ネガティブな気持ちにはまり込むのはとても簡単なのに、そこから抜け出すのはそれよりずっと難しいものです。

たとえば、失敗するのではないかという恐怖心がつきまとって、追い詰められた気持ちになることがあるかもしれません。

他の人の成功に、妬ましさで心がいっぱいになることもあるでしょう。

ネガティブな感情にどっぷり浸っていても、自分の状況を好転させることはできません。けれども、そうした不安や不満を敵に回さず、味方につけられる可能性があるのです。

こうした考え方を背景にしたマインドフルネスの方法が、「ネガティブ・ビジュアライゼーション」です。

では、ネガティブな感情の深みに意識的に(ほんの少しだけ)入り込み、それをポジティブな気持ちへと転換させるためには、どんなことが必要なのかを説明しましょう。

ネガティブ・ビジュアライゼーションとは

ネガティブ・ビジュアライゼーションとは、ネガティブ思考をおしゃれに言い換えた表現ではありません。実のところ、この考え方は、古代ギリシャのストア派に起源があります。

近年、現代版のストア哲学を信奉する人が増加中です。とりわけ、マインドフルネスが人気を博しているのに合わせて、注目されるようになっています。

私自身はストア哲学を真面目に実践しているわけではありませんが、この哲学の基本原理にはいくつか、心配性である私の心に訴えかけてくるものが確かにあります。

とりわけ心惹かれるのが、現代のストア哲学では、自分が「コントロールできること(考えや感情)」と、「コントロールできないこと(自分以外の世界)」を区別するのが大事だとされているところです(ただし、ネガティブ・ビジュアライゼーションに挑戦するからといって、ストア哲学に没頭しなければならないわけではありません)。

米心理学メディア「Psychology Today」は、ネガティブ・ビジュアライゼーションについて、「自分のいまの状況やいま持っているものが実際にはなかった場合に、人生がどのくらいひどいものになるのかを意図的に想像すること」と定義しています。

たったそれだけのことです。

つまり、ネガティブ思考を180度転換してそれをうまく利用し、より大きな感謝の気持ち、より前向きな視点を手に入れるわけです。

ネガティブ・ビジュアライゼーションの仕組み

自分の今後の人生で起こりうる、これ以上ないほど最悪なシナリオを思い浮かべることで、次の2つのことを自分に仕向けます。

ひとつめは、一定の時間を取って、現実的に起こるかもしれない出来事を想像して心の準備をし、それに対処する現実的な方法を考えます。

ふたつめは、そうした最悪のシナリオは「まだ起こっていないのだ」と思い起こし、自分のいまの状況や持っているものに感謝します。

ネガティブ・ビジュアライゼーションの実践方法

ネガティブ・ビジュアライゼーションを実践するにあたって、まずは、不安をかき立てる「もし○○だったら」という状況を、思いつく限り想像します。

この作業は、落ち着いた状況で行ってください(予期せぬパニック発作に襲われるような状況は避けましょう)。

では、もっとポジティブな気持ちになれるよう、時間を確保して以下のステップに挑戦してみましょう。

1. リストアップする

自分の人生のなかで、感謝していることや、「こうだったらよかったのに」と思っていることを、じっくり考えてリストアップします。

たとえば、特定の人物や持ち物、一般的な事柄(仕事や趣味など)などでもいいでしょう。頭のなかだけで考えてもいいですし、集中しやすいのであれば、紙に書き出してもかまいません。

2. 最悪の結末を想定する

ステップ1でリストアップしたそれぞれの事柄について、起こりうる悲惨な結末を思い描いてください。

5分から10分ほどかけて、リストアップした事柄を検討し、自分がいま持っているものが取り上げられてしまった場合や、仕事や趣味ができなくなってしまった場合に、どのような気持ちになるのかを想像します。

いまの自分には当てはまらない、ほかのネガティブな可能性も思い描いてみましょう。

たとえば、一度もかかったことのない病気になったところや、経験したことのない事故に遭ったところを想像してみます。

3. 気持ちをコントロールする

次は、ネガティブ思考を落ち着かせるステップです。

思い描いた恐ろしい状況を、どうやったらうまく乗り越えられるのか、その方法をブレインストーミングしてください。

さらに、過去に経験したつらい出来事を思い出し、もしまた同じことが起こったときにはどう対処するのか、実際の行動と感情的な対処の両面で考えましょう。

4.見直す

ステップ1でリストアップしたすべての事柄を、改めて見直してください。そして、自分のいまの状況や持っていることに対して、もっとたくさん感謝してください。

それらを失う可能性を思い描くのではなく、それらに対する感謝の気持ちに目を向けたほうが、どれほど気分がよくなるのかを実感しましょう。

注意点

忘れないでください。ネガティブ・ビジュアライゼーションの目的は、最悪のシナリオを思い描いて、破滅と絶望のスパイラルに自らを追い込むことではありません。

そうではなく、自分のいまの状況や、自分に与えられている物事に対して感謝の気持ちを呼び起こし、万が一うまくいかなかったとしても、自分には備えがあると思えるようにすることです。

Psychology Today」は、こう指摘しています。

「幸福とは、新しいものを手に入れることではなく、すでに持っているものを大切にすることなのです」。陳腐な言葉に聞こえますか? たとえそうであっても、ネガティブ思考に陥るよりは、陳腐なほうがずっといいのではないでしょうか。


Source: Psychology Today, WhatisStoicism, Wikipedia