大学院でジャーナリズムを学びはじめた最初の日、講師たちから、あっと驚くようなことを見つけてストーリーの中に入れなさい、と教えられました。人々の注意を引くような、びっくりすることを見つけるのです。

何年もたって『スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン:人々を惹きつける18の法則』(邦訳:日経BP社)を書いたとき、私はそのアドバイスを思い出しました。

Appleの共同創業者であるジョブズは、主要な製品を売り出すときは、いつも聴衆をあっと言わせる瞬間を意図的に用意していました。多くの場合、聴衆をあっと言わせたのは、ジョブズが手品の小道具のように使った製品でした。

2001年、ジョブズは、ただ写真を見せて最初のiPodを紹介することもできました。でもそうする代わりに、ジーンズの小さなポケットに手を入れてiPodを取り出し、こう言ったのです。「ポケットに歌を1000曲入れて持ち歩いているようなものです」

スティーブ・ジョブズは、聴衆を魅了するために使えるものを本能的に理解していました。

大切なのは、記憶に残る何かを聴く人に与えること。バーチャルでプレゼンしようと、相手の目の前でプレゼンしようと、聴く人は、あなたが語る一言一句をすべて覚えるわけではありません。瞬間を記憶するのです。

メッセージを伝える能力に優れた人は、以下に紹介するような戦略をいくつか使い、記憶に残る瞬間を意図的につくっています。

1.ストーリーを伝える

人間は、ストーリーに耳を傾けるようにできています。

ですから、聴く人にもっとストーリーを伝えましょう。中でも、個人的なストーリーはもっとも印象に残ります。

スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大の卒業式でおこなったスピーチがとても象徴的だとして、CNNが私に分析を依頼したのには理由があります。

ジョブズは、自分の人生で起こった個人的なストーリーを3つ語りました。大勢の記憶に残っているのは、ジョブズが、何の役に立つのかわからないまま、大学でカリグラフィーのコースを取った話です。

何年もあとになって、ジョブズはこのとき学んだことを、Macintoshの開発に取り入れました。装飾的なフォントでDTP(デスクトップ・パブリッシング)に革命を起こしたコンピューターを生み出したのです。

プレゼンテーションのテーマに関係ある、個人的なストーリーを伝えましょう。

2.意表を突くような統計データを提示する

気候変動のような複雑なテーマを取り扱う多くの科学ジャーナリストは、読者の注意を引くために、文脈に沿ってデータを示すよう教えられています。

例を挙げましょう。2021年8月、科学者たちは、温室効果ガス排出量が過去最高レベルに達したと発表しました。

けれどもライターたちは、その事実と文脈を結び付けるはっとするような統計データがないと、読者はただ何となく記事を読むだけだと知っていました。

そこで彼らは、ある数値を示しました。気候変動を起こしている大気中のガスの濃度は、過去80万年でもっとも高い、と書いたのです。

聴衆の関心を引くような数字を1つ見つけましょう。

3.比喩をつくる

私たちの脳は、ストーリーや比喩を理解しやすいようにできています。なじみのない物事を、自分が知っている物事になぞらえるのです。

億万長者ウォーレン・バフェットは、金融関係の複雑なテーマを、比喩を使ってわかりやすくする名人です。

大変有名なバフェットの名言のひとつに、競争に打ち勝つ企業の見つけ方を説明したこんな言葉があります。「私が探すのは、越えることのできない『経済的な堀』に守られた城だ」

厳選されたうまい比喩は、多くのことを語るのです。

4.サプライズを用意する

ときとして、驚きの瞬間を演出するのは、工夫を凝らしたパッケージに包み、中から予想もしなかったものを出して見せるのと同じくらい簡単なものです。 

2007年、スティーブ・ジョブズは、Appleが「3つの新製品」を売り出すことを発表しました。新しいiPod、携帯電話、インターネット端末です。彼はこの3つを何度か繰り返しました。そして最後にこう言ったのです。

「わかりませんか? 端末は3つではありません。1つなのです。名前はiPhoneです」

メッセージの内容を変える必要はありません。それを表現する方法を変えればいいのです。

5.写真や画像、動画を見せる

言葉よりも写真や画像のほうが、私たちの記憶に残るものです。

「説得力」を神経科学的に考える場合、この現象は「画像優位性効果」と呼ばれます。それをうまく使ってください。

例えば、私のプレゼンには、有名な起業家やCEOとのインタビューを短い動画にしたものを、たくさん取り入れます。

動画を再生すると、誰もが画面に見入っているのがわかります。プレゼンのスライドが同じようなものばかりだと、聴衆の関心を失います。スライドの間に写真や動画を入れましょう。

何より、人は退屈なものには注意を払わないものです。聴いている人に、ストーリーや予想もしなかったサプライズなど、何か記憶に残るものを示しましょう。

Image: Shutterstock/Source: CNN,npr

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