道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は……? 時代をリードする起業家へのインタビューシリーズ『仕事論』。

第1回目にお話を伺ったのは、データサイエンス事業を手がけるGruff CEOの原田 博植さんです。

原田 博植さん

株式会社グラフ 代表取締役社長CEO

シンクタンク、外資ITベンチャー、リクルートにて、データ分析とアルゴリズム開発実装を基軸とした事業推進に従事。リクルートでは全社初のデータサイエンス組織を立ち上げチーフデータサイエンティストを拝命、多事業のマネタイズに貢献。2014年に業界団体「丸の内アナリティクス(現・社団法人)」を設立し主宰。2015年10月にデータサイエンティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞。早稲田大学創造理工学部招聘教授。現在は経済産業省の「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」の委員を務める。https://gruff.co.jp/

幼いころから「誰よりも先にはじめる」人物だった

ーーデータサインティストとしてのキャリアをはじめられた経緯は?

原田さん(以下敬称略):子どものころから「蹴り出し」をするタイプでした。どんなことでも自分ひとりではじめ出して、かつ、いつも普遍的でエネルギーが大きいテーマを選ぶのでいつのまにか多くの人が関わるようになって、取り組みが大規模になるのを皆んなで楽しむ、という事が多かったです。

独立する直前に在籍していたリクルートではデータサイエンスグループを立ち上げました。それ以前はシンクタンクや外資IT企業でデータ分析とデータサイエンス基盤開発に携わっていました。

リクルートに入ったのは、ちょうどハドゥープという並列分散処理データベースが出てきた頃です。大量のデータを同時に処理できるということで、まさにビッグデータが注目されはじめた時期。並列分散処理データを活用して、実事業の進化を実践している会社に行こうと決めていました。

ーーデータサイエンス、データサイエンティストとは?

原田:データサイエンスとは、事業者や研究機関なら必ず持っているさまざまなデータ、それを対象にビジネス戦略に沿った分析や調査を行なったり、分析結果を元にした新しい考えや施策や実装を提供することで、データの価値を最大化する職業であり、事業です

実際に私たちが行なった大手通信事業者のデータ分析の結果が料金プランの変更につながったり、大手小売事業者のエリアマーケティング分析によって商品のロジスティクスにテコ入れが行なわれるなど、社会に対して大きくて具体的なインパクトをもつ仕事です。

この仕事のなかで私が特に大事にしているのは「実社会を豊かにする」ということ。

「データサイエンス」って、その起源を遡ると社会への応用を前提する表現として論文の中にでてくるんです。そもそもこれは学術用語ではない、ということを強く意識しています

データサイエンスは兎にも角にも社会応用を前提にしていなければ意味がないと考えているので、当社は一貫して「ビジネスのコアにヒットする仕事」を手掛けることにこだわっています。そんな思いもあり、先にお話しした通信事業者をはじめ、報道、金融、鉄道など、ありがたいことに多様な産業のトップ5に入る事業者さまのデータサイエンス業務に集中して注力してきました。

常に「大きいものへ挑む」ー社会に価値を生みだすことへの熱意

ーー一貫して社会へのインパクトを重視している?

原田:「人間の仕事は人間相手にしか存在しない」いうのが私の実感です。AIのベンチャーの起業家がこんなことを言うのも変ですが。

人間の進化の過程を見てもそうですが、人は互いに信頼し合い、組織として掛け合うことで大きなエネルギーを生み出し、歴史や経済を紡いできました。数々の事業、産業、歴史的な偉業は人と人の関わり合いのなかから生まれてきています。

だから、ビデオゲームみたいにバーチャルな空間で机上の空論を磨いていても意味がないと。

私はいつも実社会のインフラを担うビジネスの中枢をエンパワーしたいと思っています。そうじゃなければ独立して組織化する意味がないと思っていました。実際に日本の社会とビジネスをひっぱっている企業の経営の次世代化を支援して、本質的に社会インフラに応用される仕事であることを最重要視しています。同時にそれが、グラフ社でデータサイエンティストとして成長を目指してくれている皆の時間を預かる、経営者たる私の責任だと考えています。

