ユニークな制度やカルチャーを持つ会社のさまざまな働き方が集まる連載企画 「Workstyle Station」。今回訪問させてもらったのは、スムージーの製造・販売を行うイノセントジャパン合同会社(以下イノセント)です。
イギリスに本社を置くイノセントは、2019年に日本法人を設立し、アジア初進出。ヘルシーで質の高いスムージーの人気はもちろん、消費者を「ドリンカー」と呼んでSNSやリアルを通じて非常に距離の近いコミュニケーションを行なっているのが特徴です。
オフィスに訪れると、ウェルカムボードが出迎えてくれたり、「みかん食べますか?」とフルーツをすすめてくれたりと、みなさんとてもリラックスかつフレンドリー。何だかおばあちゃんちに遊びに来たみたいです。
今回は、ブランド&カルチャーガーデナーを務めるケイ・ベリスさんにお話を伺いました。
今回訪問したオフィス:イノセントジャパン合同会社
業務内容:みんなの健康と長生きを応援するドリンクを作る
エリア:東京都渋谷区
オフィスの広さ:60坪
従業員数:16名
定時:9:00~18:00(コアタイム10:00~16:00のフレックス制)
「ブランド&カルチャーガーデナー」って何をする人なの?
スムージーをはじめとするドリンク製品のブランディングのほか、企業風土・文化、社風の基礎を築く担当者です。
「前者の業務は一般企業で“ブランド・マネージャー”と呼ばれる役職に近いかもしれません。また、イギリス本社は“フルーツタワー”、日本オフィスは“フルーツガーデン”という名前がつけられているので、日本オフィスの基盤を作っていく、という意味も込められています」
そんな役職名、初めて聞きましたよ…! ほかにもイノセントには変わった名前の担当者がたくさんいます。
イノセントの役職名一覧
- フルーツガーデンマエストロ
- ブランド&カルチャーガーデナー
- ピープルズチャンピオン
- デジタルフルーツニンジャ
- ブランドチアリーダー
- オフィスエンジェル など
役職名だけを見ても、正直業務内容が全くわかりません。というわけで…
みんなどんな仕事をしているのか教えて!
たとえば、ドリンカーさんからの電話を受けるのはピープルズチャンピオンです。もっと私たちのことをドリンカーさんたちに知ってもらうことが主な仕事です。
イノセントの商品やホームページには、「バナナフォンにお気軽にお電話してね」というゆるいメッセージが電話番号とともに記載されています。通常、こうしたことが書いてある場合、商品に対する問い合わせが主な内容になりますが、イノセントの場合はどんな内容でもOKなんだとか。
「イノセントでは、ドリンカーさんとの1対1のコミュニケーションをとても大事にしています。なので、ドリンクに関する問い合わせはもちろん、恋愛相談や進路相談などにものったことがあります」
オフィスツアーもしてるって本当?
イノセントはオープンオフィスとなっているので、誰でもいつでも立ち寄っていただいて構いません。ちなみに、オフィスツアーを行なうのも、ピープルズチャンピオンの仕事の1つです。
「ドリンカーさんには、“遊びにきてね”といつも伝えています。イギリス本社でも同じことをしていて、日本に進出するときからこの文化をここでも根付かせようと決めていました。もちろんスムージー飲み放題ですよ!」
イギリスでは浸透しているかもしれませんが、日本にはオープンオフィスの文化なんてそれほど広まっていません。いきなり「オフィスに遊びにおいでよ!」と言われても、なかなか来てくれないのでは?
最初は誰も来ないんじゃないかと思っていたのですが、オフィスをローンチして3ヶ月くらいで100人以上が遊びに来てくれて。私たちが一番びっくりしました(笑)。
事前にアポを取ってから来る場合もあれば、突然訪れる人もいるそう。ちなみに、アポを取っているとウェルカムボードがお出迎えしてくれてうれしい気持ちになります。
遊びに来た方は、スムージーを飲みながらピープルズチャンピオンのオフィスツアーを楽しんだり、社員の方とおしゃべりしたりするそう。いったい何の会社なのか忘れてしまいそうですね。
SNSもユニークですよね。一体誰が担当しているの?
デジタルフルーツニンジャです。ドリンカーさんからコメントがあったらすぐにリプライしますよ。
もちろん、1対1のコミュニケーションを大切にするということはSNSでも同じ。イノセントのTwitterやInstagramのアカウントはとてもユニークで人気となっており、ドリンカーとの距離を縮めるために大きく貢献しています。
「ドリンカーさんのコメントを放置しておくのはあり得ないですね。リプライも自動返信ではなく、デジタルフルーツニンジャがきちんと1つ1つに返事をしています」
サンプリングイベントなどでドリンカーと直接会うときも、「SNS担当者は誰?」 とよく聞かれるそう。それだけドリンカーの間でデジタルフルーツニンジャの存在が認知されているということですね。
TwitterなどのSNSをうまく使ってマーケティングをしている企業も日本には多くありますが、イノセントはリアルとSNSを効果的に活用してドリンカーと友だちのような関係性を築いているようです。
社員同士の関係も近いの?
