ナショナル・ブランドをもつ大企業に限らず、グローバルに通じる技術やサービスさえあれば、海外進出も夢ではありません。もちろん、グローバルにビジネスを展開し、軌道にのせるには、まずは語学力が必須。そのうえで、国内外で活躍できる人材が必要となります。

今回ご紹介するのは、世界中で合計2400万ダウンロードとヒットを飛ばした脳トレゲームアプリ「BrainWars」「BrainDots」のデザインを務める花城泰夢さん(33歳)。これらのアプリは、2014年より順次ローンチされ、海外でのダウンロード実績は95%と大きな比重を占めています。そもそも当初から、国内市場というよりもむしろ、グローバルで受け入れられるサービスとして開発されたそうです。

12178189_927164857360286_1982246708_n.jpg

3年前までは英会話学校で落ちこぼれの生徒だった

花城さんは、今でこそビジネス上の英会話は問題なく話せるレベルにまで達しています。海外のビジネスパートナーと電話やメールでビジネス上の契約を取りつけたり、世界中にいる同業界のデザイナーたちとツイッターなどで交流したりするのが日常になりました。

そんな花城さんもかつては、「海外旅行などで、簡単な日常会話なら話せるレベルだと自分では思っていた」そうです。ところが、2011年に入学したフィリピンの英語学校でレベル別にクラス分けされたとき、まったく英会話ができないレベルの「スーパービギナー」というクラスに入れられ、現実を知ることになります。

花城:「th」の発音がとにかくまったくできなくて苦労しました。英会話学校のクラスでは、僕だけ何度もリピートさせられたあげく、先生からは「もういい、出ていけ」と、さじを投げられる始末。当時、日本からのデザイン仕事などを並行しながら通学していたので、週末は地元のスターバックスで仕事していたのですが、「coffee」の発音すら通じず、一発で通じるようになるのに半年かがりでした。

花城さんがグローバルに活躍できるようになったのは、自分の得意分野とセットで英語環境にふれてきたのがポイントです。

花城さんの経歴

2006年~ 

大学卒業後、出版社に入社し、さまざまなヒット本の企画・編集・デザインまでをこなす。

2008年~

転職後、クリエイティブエージェンシーTUGBOATのアートディレクターの元で雑誌情報サイト「magabon」の運営や、大手通信会社が運営する情報サイトでコンテンツ制作に携わる。

2012年~

フィリピンの英語学校に4カ月間留学。一番英会話ができない「スーパービギナー」のクラスにふり分けられる。学校のコース修了間近の4ヵ月目にフィリピンにオフィスを置く米系ベンチャー企業にデザイナーとしてインターンを経験。また、フィリピン・マニラで開催されたハッカソンに初めて参加。

2013年~

日本に戻ることなく「DMM.com」の英会話事業の立ち上げのため、フィリピン・セブ島を基点に就職。日本、リトアニアなどを行き来し、サイトデザイン、マーケティング業務に従事。

2014年~

国内のハッカソンで現・トランスリミット代表の高場氏と出会い、週末や仕事終わりを中心にデザイナーとして参画。「BrainWars」をリリース。その後、大型資金調達を機に正式にトランスリミットに入社。現職。

ということで、花城さんの経歴をもとに、ビジネス英語を操れるようになった経緯を下記にまとめました。仕事のスキルを磨きながら英語学習をするのがポイントとなるようです。

map.jpeg

ステップ1.短期集中型の英語留学

まずは、花城さんがグローバルに活躍できるようになったターニングポイントとして、2012年、当時29歳のときに決意したフィリピンへの英語留学が大きいようです。

花城:フィリピンに留学先を決めたのは、友人でフィリピン留学情報サイトを運営する「School With」代表の太田さんの勧めがきっかけでした。彼によれば、特に英会話ビギナーは、いきなり欧米英語圏で留学する前に、プレ留学として、コスパのいいフィリピン留学などで地ならしした方がいいということでしたが、実際そのとおりでしたね。

文法、発音、リスニングなどのフルラインナップを1日8、9クラス、週5日間受講するので、4カ月間とはいえ、かなり短期集中で英語を学べました。でも、英語で文法を習うのがとにかく難しくて、かなり苦痛でしたね。最初の2カ月はまったく英語の壁を乗り越えられなかったのが現状です。毎日、授業を受けに来ているだけという状態でした。どこかのタイミングでブレイクスルーすると期待していたのですが、意思疎通が問題なくできるようになるまで半年以上かかりました。

発音に苦労したのは、英語をちゃんと聞き取れていないからなんです。僕の印象だと、音楽をやっている人や若い人ほどヒアリングの飲み込みが早く、早い段階でブレイクスルーしやすい気がしました。現地のヒアリングを乗り越えるのがひとつの壁といえます。

DSC00109a.jpg

ステップ2.積極的にネイティブと交流する

実は、花城さんが留学していた4カ月間というのはトータルの期間で、途中、仕事の都合で学校を変えています。結果、これが英語力を高めるのに、いい選択となりました。

花城:1校目は、フィリピンのバコロドというところで、2カ月間通いました。観光地だし、リゾートホテルを改装した学校だったのでかなり快適でした。でも、韓国系の学校だったので、クラスも韓国式で僕には合わず、まったく英語が成長しなかったんです。