プログラミングの技術ってスポーツのテクニックみたいにどんどん上げることもできるんです。でも、繰り返しになりますが、実を伴わない机上の空論には意味がない。ひとりよがりの新規事業を謳うAI企業は枚挙にいとまがありませんが、私たちは社会変革を司る人間相手、ナンバーワンの事業をやっている会社のデータ基盤、というエリアにこだわって日々邁進しています

ーー国内ナンバーワンの事業者のデータを扱うとなると、確かに社会への影響も大きそうです。

原田:私の中には常に「大きいものに挑む」という思想があります。自然な欲望としてインフラレイヤーのビジネスに対して影響する仕事を狙いたい

こう考える背景には、子どもの頃の経験もあるかもしれない。幼少期は小柄だったので、小学生時代に長期間いじめられたこともあった。でも、チビのまま、ひとりひとり倒していったんですよね。ひとりずつしっかり向かい合っていったら、いじめっ子って弱いんだってわかってきた。もちろん終盤は相手が強くて全く歯が立たなかった時もありましたけど。

自分や自分の行動も含めて登場人物を俯瞰的にみて、分析的に動いていた面もあったと思います。さまざまな経験から「大きいものに挑むこと」の意味や価値を学んだ面もあるかもしれない。人は原体験からは逃れられないですね。

ーー最近取り組んだ印象的なプロジェクトは?

原田:いろいろあります。通信から交通、運輸、製造業など多様な業界でさまざまなテーマのプロジェクトを手掛けているので。私たちがこれだけ幅広いジャンルでデータを扱えているのは、おそらく、データサイエンスの業界がまさに立ち上がっているタイミングだからだと思います。

たとえば、デジタルマーケティングの例ですと、大手通信事業者が1000億円もの予算を投じて行なっているマーケティング関連のプロジェクトがある。鉄道広告のサイネージ、テレビCM、オンラインの広告と大きな規模で情報が流通して各所でデータが集まっていく…。このようなプロジェクトに伴走し、概念設計からデータの貯め方にいたるまで、モデルをいくつもつくり並行して運用していきます

ゴールを決めて指標を定め、モデルを強化していく。戦略が変更になったら、即座にモデルの改修やメンテナンスをしたり。結果的に固有の商品を購入する確率が高いユーザーを特定できるモデルを絞り込んでいったりだとか。

このようなかたちで、企業に伴走しデータと向かい合っていくわけですが、すべてのクライアントが弊社の支援を間断なく継続するわけではありません。事業部プロジェクトの節目があったり、仕切り直しがあれば、ご支援が停止したり、再起動したりします。ですので、ある程度のところまでいったらクライアント自身がデータを収益化や戦略実現に向けて自走できるような形にして手渡さなくてはいけない。

そのときに、クライアント自身がデータに関する実務応用の知識が豊富でなければデータ活用がうまくまわりません。そんなことに気づき、ビジネスパーソンのデータサイエンスに関するナレッジの底上げができたら、と思うようになりました。結果として、我々が定義する実務要件を「LAD(ラッド)」というデータサイエンスMBAプログラムに昇華し、一般向けに商品化を進めています。

※LAD / License of Adaptive Data Science Operations(適応ビジネスデータサイエンス運用設計士)はグラフ社の大規模データサイエンス実務ケーススタディが織り込まれた研修および認定資格制度。

ーー「データサイエンスMBA」とは?

原田:MBA(経営学修士)といえば、企業経営の実務家を育成するためのプログラム。我々が考えているのはいわばそのデータサイエンス版といったところです。ビジネスサイドとのディスカッションの進め方から、ロジカルシンキング、ファシリテーションなどのスキルも含めて、データサイエンスを社会応用、事業実装できるところまでできる人を育てるための体系をつくりたいと考えています。

これまでの事業で私たちが得た知見やナレッジを言語化しておきたいという考えもあります。データサイエンスを社会応用できる、事業に実装できる人材を増やしたいという思いからはじまっています。

社員が成長できる、「人中心」のAIベンチャーをつくりたい

ーーご自身の事業の先にどんな未来を思い描いていますか?