家族のような距離感です。たとえば、社長の席は特に用意していません。座れる席がないときは、社長であってもオフィスの隅っこで座って仕事をしています(笑)
イノセントはホットデスキングを採用。フリーアドレスと似ていますが、基本的に部署や役職を問わず、みんなが平等にオフィスを使うことを指します。このホットデスキングはイギリス本社を始め、世界中のイノセントのオフィスで共通の制度なのだそう。
「社長であっても、誰であっても同じです。偉い人だから席を譲るというのはイノセントでは御法度です」

この『みんなが平等』という社風は、オフィス内にも現れています。オフィスの壁面には、社員の子どもの頃の写真が飾ってありますが、これは一体何ですか?
私たちはみんな同じところから来た、イーブンだということを示すために、社員のベビーフォトを飾っています。
みんな昔は子どもで、同じ立場にあったんだということを忘れないようにしているんです。
働いている人は全員対等な立場。それがイノセントのカルチャーなんですね。
親睦を深めるためのイベントはあるの?
毎週金曜日の午後5時にお酒を解禁する“Friday Beers”というものがあります。
「これはイギリス本社でも行われているのですが、日本のほうがきっちりやってますね。国民性が表れてるのかも(笑)。
金曜日の午後5時になるとお盆にビールやサワー、ワインなどいろいろな飲み物をのせて、社員が各デスクをまわって配ってくれています。もちろんスムージーも!」
みんなで集まって乾杯するというよりは、各々好きにお酒を飲んで楽しもうよという、非常にカジュアルなイベントのよう。飲みたくなければ飲まなくてもいいし、用事があれば帰ってしまっても構わないのだそう。強制感のない、こうした適度なゆるさもイノセントらしいですね
フレンドリーで自由なオフィスづくりに欠かせないことは?
一番力を入れているのは採用活動。私たちのカルチャーにフィットするかどうかを深く見ています。
「私自身も入社する際、“もし自分の家族のクリスマスディナーに呼べない人だったら採用しない”と面接で言われました。仕事ができても、フレンドリーさがなかったら私たちのカルチャーと合わないのでは?と思います」

イノセントには5つのバリューがあり、上の画像の通り明文化されています。仕事のスキルと同じくらい、カルチャーにフィットするかどうかが重要。
だからといって、社員に「もっとこうして!」というように強要しているわけではなさそう。どちらかというと「ナチュラルに自分のベストが出せるように」といった感じです。
「新しく入社する人には、ドリンカーさんへの接し方やイノセントが大切にしている考え方などは最初にレクチャーしますが、どちらかというと働きながら感じてもらうようにしています。
それに、誰だっていきなり友だちになれるわけではありません。ここにいるみんなも、最初から仲が良かったわけではないし。各々がバリューを意識して行動することで、時間が経つにつれてどんどん距離が縮まっていったのだと思います」
イメージ的には、新入社員はあるクラスにポンとやってきた転校生のようなもの。最初は距離がありますが、時間が経てばクラスの雰囲気やルールもわかり、仲良くなっていきます。無理矢理「仲良くしなさい!」と強いるのではなく、時間をかけて徐々に仲間になっていく。それがイノセント流。
イノセントの働き方を維持するために大切なことは?
会社が大きくなってもこのカルチャーを保つことです。
イノセントは自分たちの会社を「リトルドリンクカンパニー」と呼んでいます。
ヨーロッパでは有数のチルドドリンクカンパニーとして有名ですが、ドリンカーとの関係性はもちろん、働き方や社員間のコミュニケーションの面でも、いつまでも小さな会社だった初心を忘れないこと。それがイノセントらしさを継続するための一番重要なことだそう。
「システム上で休暇を申請するとき、承認がおりると通知が来るのですが、マネージャーから“旅行楽しんできてね。歯ブラシ忘れないでね”ってコメントがあったんです。
そうした些細なことを見る度に、日本にはあまりない、本当におもしろい会社だなと思いますし、このスタイルが続いてほしいです」
ハッピーでいること。それが原点
人々がみんなハッピーでいることが大事というのがイノセントの根底にある思想。だからこそ、ドリンカーのためによい製品やサービスを提供することに一生懸命だし、社員のことも家族のように大切にする。
ただ、そのために何か大掛かりなことをしているわけではなく、1人ひとりが日常の小さなことを意識して行動しているだけ。その積み重ねの結果、イノセントは世界で愛される会社になってきたのではないでしょうか。
今回ケイさんにシェアしてもらったイノセントのカルチャーや考え方は、もはや働き方や仕事をするうえで必要なマインドというよりも、1人の人間として生きていくうえで大切なことのような気がします。
チャンピオンがいてガーデナーがいて、忍者やエンジェルまでいるオフィス。興味を持たれた方は、一度オフィスを訪れてみてはいかがですか? きっとイノセントのみなさんは大歓迎してくれますよ!
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Photo: 松島徹
Image: イノセントジャパン