『「お茶」を学ぶ人だけが知っている 凛として美しい内面の磨き方』(竹田理絵 著、実務教育出版)の著者は、約30年間にわたって実績を積み上げてきた裏千家の茶道家。
現在は「グローバル茶道家」として、日本を含む約30カ国、のべ3万人以上の人々に茶道を教えているのだとか。人種や階級、職業を問わず茶道を広く披露してきたというのですから、まさにグローバルそのものです。
とはいえ茶道と縁のない人にとって、その世界にはどこか縁遠い印象があるのも事実。ましてや、ビジネスの世界とは結びつかないような印象もあるのではないでしょうか? しかし著者は、お茶の世界にしかない価値を訴えかけます。
お茶室の小さな入口「にじり口」を入ると、そこは肩書きも上下関係もない、皆が平等で、平和な世界です。
そのようなお茶の世界にいると、社会的地位が上の人には忖度し、下の人には無下にするといった、人によって態度を変える心などなくなっていきます。
(中略)
お茶の心はお茶室の中だけでなく、日常のさまざまな場面で生かすことができます。
お茶を学ぶことは、とても大きならせん階段を登っていくようなもの。同じところをぐるぐる周っているようで、知らないうちに少しずつ前に進んでいるのです。(「はじめに」より)
そこで本書では著者の実績を軸として、「置かれた環境に左右されることなく、心おだやかに日々を過ごす」「まわりの声や自分の感情に左右されず、いま、そしてこれからなすべきことを冷静に考え、たゆまずやり続ける」ための考え方を記しているのです。
きょうはそのなかから、「ビジネスでもプライベートでも選ばれる人になるためのコミュニケーション力」に言及した第4章「選ばれる人になる『コミュニケーション力』を育てる」に焦点を当ててみたいと思います。
相手の望みをしぐさで察する
「目は口ほどにものをいい」ということわざがあります。ことばはなくとも、目と目で意思が通じるという意味。
お茶事やお茶会でも、視線や音などで意思を通じ合わせることがあります。例えば通常、お客様にはお抹茶の前にお菓子を召し上がっていただくのですが、そのタイミングを伝えるために、お点前の途中で顔を上げてお客様と目を合わせ、「お菓子をどうぞ」と伝えます。(143〜144ページより)
他にも、お茶を飲み干すときにすすることで飲み終わりを知らせたり、いちばん最後に茶室に入ったお客様が「ぴしゃり」と音を立ててにじり口を閉めることで、奥に控える亭主に全員揃ったことを伝えたりするのだそうです。
またユニークなところでは、「箸落とし」というものも。お茶時でお客が、懐石料理を食べ終えたことを知らせるため、清めた箸をお膳のふちに置き、みんなで同時に膳の内側に落とすというのです。亭主はその音を聞き、襖を開けて膳を引くわけです。
このように、茶道における目線や音の多くは、お茶会を進めるためのことばに代わる「意思疎通」としてひとつひとつに意味があるということ。
あえてことばを交わさず、お互いの目線や音に心を傾けることで、主客のこころをひとつにできるということです。
最近はことばによるコミュニケーションが重要視されるあまり、相手の目や気配で察するという気遣いの心が失われているとも考えられます。
しかし、茶道のこうした気遣いを応用してみれば、ビジネス時のコミュニケーションも変化するかもしれません。(143ページより)
自分の話は3割、相手の話を7割
茶席では、お客側からお軸やお花、それぞれのお道具やお菓子、お抹茶の種類などについていろいろ聞く(尋ねる)ことがあるそうです。
興味深いのは、その際、基本的に亭主(お茶を出す側)から口火を切ることはないということ。そこには明確な理由があるようです。
コミュニケーションで大切なことは、話すことより、実は聞くことなのです。
相手の話を7割聞いて、自分の話を3割話すのが、相手に良い印象を持ってもらえる比率といわれています。(146ページより)
うまくコミュニケーションをとろうとすると、つい話すほうに力を入れてしまいがち。しかし、まずは「聞く」ことで相手を知り、理解することによって初めて、人間関係をよくすることができるわけです。
聞き上手な人は、好かれ上手。その人と話していると話が盛り上がり、楽しくなってもっと話していたいと思われるということ。これもまた、ビジネスでのコミュニケーションに活用できそうなことではないでしょうか。(145ページより)
違う意見や価値観にも耳を傾ける
著者が運営する銀座の茶室には、毎年30カ国以上の人々が茶道体験に訪れるそう。
国や人種、育ちが異なる以上、さまざまな意見や考え方があるのは当然の話。そのため自分と違った価値観に出会ったときなどには、ものの見方や考え方に驚かされることもあるかもしれません。
でも、そんなときには拒否するのではなく、いろいろな人の意見を尊重しながら聞いてみてほしいと著者は記しています。なぜならそれは、自分の見識を深めるチャンスだから。
仕事でもプライベートでも、自分と異なる価値観の話こそ、しっかりと聞いて理解することで、柔軟性を持つことができます。柔軟性を持つことで、人とのコミュニケーションも円滑になり、社会生活もしやすくなります。(148ページより)
茶道はそういう点においても、老若男女を問わずさまざまな年代の方々と関わることができる機会としてとても有効。
だからこそ、いつも同じ年代の人としかコミュニケーションをとらない人は、茶道を通じて、親御さんより年上の方の話に耳を傾けてみてほしいと著者はいいます。そうすれば、普段聞く機会のない、けれど興味深い話を聞けるはずだからです。(147ページより)
*
茶道に対して「自分とは縁のない世界」だと考える方もいらっしゃるでしょうが、その根底にある人間としての普遍的なあり方は、きっと日常生活に役立つはず。本書に目を通してみれば、そんな“細やかだけれど大切なこと”がわかるはずです。
>>【最大50%還元】Kindle本「冬キャンペーン」対象本はこちら(3/3まで)
>> 「Voicy」チャンネルでは音声で「毎日書評」を配信中【フォロー大歓迎】
Source: 実務教育出版/Photo: 印南敦史