2015年、シアトルのあるCEOが全従業員の年収を7万ドル(約760万円)にすると発表してアメリカで話題になりました。そういえば、わたしもそのニュース覚えています。

全従業員の年収を大幅アップした背景

BBCによるとGravity Payments社のCEOダン・プライスさんがその決心をしたのは、友人(元カノ)から、アパートの家賃が200ドル(約2万2000円)上がるのでどうやってそれを捻出したらいいか悩んでいると聞かされたから。

そして、自社の従業員の多くもそんな経済状況であることに気づき、社員の年収アップを決心します。

ダンさんは、ノーベル経済学賞受賞のプリンストン大教授ダニエル・カーネマン氏の研究で、年収が75000ドル(約820万円)以下だと幸せを左右するというデータを覚えていたそうです。

そこから7万ドルという数字を決め、2015年から数年で社員の年収を7万ドルまでアップすると発表、実行に移しました。しかも、そのために顧客へのサービス料金は上げず、人員削減もせず、重役手当も減らさない。

その時点で年収が110万ドル(約1億2000万円)だったダンさんは自分の年収や報酬を削り、彼の年収も7万ドルになったそうです。

シアトルにあるGravity Payments社は2004年に設立されたクレジットカードの支払いなどを処理する会社です。

ダンさんが学生時代にやっていたバンドが演奏していたバーやレストランがクレジットカード会社の高い手数料に悩んでいるのを目の当たりにしたことから、同社を設立。

inc.記事では、キリスト教信者としての彼の確固たる信念や高い交渉能力が成功のカギとして挙げられており、顧客留保率は業界のレベルを大幅に上回り、90%を超えているそうです。

4年半経って、会社はどうなった?

さて、この決心から約4年半が経過しました。プライスさんがBBCに語ったところによると次のような変化があったそうです。

  • 会社の規模は、処理金額では38億ドルから100億ドルへと成長
  • 発表当時は120人ほどだった従業員数は2倍に
  • 経験の浅い社員は成長し、上級社員の仕事量は減り休暇が取れるようになった
  • 社員が子どもを持てるようになった(以前はせいぜい年に2人だったのが、給料アップ後には40人以上が誕生)
  • 家を購入することができた(住宅価格が高いシアトルで以前は1パーセント以下だったのが、10%を超える社員が家を購入)
  • 自分や親の負債を返済できた
  • 会社に近いところに引っ越しし、健康なライフスタイルを維持できるようになった
  • 老後資金を貯められるようになった

など、プラス効果は社員ひとりひとりだけではなく、会社全体にも及んでいるようです。

最低賃金7万ドルへの反応は?

発表以来、ダンさんに対しては賞賛とともにネガティブなコメントもあり、反発から辞めた上級社員も2人いたそうです。

多くお金をもらえるとなると怠ける人もいるのでは?という考えが脳裏をよぎります。しかし、実際にはほとんどの人はそれに見合う仕事をしようと頑張るようです。

増えた収入を自分たちの生活に役立つように活用しています。自分の仕事にはそれだけの価値があると感じられることでしょう。それに何と言っても社員の経済的な悩みは減り、ストレスも減少。

この記事を読んで、以前取り上げたケニアの実験を思い出しました。

貧困の地域の人に現金を提供するとどうなるかというものです。これはケニアの貧困家庭が平均で年収の75%にあたる1000ドルを受け取り、使い道はその人の自由に任されたところ、生活必需品の薬や食料、教育へ費やされたのです。

そして地元にも還元されポジティブな変化は受け取った人だけではなくコミュニティにもおよんだことがわかりました。

貧困国の人たちに現金を渡したら何が起きたか?|研究結果

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アメリカでは、日本でいうところの中途採用が普通に行なわれているので、社員は新卒ではなく、すでに他社や他分野である程度の経験や業績がある人が大部分ではないかと思います。

Gravity Paymentのように待遇が良ければそれだけ良い人材も集まってくるわけです。

年収が上がったことで変わったのは社員の意欲ではなく、能力の向上だというダンさん。営業部長のロシータ・バーロウさんも社員は「稼がないといけないから仕事に行く」という考え方ではなく「良い仕事をしよう」という視点の変化があったと言います。

現在は、コロナ禍で世界中が経済的な打撃を受け、企業はさまざまな対策を取る必要が出ています。

人件費の削除や人員削減は会社存続のために取られる可能性の高い対策ですが、2020年2月28日付のBBCの記事が取り上げたGravity Paymentsは、常識とは逆のアプローチをして成功している会社の例で、興味深いものでした。

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Source: BBC,inc.

Image: Shutterstock