人間はつねに均一の能力を発揮できるロボットではないので、「がんばれない」ときがあっても当然。上司から「やる気を出せ」といわれ、自分でも「やる気を出さなければ」と思ったとしても、思うようにやる気を出せない日だってあるわけです。
だから、「がんばりたくないときには、もうがんばるのをやめましょう」と提言しているのは、心理学者である『世界最先端の心理学が教える「無理せずパフォーマンスが上がる」方法 がんばらない生き方大全』(内藤誼人 著、 SBクリエイティブ)の著者。ビジネス心理学の第一人者として、実践的な心理学の応用に力を注いでいる人物です。
どうせ、やる気を自由に発揮することなんてできないのだから、「がんばろう」という試みはすべてムダな努力。無理をすれば、余計に気分が落ち込むだけだというのです。
それは心強いメッセージでもありますが、しかし、がんばって働かないと生活に支障が出るのも事実。したがって、現実的に考えてみた場合、最高の作戦は、
なるべくがんばらずに、
それでもそれなりのパフォーマンス(「はじめに」より)
を見せることなのだといいます。そこで本書では、「そんなにがんばらなくとも、しっかりと生きていくための心理テクニック」を紹介しているのです。
とはいえ「やりたくないから、やらない」といった無責任な姿勢をとっているわけではなく、あくまでも「なるべく心理的な負担を減らしつつ、そんなに汗をかかずに、上手にパフォーマンスを上げるコツ」を提案しているのだといいます。
きょうは第4章「気がついたら自然と集中しているメソッド」のなかから、2つの考え方をご紹介したいと思います。
ルーティンに関する実験
ここでは「実験」として、24名の参加者全員に、まったく同じテニスのルーティンを教えたときに導き出された結果が紹介されています。
① まずボールを見つめて、2〜3回深呼吸。
② 次に、サーブを打ち込む場所を凝視。
③ 続いて、足元を見て、ボールを8回弾ませる。
④ もう一度ボールを打ち込む場所を凝視しつつ、ボールの軌道をイメージ。
(104ページより)
全員がこのルーティンを学んでから、実際にサーブしたわけです。そののちフォールト(サーブの失敗)の数を測定してみたところ、みなサーブの精度が高まることが明らかにされたのだといいます(ケルン体育大学(ドイツ)フランジスカ・ローテンバッハの実験)。
つまりここからは、ルーティンを学んでからサーブすると、サーブの精度が高まって失敗が減ることがわかったわけです。(104ページより)
ルーティンがもたらすもの
スポーツ選手は集中力を高めるために、いつでも決まった行動をとることが知られています。つまりは、それが「ルーティン」。
たとえばプロ野球のイチロー選手のルーティンや、ラグビー元日本代表の五郎丸選手のルーティンなどを思い浮かべることができるのではないでしょうか。
とはいえルーティンは、スポーツ選手だけがやるものではありません。たとえばドイツの作家であるフリードリヒ・シラーは、机のなかにリンゴをしまっておき、その匂いをかいでから創作に打ち込むというルーティンを持っていたそう。また、ゲーテやベートーヴェンが散歩をルーティンにしていたという話も有名です。
そこで著者は、「私はこれをすると、一発で集中力のスイッチが入る」というものを、自分なりにひとつつくっておくことを勧めています。集中力のスイッチができあがれば、毎回、集中力を出すための努力をせずにすむからです。
自分でルーティンを考えることができないとしたら、他の人のルーティンをそのまま拝借してきてもOK。これにも理由があるようで、つまりはお仕着せのルーティンであっても効果的であることが知られているから。(104ページより)
「ある時間帯で集中する」だけ
さて、2つ目は「時間帯」についての実験。
男性のサイクリストに、いろいろな時間帯で集中力を測定するテストを受けてもらったというのです(フランシュ・コンテ大学(フランス)エリザベス・ベティの実験)。反応の早さを調べるテストで、集中していれば反応は早くなり、集中できないときには反応が遅くなるわけです。
その結果、他よりも集中力がアップする時間帯は、①午前10時半と②午後4時半だとわかったといいます。
つまり私たちの集中力は朝から晩までずっと均一ではなく、1日の間には、集中できる「大きな2つの山」があるということ。
つまり、その時間帯にがんばり、それ以外のところではほどほどに手を抜けばいいわけです。
したがって、まずは午前10時半くらいからお昼まではがむしゃらにがんばりましょう。一日の仕事のほとんどをこの時間帯で片づけてしまうのだ、という意気込みで取り組むのです。(110ページより)
そうすれば、「午後がラクになるんだから」と自分にいい聞かせることができ、自然に集中力も高まるはず。
もう一つの午後4時半というのは、集中力は高まるのかもしれませんが、普通の人にとってはもう帰宅前に近いと思うので、できれば午前中にがんばるのがオススメです。
もちろん、午後4時半にも集中力が高まりますから、ここでがんばって、スッキリとした気持ちで帰宅するのも悪くはありません。(111ページより)
人間の集中力に山がある以上、朝から晩までずっと同じペースで同じ作業を続けるのは困難。だからこそ、苦手な仕事ややりたくない仕事、できれば避けたい仕事なども、集中しやすい午前中に片づけておくのがいいようです。
集中力が高まっているときであれば、イヤな仕事も比較的ラクに片づけることが期待できるからです。(110ページより)
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もちろん、本人は気づいてないかもしれません。しかし仕事もプライベートも充実した「要領よくやっている人たち」は現実的に、本書で明らかにされているような「がんばらない生き方」の心理テクニックを実践し、その恩恵を受けているものなのだと著者はいいます。
だとすれば本書を参考にしながら、そのテクニックをぜひとも身につけたいところです。
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Source: SBクリエイティブ/Photo: 印南敦史