新年を迎えて、これまでの習慣や目標を見直したり、これからの働き方を考えたりしている人も多いはず。
人生100年時代、働き方改革、ダイバーシティ…と、私たちを取り巻く環境は、この数年で大きく変化しています。
そんな時代に、独自の感性で世界が注目する驚きの高級リゾート施設を生み出している雅叙苑観光 代表取締役の田島健夫さんにお話を伺いました。
田島さんが手がける鹿児島県の山間に広大な土地を切り開き建てられた「TENKU|天空の森」は、他に類を見ない体験ができると、海外セレブがこぞって訪れる特別な宿。
同じく田島氏が手で造った「忘れの里 雅叙苑」と共に世界の高級リゾートが名を連ねる「ルレ・エ・シャトー」に選出されています。
田島さん曰く、変化の時代の中で生き残る策とは「戦わずして勝つ」こと。
田島さんの考えるこれからの働き方、また世界と肩を並べるクリエイティビティの源泉に迫ったインタビューには、新年の幕開けにふさわしい、ビジネスの眼目が詰まっていました。
ビジョンはあるけど、習慣はない。あえて考えない

ーー田島社長は、一日をどのように過ごしていますか?
実は、スケジュールというようなあまり決まったことはないんです。
朝起きて、朝食を食べて、猫と遊んで。その後は、「TENKU」と共に経営している「雅叙苑」に寄ったり寄らなかったりして、「TENKU」に戻ってくる感じ。
日々の習慣というより、自然と一緒に季節の移り変わりや身体のリズムに合わせて毎日を過ごしています。
ーー決まった習慣はないのですね。
僕は「こうしたい」っていうビジョンはあるけど、習慣はありません。
何か対応が必要なことやおかしなことが起こっていると、自然と気になるんです。
気持ちがそこに向くというか。そういうことが起こった時に、電話をしたり現場に行ったりして確認します。あえて考えないことが大事です。
ーー昔からそうなのでしょうか。
そうですね。例えば、さっきも鳥が鳴いていましたが、「この鳥はなんの鳥かな」とか「どっちで鳴いているのかな」とか、他にも季節の匂いとかね。
東京も僕にとっては、新橋は新橋の匂い、銀座は銀座の匂いがしているんだけど、現代の生活の中ではだんだんとやっぱり感覚は衰えてくる…。
この森の中では五感が冴え渡るんです。そうすると自然と直感で感じるようになります。

ーー感覚を研ぎ澄ますということですか?
研ぎ澄ますんじゃなく、動物のように感じるんです。
そうやって昔の人たちは「本能」に従って生きてきたはず。縄文人とかはきっとそう。それがどんどん衰えてきちゃって…。
だからこそ、リゾートは、「本能」を取り戻すことだと思っています。
ーーまさに「リゾートとは人間性回復産業だ」という、理念と繋がりますね。
今は、「本能」が薄くなって、欲のままに生きるようになっていると思うんですが、「本能」のままに過ごすことがリゾートの本質だと思っています。
あれが欲しい、出世したい、お金が欲しいといった欲をいったん取っ払って、自然の中で過ごす。人間が人になる瞬間です。
そうやって自分を取り戻して行くのがリゾート施設だと思います。
世の中に必要とされることを生み出す

ーー「TENKU」は、東京ドーム13個分の敷地にヴィラがたった5棟と他に類を見ない施設。そのような施設を作ろうと思ったきっかけは?
それは、生き延びる為ですね。
僕は生き延びる方法は、ふたつあると思っていて、ひとつが戦って勝つこと。
そしてもうひとつが、戦わずに自分の立つステージを作ることなんです。
現代において多くは、勝った者しか生き残れないけど、こんな片田舎でやっている僕たちは到底勝てない。だからあえて同じ土俵には立たないようにしています。
生き延びるというのは、世の中に必要とされることが何かを見いだすことです。
そのためには、いろいろなものに非常に敏感にならないといけない。
でも、それは決して「ニッチなものを生み出せ」ということではないんです。
必要とされることを生み出す。それが創造性、クリエイティビティの本質だと思います。
他にはないものを作るために重要な視点

ーー田島社長のクリエイティビティの源は、どこなのでしょうか。
僕の仕事のやり方は、既存のマーケットには入らず、常にプロダクトアウトしていく方法なんです。
「雅叙苑」もそうでしたし、「TENKU」も、まさしくそのやり方で作ってきました。
「雅叙苑」がうまく行った時、そのマーケットには次々と人が入ってきました。じゃあ次に生き延びるためにどうするかと考えた時に、そのマーケットを捨てる決断をしました。
そして新しく作ったマーケットが「TENKU」です。
どちらもインバウンドのお客様が多いのですが、まさに日本文化を求めている人たちが動き出しているという証拠ではないでしょうか。
観光という言葉は「光を観る」と描きますよね。光とは、地域性や個性のこと。
だから僕は「雅叙苑」や「TENKU」で、娯楽でもレジャーでもない真の意味の観光を創りたいと思っています。

