ほとんどの人は、自炊して試行錯誤を重ねたり、テレビの料理番組を見たりすることで料理を覚えます。当然、生まれつきチキンソテーの作り方や野菜の湯通しの仕方を知っている人はいません。これからご紹介するのは、シェフが毎日使う基本的で役に立つ料理のテクニックですが、ほとんど取り上げられることがないものばかりです。

半調理する

「半調理」とは、料理を途中までしておいて、後で給仕する直前に仕上げることです。できた料理は、普通ならすぐに乾燥してしまうものです。半調理により、料理の水分と風味を保つことができ、給仕するとき温め直す必要がありません(食べ物を温め直すと、残り物みたいな味になってしまいます)。さらに、ひとつの料理をある方法で調理して(たとえば、骨付き肉の肉汁を保ちながらオーブンで焼くなど)、別の形で仕上げる必要があるとき(たとえば、おいしそうな焦げ目をつけるためにグリルで仕上げたり、上記のビデオが示すようにカレー料理にしたりします)、あるいは、同時進行で何種類も調理するものがあり、すべてを同時に仕上げる必要があるときに便利です(パーティー用のディナーがその一例です)。

「半調理」はとても一般的な調理法で、タイミングと何を作るかにかかっています。それは、調理する食材をどのように、また、どのタイミングで仕上げるかによって、大きく左右されます。たとえば、鍋焼き料理を半調理するとき、全体をオーブンで焼きますが、肉の表面の皮がカリカリになったり、食卓に出すとき肉が骨から落ちてしまうような状態になる前に調理をやめます。一方で、米やパスタを半調理するときは、アルデンテの手前でゆでるのをやめて、後から自家製ソースがたっぷり入った鍋で仕上げます。半調理は応用範囲がとても広いので、ほとんど何にでも使えますが、よくある例として以下をご紹介します。

鍋焼き料理とオーブン焼き料理:食す直前まで水分をキープし、なおかつ温かい状態がキモのオーブン料理全般は、先に鍋焼き料理を作っておいて、後で冷凍するのも良い方法です。

豚肉と鶏肉:特に、骨付き肉、リブ、鶏の胸肉、もも肉、そのほか、中心よりも外側に早く火が通るもの全般。たとえば、そうした肉類をオーブンで半調理して、グリルで仕上げると、数分炙ったときの香ばしい風味を損なわずに、おいしく焼き上がります。また、フライドチキンを作るとき、まずはオーブンで半調理すると、パン粉をまぶして揚げた後も鶏肉の水分と肉汁をキープできます。

ジャガイモ、米、そのほかの水分を吸収するでんぷん質の食材:でんぷんは調理時間が長くなるほど、ドロドロになり柔らかくなります。まず半調理することで、火の通し過ぎを防ぎ、口当たりを損なわずに別の料理に沿えることができます。これは、ジャガイモをグリルするときや(焼き網の上で崩れたり内側に火が通る前に外側が焦げないのもメリット)、ハッシュブラウンズ、ホームフライ、フレンチフライを作るときに特に役立ちます。

ここまでを要約してみましょう。時間に余裕があり、前もって調理できる場合、弱火で火加減に気をつけながら調理を始めることで、風味を生かすことができます。また、後から、焦げ目をつけたり、カラメリゼするために、強火で仕上げる場合など、あらゆるケースで半調理は役立ちます。肉料理以外でも、野菜を網焼きやソテーする前に、半調理をしてもいいでしょう。野菜の歯ごたえや風味を保ち、クタクタになるまで火が通るのを防げます。

湯通しする

「湯通し」は少し「半調理」と似ていますが、「半調理」よりも短時間で素早く行われるもので、特に果物と野菜に対して行います。実際にレストランなどプロの現場で、野菜をおいしくするために広く使われるテクニックです。その方法は、以下の通りです。

    1. 鍋に水を入れ、沸騰させます(塩は素材によって入れたり入れなかったりします)。
    2. 熱湯の中に果物や野菜を入れます。(素材にもよりますが、ごく短時間)。
    3. 果物や野菜を取り出して冷水か氷水の中に入れます。

このテクニックは、全体的に火を通したいけれど、歯ごたえや風味を損ないたくないときに便利です。よく使われる果物や野菜の上手な湯通しの仕方をご紹介します。

さやいんげん、アスパラガス、そのほかの細長くてしなやかな茎やさやの野菜:どうしてレストランで出るさやいんげんはパリッとした歯触りがあるのに、家で料理するとクタクタで茶色っぽくなるんだろうと不思議に思ったことがあるなら、これがその理由です。ほとんどのレストランのシェフは、さやいんげんやアスパラガスやそのほかのあらゆる野菜を事前に湯通しして、温かさを残しながら、パリっとした食感でお客さんに出しているのです。湯通しするか、もしくは、バターやワイン、新鮮なハーブなどでソテーしてから出すこともあります。

