団体「Hilarity for Charity」の共同設立者でもあります。

二人はこの対談のなかで、科学的に裏付けられた「うまく悩むための方法」について話しています。先にこのエピソードの全編を聞くか、重要なポイントをいくつか読んでみましょう。

なぜ不安が良いことなのか?

Lauren Miller Rogen氏:あなたの本を手にした時、私は長年にわたって不安や憂鬱と向き合っていたところでした。いえ、今でもです。なぜそうしたことが良いことなのでしょうか?

Wendy Suzuki氏:30秒で答えると、こういうことです。不安が良いことである理由は、進化の観点から見れば、不安と、私たち誰にとっても非常に身近な基本的な生理的ストレス反応は、過去250万年の間、私たちを守るために進化してきました。つまり、むしろ私たちの生存に欠かせないものなのです。

考えてみましょう。250万年前、女性が小さな赤ちゃんを連れて(森の中を)歩いていると、ヒビの入った小枝があります。ライオンやトラやクマがいるかもしれない、と女性は思います。すぐに不安になります。生理的な反応として、逃げるか戦うことができるように、血液が筋肉に送り込まれます。つまり、生き延びられるようにするのです。

現代では、ライオンやトラやクマが襲ってくることはあまりありません。その代わりに、配信されるニュースやソーシャルメディア、地球温暖化の脅威、そしてもちろん、パンデミックがあります。こうしたものは同じような意味で危険なわけではありませんが、私たちは同じように反応してしまいます。そのため、かつては守ってくれるものだったその反応が、今では限界を超えています。私たちの不安のレベルは度を越したものになっているのです。この本の大部分では、科学的根拠に基づいて、そうした不安のレベルを下げる方法を学びます。

闘争・逃走反応は誰もが知っていますが、「休息と消化」についてはご存知でしょうか? これは、副交感神経のうち、ストレスを取り除く部分です。闘争・逃走が心拍数、呼吸、筋肉への血流を増加させるのに対し、休息と消化は心拍数、呼吸を減少させ、消化器官や生殖器官に血液を戻します

これを活性化するには、深呼吸をするのが1番です。私はこうしています。4秒で吸って、一杯になったところで4秒止め、4秒で吐いて、吐き切ったところで4秒止めるのです。

喜び条件付けについて

Lauren氏:私は「うまく悩むこと」「喜び条件付け」がとても気に入っています。「不安だ」とか 「落ち込んだ」とか感じることで、とても気が滅入るような気分になることがあります。何から始めればいいの、と。でも、この本ではそれがとても実践的に書かれていますね。

Wendy氏:はい、「喜び条件付け」は、うまく悩むための、私のマニアックな方法です。これに関しては誇らしく思っています。

これは、私がキャリアの中でずっと行なってきた記憶の仕組みの研究から生まれたものです。脳には様々な記憶システムがありますが、その中でも、扁桃体という構造を中心にしてネガティブな感情に特化したものがあります。そして、扁桃体が行なうことを「恐怖条件付け 」と言います。

たとえば、私がワシントンD.C.に住んでいた頃、アパートに泥棒が入ったことがありました。日曜の午後、徒歩で帰宅中に角を曲がると、ドアが開いていたのです。今でも思い出すことができますが、バールの跡が残っていました。それからそこに住んでいる間ずっと、同じ角を曲がるたびに、この記憶を思い出しました。

つまり、恐怖条件付けです。これは防御的な不安です。「こんなことが起こるかもしれないから気をつけなさい」ということなのです。

私たちは、この恐怖条件付けをいつも携えています。しかし、何か良いことがあった時にはどうして(同じようなことが)ないのだろう、と思いました。実際ないのですが、そのような記憶の仕組みは知っているので、「喜び条件付け」という方法を考え出しました。

こういうものです。やることは、自分の人生の中で最も嬉しく、楽しかった、笑えた思い出を1つ思い浮かべるだけです。そうするとまず、「そういえば、楽しい思い出のことを考えることがないな。どうして考えないのだろう?」と気づくはずです。

たとえば、いとこや友達との笑った時間を思い出すかもしれません。これはエピソード記憶と呼ばれるもので、海馬という脳の構造に依っています。海馬は、誰が、何を、どこで、いつ、といったことに加えて、それに関連する感情をまとめます。

この種の記憶の特徴は、そうした記憶を呼び起こすほど、喜びや幸福感などの良い感情も含めて、そのエピソードが強くなるということです。これは、必ずしも不安発作の最中にできることではありませんが、表に出ないところではできることです。

不安と創造性の関係について

Wendy氏:私の大切な友人であるJulie Burstein氏には『Spark: How Creativity Works』という著作があります。そのなかで、現代の最もクリエイティブな人たちを分析し、多くの場合、彼らの創造性が非常に困難で暗いところに根ざしていることがわかりました。様々な芸術家がいかに困難な状況を利用してクリエイティブな解決策を生み出しているかを、Julie氏は繰り返し語っています。

何か創造的なことをしようとすると誰もが、Julie氏が言うところの「悲壮のギャップ 」に直面しなければなりません。それは、「存在し得るもの」、例えばオスカーを受賞する脚本や数百万人に視聴してもらえるTEDのプレゼンテーションが「こうしたものになるかもしれない」という私の漠然としたアイデアと、「今、世界に実際に存在するもの」との間にある差です。これは、誰もが経験したことのある、深くて暗くて怖い淵です。

Lauren氏:それを毎日見下ろしていました…。

Wendy氏:それです! しかし、淵の反対側には、誰もが持っている、その閃きで実現できるかもしれない美しいものがあります。今はまだ存在していないけれど、何かできるかもしれないというアイデアがある、ということです。それが創造のプロセスなのです。

その悲劇的なギャップ、深くて暗い淵を乗り越えるには、事の発端が必要なのです。それは大変なことで、だからこそ、人は立ち止まってしまいます。しかし、その向こう側にあるかもしれないもの、そして、そのギャップを見事に乗り越えたすべての人々からインスピレーションを受けましょう。これは創造的なプロセスの一部なのです。

悲壮のギャップには、恐怖や不安がつきものですが、それは人間の自然な感情です。時にはそれが自分を奮い立たせ、刺激を受けて初めて足を踏み出し、転んで怪我をすることもあります。

しかし、そこで立ち上がって、さらに良いアイデアがあるのだから、2回目の挑戦をしてみるのです。私はそうやって、自分の書くべきページが真っ白な時に悲壮のギャップを乗り越えています。

Image: Getty Images/Originally published by Fast Company[原文] Copyright © 2022 Mansueto Ventures LLC.