ーーそう言った場所を運営するときに、どのような組織づくりを心がけていますか?
「リゾートは人間性回復産業」と掲げている通り、スタッフも人間性を回復し、人としての本質を持ってゲストに接するようにしています。
「TENKU」は、バチカンよりもちょっと大きいくらいの広さなんです。だから僕はここをひとつの国家だと思って作っています。
国家は文化が生まれる場所ですから、一人一人に存在感や役割があることを大事にしています。でも「存在感がある=国家の主役ではない」ではありません。
あくまで僕たちは、ゲストの為のステージを作るのが仕事だからです
自分自身を見つめるためにやってきた人
幸せとは何かということを問いたい人
素敵な場所だからってきてくださった人
ゲストそれぞれに目的や思いがあるので、それをサポートしているという思いを常に皆が持っている組織にしたいと思っています。
ですから、お客様一人一人に目配せ、心配りができる人材こそがこの場所に必要です。
国家は人であり、人が国家のアイデンティティを作り上げると思っていますが、すぐにできるものではありませんよね。
「TENKU」という国家も、今まさにアイデンティティを構築している途中です。
ーー長期的な視点ですね。
僕が育った時代は「未来はきっとこうなる」とみんなが思っている時代だったんです。
だから、いつもはるかかなたの豊かで幸せな生活を見ていました。
ビジネスで言えば、長期経営計画です。20年後どうなっているか。
長期経営計画は、変わっちゃいけない。中期計画は、そこそこ変わっていい。でも短期計画は、どんどん変わらないといけない。
それぞれを持って動いていくべきだと思うのですが、現代は長期も中期もなくて、短期しかない。だから一喜一憂してしまうんです。
全ての人は、ハッカーになれ!

ーーそのような時代で、ビジネスマンに求められることは何だと思われますか。
ビジネスの長期経営計画と同じように、そこで働く個々人も10年後、20年後の自分を考えていく必要があると思います。
あと10年もしたら、AIやロボットがもっと台頭してきて、これまでの評価軸がガラリと変わるはずです。
超効率化が始まっている。だからこそ、頭を使わなければ。「情報革命」の次は「頭脳革命」だと思っています。
ちなみに、働くという字は「人が動く」と書くけれど、これからの時代は「人に頭」と書いて「はたらく」と読むような時代になっていくんじゃないかな?
だから効率化は、AIやロボットに任せて、私たちは存在感のある人になるしかない。
今も成功している人たちは、みんな好きなことをやっていますよね。本当に好きなものがある人がプロフェッショナルだと思うんです。
だって、好きなことに効率化はないですよね?
だから、今もう一度「職場とは何か」「好きなことはなんなのか」考えてみたらいい。それができる人が生き延びられるのではないでしょうか。

ーー考えることが今以上に大事になりますね。
全ては妄想から始まるんです。
僕は、20年前はただの種でした。それがここまで成長したのは、常に妄想していたから。
お金じゃないんです。こんな片田舎でもこういうことができているのは、とても重要なケーススタディだと思っています。
だから、ぜひ妄想していただきたい。何かを生み出すには妄想するしかないんです。
ーー「全ての人がクリエイティブであれ」ということですね。
その通り。
僕はハッカーが大好きなんですが、ハッカーって言葉だけ聞くと薄暗い部屋でパソコンを叩いて情報を盗むイメージもあるけど、そうじゃない。
今ある常識を壊す人がハッカーなんです。全ての人はハッカーになれと言いたいし、僕がまさにハッカーですね(笑)。

直感を信じながらも、長期的な目線を持ち、日々妄想し、今やるべきことに取り組む田島氏の姿勢は、私たちの日常にも応用できるもの。
新年という区切りの時、もう一度これまでを振り返り、「価値=勝ち」を生み出すために新たな目標を立ててみてはいかがでしょうか。
田島健夫(たじま・たてお)

1945年鹿児島県牧園町妙見温泉の湯治旅館「田島旅館」に生まれる。
大学卒業後、銀行員を経て、70年に「忘れの里 雅叙苑」を創業。94年より竹山を開墾し、2004年霧島連峰を見渡す丘の頂に、豊かな自然の中で五感を開放するリゾート「天空の森」をオープンする。
「リゾートとは人間性回復産業である」を信条とし、南九州の素晴らしさを伝えながら、常識では考えつかない、非常識なラグジュアリー体験を追求している。
Photo: 黒木あや