日々、業務目標達成のプレッシャーにさらされている、企業のリーダー(中間管理職)たち。

彼らの悩みの種といえば、「どうやって業績を向上させるか?」に尽きると思われがちですが、意外にもそうではありません。

これからのリーダーがすべき5つのこと

悩みのほとんどは、実は「部下とのコミュニケーション」。そう指摘するのは、経営アカデミー(公益財団法人日本生産性本部)で、多くのリーダーの育成をサポートしてきた浅井浩一さんです。

浅井さんが指導してきたリーダーの数は1万人以上。セミナーやコンサルティングを通じて、部下との関係におけるさまざまな悩みに答えてきたそうです。

そうして得た知見を1冊に収めたのが、浅井さんの著書『1万人のリーダーが悩んでいること』(ダイヤモンド社)です。

本書のなかで浅井さんは、これからのリーダーが「すべき5つのこと」を提示しています。

「部下を見守る」「自身を磨く」「チームをつくる」「結果を出す」「組織を変える」

これら5つに相応するリーダーの悩みと浅井さんからのアドバイスの全5章で構成されています。

今のリーダーは、どのような悩みと向き合い、どういった解決の方向性が示されているのでしょうか? 各章より1つずつ取り上げてみましょう。

1. 相談にくるのが遅い部下がいるなら

「こんな状態になる前に早く相談してくれよ…」

多くのリーダーが、トラブルを抱えた部下に感じる不満でしょう。一方で、当のリーダーも、自分の上役に迅速な相談ができていないことが多いのです。

解決法:相談しにくいオーラを消す

浅井さんは、こうした根深い問題の原因の1つに、リーダーの側に「相談しにくいオーラ」があると述べています。

リーダーが「優秀でなければならない」など肩肘を張ると、この「オーラ」が発生します。この雰囲気を察した部下は、「忙しそうにしている上司の手を煩わせたくない」など考えてしまい、相談が遅れてしまうのです。

浅井さんは、そうした「オーラ」を消すようアドバイスします。

やり方の1つは「自己受容」。リーダー本人が、弱点も含めて、ありのままの自分を受け入れます。仮に悩みがあっても、「今、自分にできるベストを尽くしている」と認めることで、他人の悪い面も含めて「これはこれでいい」と他者受容につながると述べています。

解決法:相談されるのが好きだとアピールする

もう1つ、より即効性があるのが、「この上司は、部下に相談されることが何よりも好きなんだ」と思わせること。

例えば、相談に来た部下に対し、「相談! 俺なんかでいいのか! いやぁありがとう嬉しいなぁ。まぁまぁ座ってくれ。お茶飲むか? コーヒーのほうがいいか?」などと明るく対応し、最後まで話を聞きます。

これは、浅井さん自身が実際に部下に対して接するやり方だそうです。オーバーアクションでかまわないのですが、苦手な場合「相談に来てくれてありがとう」の一言でもOK。

さらに、相談に正解を与えるのでなく、一緒に考えるというスタンスでよいそうです。最後は部下が考えて、解決する力が身につくことが期待できます。

こうした方法を実行することで、部下からの早めの相談が増えてくると、浅井さんは説きます。

2. プレイングマネジャーで時間がないなら

「プレイングマネジャーとして忙しくすぎて、マネジメントする時間がありません」という痛切な悩み。リーダーである自分も顧客を抱えているので、無理もなさそうです。

これに対する浅井さんのアドバイスは明快で、リーダーの担当顧客への営業に部下を同行させるという方法。

通常は、部下の顧客の営業にリーダーが同行して、事後において指導しますが、その逆のやり方です。こうすれば、リーダーの時間が削られず、部下も育成できて一石二鳥。具体的には、部下(本書ではBさん)に対し、次のような段取りを組みます。

リーダー自身のクライアントに会う前、Bとは「今日の商談では、ここの説明をしてくれ」とあらかじめ打ち合わせをしておきます。

そして上手にできたらほめ、「今度は自分の商談でも活かしてみよう」と背中を押します。小さな成功体験を「リーダーの土俵」で積ませてあげるのです。

(本書96pより)

顧客に対しても、部下を教育目的で同行させることを伝えておけば、顧客から部下への直接指導も期待できます。こうして、リーダー本人の時間消費はミニマムに抑えて、部下の育成をはかれるわけです。

