「働く」ことへのネガティブなイメージがまだまだ残るいま、社員がのびのび楽しく働くための取り組みをたくさんの会社が進めています。

Workstyle Station」は、そんなユニークな制度やカルチャーを持つ会社のさまざまな働き方を紹介し、「働きやすさとは何か?」を考える新連載。

今回訪問させてもらったのは、シービーアールイー株式会社(CBRE)です。

CBREは、5年前から「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」という、ちょっと変わった働き方を取り入れています。

今回は、人事部で働くソニア・メイヤーさんにABWのことや具体的な働き方についていろいろと教えてもらいました。

今回訪問したオフィス:シービーアールイー株式会社(CBRE)

業務内容:不動産業(国内および外資系企業を対象とした事業用総合不動産サービス)

エリア:東京都千代田区

オフィスの広さ:1,145坪(2つのフロアを利用)

従業員数:約1,100名

定時:9:00~17:30(コアタイム10:00~12:00のフレックス制)

アクティビティ・ベースド・ワーキングって何?

電話ブース
オフィスのいたる所にある個室の電話ブース。電話をするときはもちろん、個人が集中して作業したいときにも使われる。
Photo: KOBA

仕事の内容にあわせて働く場所・時間を変える”働き方です。

「これから取り組む仕事に対して、いつ・どの場所でやるのが最も効率がいいかを自分で決めることができます。

そのために、オフィスにはいろいろな席が用意されています。CBREでは9種類のスペース・計15タイプの席を使って仕事をしていますよ。」

CBREにあるスペース一覧

  • オープンスペース
  • クワイエットスペース
  • カフェスペース
  • 電話ブース
  • ミーティングルーム
  • 休憩スペース など

(オフィス全体は「LAエリア」「NYエリア」「東京エリア」「SYD(シドニー)エリア」などに分かれている)

同僚とカジュアルに話しながらアイデアを出したいならオープンスペース、静かな場所で資料をつくりたいならクワイエットスペース、機密性の高い電話をするなら電話ブースなど、選択肢がいろいろありそう!

あれ? でも…

フリーアドレスとどう違うの?

クワイエットスペース
集中して作業ができるクワイエットスペース。社内のこの空間のみ私語禁止となっており、電話機も一切ない。社員同士の会話が多いほかのエリアとは違った雰囲気。
Photo: KOBA

フリーアドレスとABWはまったくの別物! その理由は、目的の視点の違いです。

「フリーアドレスは会社の面積を少なくして、コストを下げようとする『経営者』の視点に立ったもの。

いっぽう、ABWは「どうしたら社員がベストな働きぶりを発揮できるか?」という『働く人』の視点に寄り添ったもの。働く人のアクティビティ(=仕事)をサポートするベストな空間が、オフィスに集められているんです。」

なるほど! 仕事内容や自分のスタイルに合わせて、いちばん生産的に働ける環境を自分で選べるってことですね。

確かに、それができればおのずとパフォーマンスは上がりそうだし、これならオフィスに行きたくなるかも。

もともとは固定席だったのに、何で変えようと思ったの?

LAスペースで働く社員たち
「LAエリア」にあるオープンスペース。奥の壁にはLAをモチーフにしたウォールアートが描かれている。ほかにも「NYエリア」「東京エリア」など、エリアに合わせて壁のデザインが違う。
Photo: KOBA

1つは、コミュニケーションがうまくいっていなかったから。部署を越えた横の連携を強くしたかったんです。

もう1つは、自律的な働き方をみんなにしてほしかったから。もっと仕事に積極的になってほしいなと思っていました。

「この2つを解決するのにABWはぴったりだと感じたし、オフィス移転の話が出たのが、ちょうど世界がABWを導入し始めた時期。タイミング的にもこれだ!と。」

自律的に働くためにABWは良さそうだけど、コミュニケーションは…?

相手の姿が見えなくなるので、かえって少なくなってしまいそうですが、実際のところどうなんでしょう。

実際どう変わったの?

各々が好きな場所で仕事しているから、情報もヘルプも自分から積極的に取りにいかないといけない。今まで以上にコミュニケーションが重要・活発になりました!

むしろ逆なんですね。これは意外!

NYエリア
「NYエリア」の一角。各エリアのこうしたデザインは「PCから目を離して壁を見るだけでも、雰囲気が変わって気分転換になる」と、社員から好評だそう。おしゃれ…
Photo: KOBA

社員の意識も、結果へのこだわりが強くなりました

「限られた時間の中でどれだけ売上を出せるか、1人ひとりがしっかり考えながら仕事に取り組むようになったと思います。」

スケジュールの組み方も自由なら、仕事はササッと終わらせて帰りたくなるもの…。でも成果はあげないといけないのが社会人としての責任!

