ライフハッカー[日本版]とBOOK LAB TOKYOがコラボするトークイベント「BOOK LAB TALK」。
第13回目のゲストは『弱者の戦術 会社存亡の危機を乗り越えるために組織のリーダーは何をしたか』(ダイヤモンド社)の著者であり、アソビュー株式会社の代表取締役CEOの山野智久さんです。
コロナ禍で売上ゼロというピンチに直面しながらも、「事業を継続し、1人も社員を解雇しない」と決意し、4カ月でまさかの大逆転を起こした山野さん。
言葉の力を最大限に生かすリーダーシップや、折れそうな心を守る「技術」について、ライフハッカー[日本版]編集長の遠藤が聞きました。
泣いてもあきらめない。どん底からの復活劇

リクルートで営業や事業開発を経験したあとに独立し、2011年に遊びの予約サイト「アソビュー!」を創業した山野さん。事業は順風満帆でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大で「どん底に叩き落とされた」と話します。
国民全体に「お出かけしている場合じゃない」というムードが広がるなか、「アソビュー!」のレジャー予約数は激減。毎年のように過去最高を更新していた業績は、2020年4月~5月で昨年対比マイナス95%に落ち込みました。
売上が立たず、投資家からは見放され、資金調達の目処もない。
しかし山野さんは、社員の雇用を「在籍出向」というアイデアで守り、「戦術リスト」をもとにコンサルティング業務や「おうち体験」のEC販売、「日時指定電子チケット」システムの開発・導入と、新事業を次々に展開。見事に事業を立て直し、2020年の8月には昨年対比232%という成長率を記録したのです。
『弱者の戦術』ではアソビュー!が危機を脱し、V字回復に至るまでの過程を「泣く姿も含めて全部素直に、等身大で」書いたという山野さん。
僕自身、トップ大学の出身でもMBAホルダーでもなく、メンタルも決して強くない。文句を言われるとすぐ傷つくし、人にどう見られているかも気になる「気にしぃ」なんです。
だからその分、技術でメンタルをカバーしてきましたし、豪胆な経営者ではない自分の苦しみや、リカバーの方法を伝えることで、危機にある誰かの役に立つのではないかと。
全編を通じてあがき、泣いてはいるけれど、あきらめなかったことで活路が生まれた。本を書くのは大変でしたが、そこを読み取っていただけたら、それだけで価値があったのではないかと思います。(山野さん)
言葉と感情はシンプルなほど人に伝わる
セッションの聞き手をつとめた遠藤が注目したのは、言葉、ミッション、ビジョンを明確に打ち出すことで皆をひとつにまとめる、山野さんのリーダーとしての手法です。
言葉でどれだけ大局を変えられるか、言葉に多くの影響力をもたせられるかは、リーダーとして山野さんが強く意識している部分とのこと。言葉にコンシャスになったきっかけを遠藤が尋ねると、「幼稚園の頃からずっとガキ大将だったんです」という意外な答えが返ってきました。
ガキ大将って何かというと、言葉のコミュニケーションでその場をリードしていく存在。仲間にビジョンを示し、方向性をつくるというのが僕が幼少期からやってきたことでした。
リーダーにも色々なタイプがありますが、振り返ってみると自分の出自はガキ大将。わかりやすい、伝わりやすいコミュニケーションが強みだと感じています。(山野さん)
その後、山野さんは経営者となり、改めて「伝えること」の重要性に気づいた出来事があったといいます。
創業から4年目で2億円の資金調達をしたんです。それまで15人だった従業員が一気に50人に増えた結果、マネジメント経験がなかった僕は組織を崩壊させかけました。
志を持って集まってくれた人が強い不満を漏らし、古参メンバーからそれを聞くような有様で。
僕もすごくショックだったんですが、最終的に全社会議で発した言葉は「みんな、ごめん!今の自分は素晴らしいCEOじゃないけれど、誰よりも成長したいと願っている。もう1回チャンスが欲しい」。
そう明確に、シンプルに伝えたんです。そうしたら徐々に「しょうがないなー」とか頑張れ、という感じで…。(山野さん)
その結果、崩壊しかけた組織は復活。社員の間に一体感が生まれたという実体験から、「もっとも威力があるのはシンプルな言葉、シンプルな感情」であることを知ったと山野さんは語ります。
優秀な人ほど難しく、たくさん話しがちですが、相手には基本的に“印象”しか残りません。そうではなく一言で、端的に言う。そこに話を受け取る人が共感できるキーワードが入っていることのほうが、重要なのかなという感じがします。(山野さん)
山野さんは週1回の全社会議でも、前日までに話す内容をテキストに起こし、推敲を重ねるといいます。その重みを知っているからこそ、社員に発する「言葉の準備」は入念に。いま何を伝えるべきか、ずっと考えているのだそう。
「集中瞑想」でメンタルブレイクを回避
『弱者の戦術』は、心が折れそうになった山野さんが夜の代々木公園周辺を泣きながらひた走る…というシーンからはじまります。
自己認識としては「メンタルが強い方ではない」という山野さん。リクルートでの新人時代も、飛び込み営業では「自分をメタ化して営業マシーンに仕立て上げる」ことで、門前払いされるつらさを乗り切ったのだとか。
そうやって自己流の技術でメンタルブレイクを回避してきました。
たとえば経営者として一番グサッとくるのは、「ちょっとお話が…」からはじまる辞職の話。これを防ぐ方法は、常にくだらないことを話せる関係性をつくっておくこと。
お互いに「最近モチベーションが上がらない」といった話も許容できるようになっていれば、「お話が…」の前に何かしらの手が打てます。(山野さん)
会社の窮状に思いを馳せ続けるのを防ぐために、「考えない時間」をつくるというのも山野さんが編み出したメンタルブレイクの回避策。
アスリートのように走り込むこと、料理をすること、『梨泰院クラス』や『愛の不時着』などNetflixのドラマを集中して見ることで、強制的に「考えない時間」をつくっていたといいます。
これはコルク代表の佐渡島庸平さんに伺ったのですが、瞑想のなかでも何かに集中する集中瞑想は取り入れやすいと。サウナに入る、とにかく早く走るなど、体の感覚に集中する時間をつくるのがおすすめとアドバイスをいただきました。(山野さん)
リーダーとは「ビジョンを作る人」
セッションの最後、遠藤の「リーダーとは?」という問いかけに対して、フリップに「ビジョンを作る人」と書き込んだ山野さん。

結局リーダーとは、自分自身が何を実現したいか、どうありたいかというビジョンをつくれる人なのだと思います。組織のトップというだけではなく、自分自身の生き方をもっている、正解がないなかで自分のビジョンをつくることができる。
そういう人をリーダーと呼ぶのではないでしょうか。(山野さん)
自分の人生をリードするという意味では、誰もが自分自身のリーダーです。有事にあっては体を労り、頭や心を休めながらも「あきらめない」ことが大切。長引くコロナ禍に立ち向かうための、貴重なヒントをたくさんもらえたセッションでした。