3. チームメンバー同士の協力が難しいなら

「チームで協力し合おうと何度も伝えていますが、うまくいきません」

社員同士の競争が激しい職場では、起きがちな問題でしょう。

たとえ、評価項目に「チームへの貢献」があっても、リーダーが「協力し合おう」と呼びかけているだけでは、かけ声倒れに終わってしまうものです。

そうならないために、浅井さんがアドバイスするのは「どのようなときに、何を協力し合うのか」の明確化。これで、協力体制は自然に築かれるそうです。

以下に引用するのは、個人間の競争のせいで種々の問題が生じていた住宅販売会社の事例です。

誰か担当のお客さまが来店しても、メンバーみんなで「いらっしゃいませ」と挨拶をする。

売れっ子営業マンの商談が長引き、お客さまを待たせているようならば、手の空いている営業マンが「今、担当の者が別のお客さまの応対をしておりますので、私でよろしければ、できる範囲の部分でサポートいたします」と申し出て、お客さまの要望を聞いたり、契約までの流れを説明したりと「仮詰め」を進める。

(本書152pより引用)

というふうに、協力するタイミングやその中身を細かな部分まで共有したそうです。

さらに、評価項目でも、1軒の家の成約のたびに「担当営業マンが10、サポートに入った営業マンは1」という割合で報い、チーム全体で目標を達成したらチーム全体に報いるという規定をもうけました。

こうした協力体制を敷いたことで、部署内の雰囲気もよくなり、年間売上も25%以上の伸びを示したそうです。

うまくいくポイントは、「どのようなときに、何を協力し合うか」「その協力についてどのような報い方をするのか」を明示することであると、浅井さんは力説します。

4. 部下に「仕事を押しつけてきた」と思われないために

上司であれば当然、部下に仕事を振る場面が出てきます。しかし、相手が「仕事を押しつけてきた!」と思うのではないかと不安では、業務もうまく進まないでしょう。

浅井さんは、部下が「仕事を押しつけてきた」と感じてしまう、3つのポイントがあると指摘します。

その1つが、部下が抱える仕事の状態を把握しないまま、新たな仕事を依頼したときです。

本書では、頼りになる部下にどんどん仕事を割り振り、毎日残業続きのその部下が退職を考えるまでになった事例が紹介されています。

そこで大切になってくるのが、「部下の仕事状態の把握」です。上の例では、把握のための面談を月1回行い、特定の部下に過重な負担がかからないようにしたそう。

もう1つ大事なのが、仕事を振る際に「明確な目的」と「明確な見返り」も伝えること。何のための仕事なのか、その目的も教えず指示すれば、部下はロボットみたいな扱いをされたと感じ、見返りが示されないと「働き損」と思われかねません。

浅井さんは、仕事を振ること自体は悪いことではないとしつつ、上で挙げた重要なポイントをふまえておくよう述べています。

5. 業績は維持しつつ「残業を減らす」には

働き方改革で、「上から“残業を減らせ”と指示がきましたが、業務に支障をきたしそうです」という声もあります。

日本の多くの企業では、恒常的に残業があります。浅井さんは、残業とは「短期的成果を得るための緊急手段」だとし、長く続ければ「確実にチームは潰れます」と警告します。

さらに、残業を減らし、離職率もメンタル不調者も減らして、なおかつ業績を維持するのは可能だとも。

そのために必要なのが「無駄な仕事を徹底して減らす」。どの職場にも「4割の無駄」があるそうで、ここにメスを入れることで、従来の6割の力でも業績を保てるという理屈です。

浅井さんは、部署をまたいで確認してみると、ほとんど誰にも読まれていなかった50ページに及ぶ営業資料があったという金融機関の例を挙げています。ここは、改善の結果として資料は8ページに減り、資料作成チームの残業はなくなったそうです。

「ただ昔からの慣例や思いつきでなんとなく行われている仕事はないでしょうか」と、浅井さんは問いかけます。そうした仕事を特定することが、業績を維持しつつ残業を減らすための第一歩となるのです。


『1万人のリーダーが悩んでいること』には、こうした悩み事と解決への道しるべが50ケースもまとめられています。

これらは、1万を超える悩みの共通点を絞り込んだものなので、通読すればどんな悩みも解決できる糸口がつかめるはず。リーダーになって長い人も、新任のリーダーにもおすすめできる1冊です。

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Source: ダイヤモンド社

Image: Shutterstock