新年あけましておめでとうございます! ベルリン在住のテックライター、佐藤ゆきです。今回は「ライフハッカー[日本版]が注目する2016年に移住したい世界30都市」として、インターナショナルでアーティストやフリーランサーに愛される街ベルリンについてご紹介します。
ベルリンはどんな都市ですか?
一言でいうと、歴史と文化、自然にあふれる街です。
第二次世界大戦でベルリンは徹底的に破壊されました。その後、冷戦時代にはベルリン市内は東西に分断されていました。そして、1989年にベルリンの壁が崩壊後、世界各地からその安い家賃と自由な雰囲気に惹かれて多くのアーティストがベルリンに住むようになりました。ここ数年は、私が取材する対象でもあるスタートアップシーンもとても盛り上がっています。スタートアップの盛り上がりも、今や世界的に有名な音楽共有サイトのSoundcloudのファウンダーたちが安い家賃と活気のある音楽シーンを求めてベルリンに移り、拠点を構えたことからスタートしました。
このようにベルリンは過去の歴史において、常に変化し続けてきました。そして、その波乱万丈の歴史が街のあちこちに埋め込まれている街でもあります。
そして、ベルリンにはさまざまな国籍、エスニシティのバックグランドをもつ人々が住んでいます。もともと、第二次世界大戦後の復興の時期に臨時の労働力として、トルコから多くの労働移民がベルリンに移住しました。彼らの二世、三世の世代がベルリンでも大きなコミュニティを築いています。そして、上にも書いたように壁崩壊後はドイツ国内外からアーティストが移り住むようになりましたし、最近ではベルリンのスタートアップシーンに惹かれて、特に欧米から多くの若者が移り住んでいます。とてもインターナショナルな街なので、ドイツの他の都市に比べれば、英語も通じやすいですし、外国人に対して寛容であると感じます。
もう1つの大きな特徴は、緑が豊かという点です。ドイツの首都で人口は350万人ですが、面積は東京23区よりも広くて、人口密度でいうと4倍ほど差があります。街のいたるところに公園があり、夏はピクニックをする人、ビール片手におしゃべりする人でにぎわいます。

ベルリンに住むことになったきっかけは何ですか?
私は日本生まれ、日本育ちですが、高校生のときにインターネットに出会って、海外の情報を収集したり、海外の人たちとたくさん交流するようになってから、日本の文化や社会通念がいかに日本独特のものであるかを痛感するようになりました。大学進学や新卒就職のシステム、都市デザインなどなど、日本の中と外では大きく異なることを知りました。
私は日本の外の情報や考え方に触れるにつれて、もっとそういう情報を日本に送りこめるような仕事をしたいと考えるようになりました。翻訳やライターの仕事をしたいと思うようになったのも、その延長線上にあります。そして、私は7年近く日本で会社員をやっていたのですが、一度フリーランサーになって、自分で仕事をコントロールできるようになりたいとも思っていました。
翻訳者・ライターとして海外でフリーランスでやっていきたいと思うようになって、準備を始めたのが2011年のころ。当時はまだ行き先を絞っていませんでした。英語圏なら、ロンドンかな?とも思いましたが、ロンドンはビザを取得するのが難しかった。そこでリサーチを継続したところ、「ベルリンはドイツのニューヨークだ」と書いている記事をネットで見つけました。「ん?ニューヨークなら大好きだけど?」と私のアンテナにピンと引っかかり、ベルリンに興味を抱きました。調べると、ベルリンは英語が比較的通じやすい、生活コストも安いということも分かったので、ベルリンが良さそうだ!ということになり、ベルリンに移住することにしました。こうして、2012年10月からベルリンに住んでいます。
現在は、フリーランサーとして主に日本のメディアで仕事をしています。ここ最近は、スタートアップメディアの 「The Bridge」のライター、編集者として仕事をすることが多いです。ベルリンには、フリーランサービザで滞在しています。
1カ月の生活コストは、家賃、通信費、交通費、社会保険代、交際費など含めて、1000ユーロ強(約13万円)ぐらいでしょうか。ベルリンの生活費の目安については、筆者のブログ記事(参考:ベルリンで1カ月生活するのにどれくらいのお金が必要か?)でも紹介しましたので、ぜひ参考にしてみてください。

ベルリンで気に入っているところはどこですか?
ロンドンやパリ、北欧の主要都市と比べると、物価や家賃が比較的低いところ。そして、街全体がゆったりとしていて、幸せそうな人が多いところです。
もともと東西に分断されていたという歴史もあって、主要な産業が育ってこなかったという背景があります。大企業も少ないです。なので、スーツを着ている人を見かけることはめったにありません。東京で何年も働いていた私にとっては、最初はとにかくそれが新鮮でした。そして、なぜか平日昼間なのにカフェでゆったり本や新聞を読んでいたり、おしゃべりしている大人もたくさんいます(笑)。そんな光景も大好きです。
あと、私はベルリンに来てから物欲が減りました。理由のひとつはストレスが少なくなって、ストレス買いをしなくなったこと。ふたつ目は、女性向けのファッションや化粧品などの広告を街で目にすることがかなり減ったことです。日本にいたころは会社勤めをしていたこともあって「オフィスで働く女性」がするべきと思われるお化粧や身なりをするように気にかけていましたが、もはやそういうことを気にしなくなりました。
20代、30代の女性にとって、ベルリンは住みやすい街だと思います。私は30代前半でシングルですが、日本だと「婚活」やらなんやら、私ぐらいの年齢の女性って世間からプレッシャーを感じることが多いと思うんです。でも、ベルリンで「まだ結婚しないの?」とか聞いてくる人は誰もいません。これ、私の周りの同年代の日本人女性は口を揃えて言ってることです。「ベルリンは30代の女性に優しい」と。「婚活」や「合コン」なんてものももちろん存在しません。自由に好きなことをやっている女性がたくさんいて、スタートアップシーンを見ていると、女性の起業家もしょっちゅう見かけます。そういう環境はすばらしいと思います。
ベルリンの好きなところはまだまだありますが、長くなってしまいそうなので、この辺で(笑)。
逆にもっとこうだったらなぁと思うところは?
うーーん。ここ最近家賃や物価が上昇気味なのは、あまり嬉しくないですね。仕方がないことですが。
5年前に完成予定だったベルリンの新空港はまだ完成していません。これはどうにかしてほしい(笑)。
あと、これはドイツ全体でそうだと思うのですが、決済が現金、またはデビットカード中心です。クレジットカードが使えないお店は多い。この点は、特に北欧の都市と比べると大きく違います。決済サービスが発展したほうが便利になると思うのですが、ドイツ人はテクノロジー全般に関してかなり保守的だと感じます。

どんな人ならうまくやっていける都市だと思いますか?
ある程度の「不便」とうまく付き合える人。役所など、日本と比べればその対応は悪いです。担当者個人の裁量が大きくて、良い対応をしてもらえるかはかなり運の要素が強い。日曜日はスーパーは閉まっているし、24時間毎日営業しているコンビニもありません。電車もストライキなどで止まることもしばしば。オンラインで注文したものがなかなか届かないことも。こうした「不便」とうまく付き合える、または状況に応じて自分で交渉や主張ができる力を身につけることが重要だと思います。【著者プロフィール】
佐藤ゆき|Twitter
2012年からベルリンを拠点に活動するライター・翻訳者。スタートアップ、テクノロジー関連の記事を中心に、「THE BRIDGE」「WIRED Japan」などで編集、執筆中。ブログ「Serial Foreigner」。