「自分の仕事もあるのに、頼まれると断れない」「お願いしたら迷惑かなと思うと、頼めない」といった、「人を優先して、つい自分を後回しにしてしまう」心の習慣。
そのこと自体に問題はないのですが、結果的に自分が疲弊したり、幸せな気分から遠ざかってしまうのなら問題です。
そう指摘するのは、心理カウンセラーの積田美也子さん。
積田さんは、これまで3500人以上のカウンセリングを行うなかで、他人を優先して疲れ切っている人が多いことに気づきました。
そこで、同じ悩みを持つ人にもっと自分らしく生きてもらおうと、著書『「つい自分を後回しにしてしまう」が変わる本』(あさ出版)を出しています。
本書では、人を優先しすぎることを「恐れ」をベースにした「歪んだ思考の癖」とし、この癖を改善するための7つのステップを記しています。
たとえば、ステップ1は「今の自分を見つめるステップ」。
他の人たちの実例を読み、自分の思考の癖に気づくとともに、外に向いている意識を自分の内に向けるワークを行います。
各ステップのワークに難しいものはなく、時間もさほどかからないものとなっています。
どういったワークがあるのか、本書の中から3つをピックアップしてみました。
親との過去の関係を振り返る(ステップ2)
「自分を後回しにしてしまう」と積田さんのもとを訪れる相談者の大多数は、子どもの頃にこの思考の癖が身についたと話します。
中でも多いのが、親との関係。
親が厳しくて甘えられなかったといった体験が積み重なって、「親の気に入るようにしないと、受け入れてもらえない」という気持ちが生まれます。
成長しても学校などでダメなところを指摘されて自己否定感が強まり、歪んだ思考の癖は定着してしまいます。
積田さんはこの状態を「ありのままの自分ではダメ病」と呼んでいます。
この「病」にかかると、次のような症状となって現れるそうです。
自分に対して否定的であることが通常になっていると、自分の気持ちを優先したいと思っても、なかなか行動できません。
できたとしても、罪悪感を抱えてしまいます。
なぜなら、その裏には、 「こんな私が自分を優先して何かを選ぶなんて申し訳ない」 「正直なありのままの自分でいては受け入れてもらえない」 というような思いが隠れているからです。
(本書60~61ページより)
「ありのままの自分ではダメ病」の人が本当にダメなわけでなく、「ただ、あなたの中にそういう思いがあり、その考え方をあなたが信じている」だけだと、積田さん。
その思いの呪縛から解放され、自己肯定へと脱皮するためのワークが、一番影響の大きい親との関係を思い出すというもの。
具体的には、母親・父親との関係はどのようなものであったかを思い出し、印象に残っていることを書き出すというのが、まず1つ。
もう1つは、「親に遠慮したり、気を遣ったりして、自分の気持ちを我慢したり、後回しにしたりしていなかったか」を考えます。
自分を優先するために心を整える(ステップ4)
ステップ4は、抑えてきた感情を解放するためのワークと、「自分ファースト」というワークが中心となります。
前者は、「自分を優先できるようになりたいと思っているのにできない!」という心の負のループを解消する方法。
「いちばん言いたいことがある人」に対して、面と向かっては言いにくいことを、どんどん書き出します。
書き出した内容について「こんなことを思うなんて、自分はひどい人間だ」などと判断はしないのがコツ。心がスッキリしてきたら、感情の解放が進んでいる証拠だそうです。
後者の「自分ファースト」とは、1日1回でいいので自分最優先でしたいことを実行するというワーク。
これは、
1. 今日、自分のために何をしたいのか、自分に問いかける
2. 自分の正直な心の声を聞く(感じる)
3. 自分のためにそれを実行する
というプロセスで行います。
ポイントは、その日に絶対に実行可能で、人の協力が不要なこと、そして不足感・焦燥感から選んだものでないことです。
「お気に入りのお店にランチをしに行く」とか「仕事を定時にあがる」といったもので構わなく、罪悪感がよぎったら「罪悪感を感じているな」とただ認めます。
積田さんは、この「自分ファースト」で劇的に変わった相談者を取り上げています。
その人のある日の「自分ファースト」とは、鍼治療を受けるため有給休暇を申請することだったそうです。
それ以前も、時々鍼治療に通っていたのですが、遠慮して有休まではとることはなかったそう。
最初は自分ファーストに戸惑っていた彼女が、1カ月ほど経ち、「自分ファーストをするようになって、毎日が楽しくなりました。
一つひとつの小さい自分ファーストもそうですが、自分が本当に大切にしたいことを大切にして優先する。
それが、私自身が喜ぶことなんだとわかりました」と話すまでになったのは、とても大きな変化だと思います。
(本書115pより)
積田さんは、「自分ファースト」を繰り返すことで、自分の本心を知り、自分を優先することができるようになると、このワークをすすめます。
中立の視点で物事を見る(ステップ6)
これまでの5つステップのワークをやっても、ときには自分の気持ちを優先できないこともあるかもしれません。
それについて積田さんは、さまざまな「恐れ」にとらわれている可能性があると述べ、「恐れのメガネ」をかけていると表現しています。
「恐れのメガネ」とは、「過去の経験から身についた自分の思考の癖をもとに、目の前にいる人や物事を見てしまうメガネ」。
この心の中にあるメガネをかけている間は、過去の記憶を通して今を見てしまいがちになります。
その対処法が、「愛のメガネ」にかけ替えること。
このメガネは、相手・状況を「今、この時点での物事として、中立の視点で見る」便利なもの。
恐れを感じたときに、目を閉じて自分にしっくりくるメガネをイメージし、「私は、愛のメガネで○○を見たい。愛のメガネ、愛のメガネ、愛のメガネ」と唱えます。
本書には、言い方のきつい上司に疲れてしまっていた相談者が、この方法を試した話があります。
その結果、「大事なのは言い方ではなくて、相手が本当に伝えようとしていることは何か、そこだけフォーカスしたらいい」と、上司への見方・考え方が変わったそう。
「愛のメガネ」を使う経験を積み重ねていくことで、外の世界に対する安心感が増し、自分を後回しにしないようになっていくそうです。
自分を後回しにしてしまう癖を改善するというのは、一見ささやかなことに思えるかもしれません。
ですが、その変化は全般的な性格にもおよび、仕事を辞めて独立するなど目に見える人生にも前向きな発展があると、積田さんは説きます。
今までこのことで悩んでいた方は、本書の7つのステップを実践してみてはどうでしょうか?
あわせて読みたい
Image: GoodStudio/Shutterstock.com
Source: あさ出版