となれば、「短い時間で結果を出すにはどうすればいい?」とちゃんと考えるようになるのも頷けます。

具体的にどうやって働いているの?

インタビューを受けるソニアさん
シービーアールイー株式会社 ソニア・メイヤーさん。人事部ディレクター兼タレントアクイジション。採用を担当するほか、社員が快適に働ける環境づくりに従事。2児(双子)のママ。
Photo: KOBA

個人作業のときは、視界が開けてアイデアの出やすい窓側のオープンスペース、ブレストのときは、ホワイトボードのある4人がけのデスク、など、1日の中でもかなり自由に社内を動いているソニアさん。

静かすぎるとかえって集中できないので、クワイエットスペースはほとんど使わないですね。

気負わずに話せる空気をつくるために、あえて相手の近くで仕事したりと、オフィス内をかなり自由に動いています。そういったこともABWだからこそ、カジュアルな形で周りの人もストレスなくできていると思います。

私ならちょっとざわざわしているカフェスペースの方が集中できそう!

でも、そんなに移動してると、社内で自分がどこにいるかほかの人はわからなくないですか?

もちろん、社内チャットのステータスで自分がどこにいるかは誰からもわかるようにしています(笑)

よかった! これがないとソニアさんを探すので1日が終わっちゃうところです!

ABWに変えたことで逆に困ったことはある?

メールの数が増えた

「隣の席にいる同僚にちょこちょこっと話して用をすます、ということができなくなったので、社内メールの数が格段に増えました。」

大きなデメリットじゃないけど、確かにちょっとわずらわしいかも。

荷物を運ぶのが面倒

「ノートPCのバッテリーが重くて持ち運ぶのが大変です。持ち歩くものを必要最小限に抑えたくて、みんなどんどんミニマリストになっていきます。」

これはものすごくよくわかります。全部の席にバッテリーがついてたらいいのに…

新入社員は大変

「こうした環境に置かれても、自分から積極的に知識を求めていくタフさが必要。また、自由な働き方には周りとの信頼関係が大切です。

新入社員にとっては何もかもが整った環境とは言えないかもしれませんね。」

新卒でいきなりこの環境はハードル高そう。それに、この働き方はどこにいても“きちんと仕事しているんだ!”とお互いを信頼していることが前提。その関係を築くには、ある程度時間も必要ですね。

もちろん、新しく迎え入れる社員に対しては事前にトレーニングやレクチャーを行なっているそうですよ!

オフィスや働き方以外にもユニークなものはある?

▼SASGAアワード

「“さすがだね!”と言わせるようないい仕事をしたら褒め合おう!という目的からはじまった制度です。

アワードは約10種類あって、個人・チーム単位で与えられます。ノミネートは毎回100名以上にもなります。」

こうした環境だと、誰もが各個人の働きぶりを見てくれているわけではないのでモチベーションになりそう

カフェスペースで働く社員たち
CBRE社内にあるカフェスペース。飲食物は有料だが人気が高く、いつも多くの社員が仕事や休憩の場として利用している。社外とのミーティングに使われることも。「他部コン」などの社内イベントもここで行なわれることが多い。
Photo: KOBA

▼他部コン

「部署同士のいわゆる懇親会。お互いのことをもっとよく知る目的で始められた社内イベントです。

チーフ・コラボレーション・オフィサー』という役職の担当者がいて、『他部コン』を開いたり、社内のどのチーム同士をコラボさせるかという施策を主導してくれています。」

信頼関係を社内全体につくるためには、イベントや交流会も必要だし、他部コンはCBREが横の連携に力を入れていることを示すものでもありますね。

しかもこの2つはどの会社でもすぐに取り入れられそう!

「理想の働き方」「働きやすさ」って何?

インタビューを受けるソニアさん
Photo: KOBA

固定概念に縛られず、それぞれのやりたい方法で自由に働けること。

「私には小学5年生の子どもがいますが、子育てにも仕事にもしっかりコミットしたいと思っています。

なので、子どもとの時間をしっかりとりつつも、子どもが寝た後に仕事を再開するなど、柔軟な働き方をしています。

もちろん、私みたいにライフステージに合わせて働き方を変える人もいれば、リフレッシュのために朝やお昼にランニングする人など、いろいろな働き方をしている社員がCBREにはいます。

それぞれに合った仕事の進め方ができる環境が一番効率的な働き方だと思いますし、会社がそうした働き方を社員に認めることも大切でしょう。」

生きがいも働きがいも、ライフステージに応じて求めるものも、人によって違うのは当たり前。

それぞれの違いをリスペクトしたうえで、チャレンジできる環境が整っていること自分のキャリアを自分らしくつくっていける選択肢があることが働きやすさにつながるのかも。

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Source: シービーアールイー株式会社

Photo: KOBA