その点、2校目は、日本人が経営する学校だったこともあり、日本人の苦手な英語の特性を熟知していました。こっちに移ってからは、一気に英語力が成長したような気がします。さらに2校目は、校外でのアクティビティがさかんだったのも大きかったですね。先生が生徒をいろんなところに遊びに誘ってくれるのですが、はじめはメールや電話で、ネイティブスピーカーと待ち合わせ時間や場所を決めるやりとりに戸惑いました。でも、だんだんそうしたやりとりにも慣れていきました。

intern.jpeg2校目の留学先は、フィリピン第3の都市ダバオにある学校。英語を学びながら先生たちとの交流を通じ、字幕なしの映画をなんとなく聴き取れるようになってきた頃。

ステップ3.仕事のスキルと英語環境を積極的に近づける

社会人が英語を身につけるには、仕事のスキルと英語環境をセットで考えることが重要です。自分の仕事のスキルを生かして、ネイティブスピーカーのいる職場で働くのが、英語力をのばす早道だということが、花城さんの経験から伝わってきます。

花城:学校に通うだけで留学終了だと、そこで成長が終わってしまいます。僕の場合、留学期間の終盤に、このまま英語力をのばすためにも、帰国せずに地元で働いてみたいと考えました。実は、英語学校と同じビルに入居する地元の米系スタートアップがあって、そこで働いてみたいと思っていたんです。

そこで、その社長がトイレに行くタイミングにつかまえて、「僕は今、英語を勉強中だけど、そもそも日本ではデザイナーをしていて、デザインを教える代わりに働かせてもらえませんか?」と声をかけたんです。すると、「じゃあ、オフィスにおいでよ」ということになり、結果、働けることに。オフィスにいたエンジニアたちの前で、そのとき自分のでき得る限りの英語力を尽くして自己紹介したのはいい思い出です。

もちろん、海外で仕事するのは初めてだったので、四苦八苦しました。でも、自分の得意分野であるデザインに関する専門用語とか、仕事する人たちとの共通言語があると、飛躍的に英語力がのびる気がします。次第に社内のエンジニアたちとくだらない冗談をチャットで言い合ったりして、社内に溶け込んでいきました。このときの経験が、海外で働くということを実感できた瞬間でしたね。

hackathon image.jpegフィリピン・マニラで開催されたハッカソン「Startup Weekend 2012」にデザイナーとして参加。アジアの優秀なエンジニアやクリエイターたちに衝撃を受ける。

ステップ4.英語で自分の興味のある分野に挑戦してみる

グローバルに展開できる新しいサービスを生み出すことに高い関心を持つ花城さん。2012年、フィリピンのセブ島でオンライン英会話の仕事をしているときに参加したのが、フィリピン・マニラで開催されたハッカソンでした。ここでの経験は、その後の英語学習のモチベーションを高める、大きな起爆剤となりました。

花城:フィリピンの米系スタートアップで仕事をするようになり、英語力はまだまだでしたが、とりあえず勢いと力試しで、デザイナーとしてハッカソンに参加しました。日本にいたときは、大企業のコンテンツ制作に携わり、大きな案件を半年・年単位で多額の費用をかけて制作していましたが、ハッカソンでは、少人数のエンジニアのチームが、たった3日間でひとつのサービスを作ってしまう勢いとスピード感を見て、愕然としましたね。

あらためて日本の制作現場の出遅れ感を感じましたし、価値感の違いにも衝撃を受けました。さらにその場で、以前テレビで放映された番組「マネーの虎」みたいに、投資家たちが「本気でやる気があるのか」と、確認して、その場でプロジェクトに投資を決めるという現場を目の当たりにしたのは、かなり大きなターニングポインとなりました。

ステップ5.世界中にいる同業界の人とSNSを通じて交流

会社で仕事をしながら、週末などの空き時間を利用して、脳トレアプリ「BrainWars」の制作に携わることになった花城さん。同アプリは、アメリカのiTunesのトップページで紹介されたのを機に、一気に全米でブレイク。世界中でヒットする感触が出始め、300万ダウンロードを達成した時点で、数社あわせて計3億円の出資が決定。同アプリの運営企業「トランスリミット」のスタートアップメンバーとして正式に加入することになりました。

花城:ハッカソンに参加した経験から、グローバルで受けるサービスに強く惹かれたのが、現職を選んだ大きな理由です。アプリはグローバルだと、目に見えて数字を叩き出せるし、リーチ度が高い。アメリカのiTuneで「BrainWars」がフィーチャーされたとき、海外ではデザインについても評価され、レビューコメントが2万件ぐらい来たんですよ。おもしろくて、ひとつひとつ読んで感動しましたね。世界中の人に喜んでもらえて、本当に制作者冥利に尽きる思いでした。

今後も、グローバルで受けるゲームアプリを企画・開発していくために、海外の関連ニュースサイトに目を通すのが日課です。海外のゲームアプリのデザイナーたちと積極的に交流し、ツイッターなどを通じて情報交換をしています。わりとくだけた感じで、同業者と「今回リリースしたゲームのデザイン、すごくいいね」などと会話したりすることもありますよ。こうした交流を通じて、あらためて現在、僕が求めてイメージしていた「グローバルに仕事する」ことに近づけたかなと思っています。今後は、世界に通用するデザイナーとして精進していきたいです。

仕事のスキルを生かし、実績を積みながら、自分の思い描く「グローバルに働く」スタイルを確立した花城さん。社会人だからこそ、それぞれの持つ仕事の実績やスキルによって、さまざまな「グローバルに働く」スタイルが確立できるのではないでしょうか。

取材協力/SchoolWith 10/25に東京・渋谷で留学セミナーを開催中!

(文/庄司真美)