原田:グラフ社が今のポジションにいれば、本質的な意味で、インフラとしてのAIが人間社会とどんなバランスで成立していくのか、というところを、最前線で体験できると思うんですよ。インフラとしてのAIがどのように定義、確立されていくのか、そこに関与する意欲があります。

あとは、バイオインフォンマティクス(※注)にも関心があります。遺伝に関するデータ。ゲノム編集の手法、CRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)がノーベル化学賞を受賞しましたよね。以前から遺伝子編集とデータサイエンスは延長線上にあると捉えており、合成生物学は大きいものへのチャレンジの最たるものだと感じています。

データの背景にある物理的な構造を解明していくときって感動的なんです。遺伝子情報のような、見えないし触れない、生活のなかでは抽象的な概念として理解していたものが、実社会のなかで実感できると大きな感動があります

(※注) バイオインフォマティクスは生物学とコンピュータサイエンスの融合分野で、DNAやアミノ酸配列などの生物データの取得、保存、分析、普及に関わる学問分野。

「人を相手に仕事をする」ということも大切にしています。データアナリティクスやデータサイエンスの社会実装にこだわるのもそうですし、経済だとか、エネルギーのぶつかり合う場面にしっかり向き合いたい。人と人の営みに向き合っていきたいんです。

ひとりよがりじゃないプロダクトをつくりたいし、社員がしっかり成長できる企業としてこの会社をリードしていきたい。とにかく「人中心」のAIベンチャーでありたい。そう思っています。

一問一答

  • 何時に仕事をはじめて、何時に終えますか?

午前6時から午後11時頃です。

会社としてはフレックスなので、みんな自由に休憩や集中の時間をとっています。

  • 愛用デバイス、仕事道具は?

スマートフォンやタブレットを複数台。分単位で開発ミーティングが入っていて移動も多いので充電が切れたときのバックアップとして。データマネジメントに関する知識を体系立ててまとめた『DAMA DIMBOK』(邦題『データマネジメント知識体系ガイド』)は、信頼できるデータ管理入門書。

  • 情報収集はどのように行なっていますか?

SNSも含め信頼できる人からの情報。YouTubeは既知の有識者について非言語コミュニケーションスタイルの答え合わせもできるので素晴らしい。一般的なニュースメディアも見ます。

  • 能力を伸ばすには?ビジネス力を伸ばすには?

好きなことをやる。そればっかりやる=どのくらい好きか、は大きいですよね。

  • 余暇の過ごし方は?

余暇はないです。

  • 心が折れたときはどうする?

いろいろ工夫します。音楽を聴くとか、散歩するとか。お風呂に浸かるとか。

  • 食生活で気をつけていること。好物は?

コンビニをよく利用しますが構成はヘルシーにしています。好物は生牡蠣。それまで唯一の苦手食材だったのに30歳で突然食べられるようになりました。

  • 運動の習慣はありますか?どのような運動?

よく歩きます。歩いて移動する。毎日1時間くらいは歩いています。

  • これだけはやらない、と決めていることは?

社員がお互いへの尊敬のない会社をつくること。

  • ビジネスを通じてのゴールは?

会社にいるひとりひとりが活躍できる会社にすること。うちで働くのが気持ちよくて、成長もできるという環境がつくれたらが誇らしいことだと思います。

  • ビジネスパーソンにおすすめの一冊は?

マット・リドレーの『赤の女王』。マット・リドレーの作品は全部好きですね。

  • 座右の銘は?

「Adapt or die」(個人観点)

理由:(前述の)『赤の女王』で例えられていることですが、「生存するのは強いものでも賢いものでもなく、変化適応するものである」というのは真理だと感じます。

「社員の健康と幸福を実現しその延長線上にある社会を豊かにする」(経営者観点)

理由:私自身が社員に助けられて生きているので、私も社員の役に立ちたいと思っています。

Source: Gruff