年金をもらい95歳まで生きるには「夫婦で2000万円が必要である」と、金融庁から報告書が公開されました。
以前より「老後資金は3000万円必要」「1億円ないといけない」などと言われてきた中、国からモデルケースを用いて具体的に金額を提示されたことで、急に不安になってしまった人も多かったようです。
かねてよりの課題であったこの老後資金作り、どのようにすると準備ができるのでしょうか。
世帯年収600万円ほどでお子さんが2人いる一般的なご家庭では、どのように教育資金と老後資金を貯めていけばよいのかを、考えてみました。
横山光昭(よこやま・みつあき)

家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー 代表。お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、これまで1万人以上の赤字家計を再生。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は55万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』や『年収200万円からの貯金生活宣言』を代表作とし、著作は累計270万部となる。また、お金の悩みが相談できる店舗を展開するmirai talk株式会社の取締役共同代表も務める。
まずは、できるところから手を付ける

お金を貯めるには、「収入を上げる」「支出を減らす」「資産運用(投資)する」という3つのことが大切です。
自分ならどこに手を付けられそうか、考えて取り組んでみましょう。
多くのご家庭で一番取り組みやすいのは「支出を減らす」ことでしょう。
ムダ支出が発生しやすいのは、暮らし方により異なる部分も多いものですが、教育費や食費、日用品費は多くなりがち。
自分の支出を把握し、無駄だと思える部分の支出を削減していけば、貯蓄や運用に回す資金(余剰金)をねん出できるはずです。
支出の削減ではうまくいかない場合、もし妻が専業主婦であればパートなど、働くことも検討してよいでしょう。
仕事の休日に趣味を活用して副収入を得るというような副業ができれば、それもよいかもしれません。それにより余剰金ができれば、教育資金と老後資金の準備を始めるためのスタートを切ることができます。
ただ、無理をして健康を損なうような収入の上げ方、支出の削減の仕方はしてほしくないと思っています。ムダな医療費がかかったり、長続きしなかったりするからです。
貯蓄と資産運用(投資)、どっちから?

もし、手取り収入が31万円だとすると、目指してほしい毎月の貯蓄額は5万円ほど(月収の16%程度)。
子育て中はなかなか難しいかもしれませんが、2万円でも3万円でも、可能な限りの金額を貯蓄や運用に回していきましょう。
運用は合わない人もいるので、無理をすることはありません。しかし、できればやったほうが、貯蓄の延長線上にあるものとして大きな効果を発揮します。
運用をはじめるには、先に支出の見直しをするのがマストです。赤字ぎりぎりの状態なのに投資を先走って始めてしまっては、ボーナスや貯蓄から運用に充てるお金を回しているだけとなり、お金を貯めているとは言えません。
あくまで、毎月きちんと余剰金を出した中から投資をはじめましょう。
余剰金の目安となる貯蓄額は下記の通り。
毎月の生活費とイレギュラー支出分(1.5カ月分の収入):46.5万円
6カ月分の収入:186万円
この金額を手元に残しておけば、余剰金のすべてを投資に回しても大丈夫です。
30年貯蓄と資産運用(投資)を続けるとどうなる?
貯蓄額が足りない場合は、余剰金の半分以上は貯蓄にし、一部を運用する「並走」という方法をとってもよいでしょう。そして、貯蓄ができてから投資額を増やしていけばよいのです。
余剰金3万円を貯蓄2万円、積立投資1万円に回した場合
30年すると貯蓄は720万円、投資は3%で運用できたとすると582万円になります。合計で1300万円ほどです。
貯蓄がすでにあり、3万円をすべて運用する場合、30年で1748万円です。複利の力で668万円増えることになります。
余剰金4万円を貯蓄2万円、積立投資2万円に回した場合
では次に少し頑張って2万円を貯蓄、2万円を投資したとしてみましょう。30年後、貯蓄は720万円に。投資は3%運用ができたとすると1165万円になります。
今は、たとえとして一律の金額で試算しましたが、もっと資金を多くして運用できる時期もあるはずです。
そうすれば、もっと資産を増やすことは可能でしょう。期間も30年ではなく、20年、25年と短くなっても、長期積立の分散投資はやる意味があります。
複利の効果で、預貯金よりも効率がよく資産が増えるのです。これに退職金が加わる人もいるでしょうから、ゆっくり時間をかけて運用していけば、老後資金や教育資金もある程度作ることができます。
情報に振り回されず「自分の場合」を考えよう

「年金だけでは老後の生活費が2000万円足りないんだって」「急に自分で老後資金を準備しろ、なんてひどい」などという声が、今回の金融庁の報告書に関する報道から聞こえてきましたが、冒頭にも述べたようにあれは単なる「モデルケース」。
総務省の家計調査をもとにして算出したものであって、一つの目安でしかありません。
老後資金を足りるものにできるか否かはあなた次第です。
蓄えを作る工夫もしないまま老後生活に突入すると、老後資金はいくらあっても足りなく、「老後破綻」するかもしれません。
逆に、ある程度節約した暮らしが身について、毎月の補てんが2万円程度となれば、720万円の生活費を準備すると足りる計算になります。また、単純に生活費の補てんだけではなく、介護医療費、家のリフォーム代等の予備費も必要になるでしょう。
暮らし方が人それぞれのように、自分に必要な老後資金も違います。そこを忘れて2000万円に対して過剰に不安になるのはナンセンスです。
長く働くことも視野に入れる
今は再雇用制度も充実してきましたし、70歳を過ぎてもある程度働いて収入を得ることが可能な時代です。
老後資金は、早めに取り組んで貯めていくことが望ましいですが、万が一教育費などにお金がかかり、足りないなと思うことがあれば、「子どもを養うために働く」というよりは「暮らしを維持できるだけの収入を得る働き方をする」と考えてもよいかもしれません。
もし、働き続けることができ、上限の70歳まで厚生年金に加入できれば、年金受給額は増えますし、働いた収入で暮らせます。また、年金の繰下げ受給ができれば、最大42%、年金を増やして受給することもできるのです。
ただ不安に思うばかりではなく、今できるところから取り組んでいきましょう。
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Reference: 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」 ,年金の繰下げ受給(日本年金機構)
Image: Shutterstock.com