ニンジン、パースニップ(サトウニンジン)、そのほかのでんぷん質の野菜:野菜の盛り合わせを作ったり、ニンジンを夕食の皿に盛りつけるとき、煮えすぎて気持ちの悪い状態になってしまったことはありませんか? そうならないようにするには、事前に湯通しすると風味と栄養価を損なわずに歯ごたえを残せます。トウモロコシは、皮やひげを取りやすくしたり、実をこそげ落としてスープやチャウダー、保存用にするために一度湯通ししておくとベターです(湯通しだけなので実が煮えずに済みます)。

キャベツ、スプラウト、そのほかの匂いにクセのある野菜:湯通しする利点のひとつに、キャベツやブロッコリーといったアブラナ科の野菜特有の臭みを取ることにあります。硫黄成分の豊富な野菜は、高温で調理すると風味が良くなりますが、調理時間が長くなるほどこうした成分が三硫化物を作ってしまいます。キッチンがオナラやキャベツみたいな臭いになったら、犯人はこれです。しかし、そうした野菜を湯通しすると、料理のプロセスを楽にしたり短くしたりできて、風味が増し、化学物質により臭みが出る前に仕上げることができるのです。

桃、トマト、ネクタリン、そのほかの核果類普通は、トマトや桃などのデリケートで皮をむきにくい果物の場合のみ湯通ししますが、ピーチパイや自家製トマトソースのような料理を缶詰でなく新鮮な材料から作るときは湯通しすることが不可欠です。

薄切りの鶏肉、牛肉、豚肉:肉は湯通しできないと思うかもしれませんが、薄切りにした肉の細切りは火の通りがとても速いので湯通しは大変良い方法です。実際、この調理法を用いているのが「しゃぶしゃぶ」です。肉がみずみずしい状態となり、香りのよいバーベキューソースやスパイスの効いたソースにつけるにはぴったりです。肉の湯通しは、サラダやサンドイッチ、コクのある透明なスープやスープストックを作りたいときにも使うといいでしょう。

このプロセスでは2つのステージがあり、どちらも重要です。通常の「湯通し」は、すばやく行い、さらに湯通ししたものを冷水に浸すことで、それ以上火が通らないようにするのも大切です。そうしないと、食材の余熱によって、さやいんげんやニンジンが柔らかくブヨブヨになってしまいます。また、卵をゆでた後、冷水につけないと殻をむくのが大変な作業になってしまうのもこれと同じ原理です。

余熱調理

食材自体の熱で調理する、余熱調理が上の動画です。すでに実践している人もいるかもしれませんが、実際には上手に活用できてない人がほとんどだと思います。たとえばレシピに、指定の焼き時間や温度設定がある場合でも、それより少し低い温度で調理したり、少し早めにオーブンから肉料理などを取り出すのがこの手法です。また、ステーキなどの料理は、余熱で火が通るのを想定して、焼き網から下ろしたら寝かせて、食べる頃にはちょうどいい仕上がりになれば理想的です。

バーナーやオーブンから料理を取り出すと、しばらくは熱いままですよね。調理で熱を加えるのと同じプロセスが、料理が十分に温かい間は持続します。だから、「完璧に料理された」状態は、通常の温度よりも少し低い温度設定で、オーブンから取り出し、休ませた後なのです。料理は熱源から離した後も熱を保って調理が進みます。量が多くて密度が高く、たんぱく質が豊富な食材を使った料理ほど、余熱調理が功を奏します。以下はその例です。

ローストターキーやローストチキン:このメニューの本格的なレシピには、かならず余熱調理のテクニックが盛り込まれているのをご存知でしょうか? 肉の量にもよりますが、通常、65度のオーブンから取り出して、アルミホイルなどで鶏肉を包んで寝かせて、鶏肉の火の通る目安の74度まで温度を上げてから食卓に出します。これは、余熱調理の最たるものです。

骨付き肉と分厚い肉:料理サイトのAmazing Ribsによれば、薄切りにした肉だと、余熱調理できるほど肉の内側に熱を蓄積できません。しかし、骨付きリブやブリスケット、豚の肩肉のような分厚い大きなローストなら、大きさも厚みも密度も十分あり、高温で調理するので余熱調理が可能です。料理本に載っている調理時間を短縮しても(あるいは調理する温度を下げても)、みずみずしく完璧に調理された肉になります。

卵、そのほかの高温で調理される高たんぱく質の食材:「スクランブルエッグを作るたびにパサパサになってしまう」または、「もっとクリーミーに柔らかく仕上げたい」という人は、次回はこれを試してみてください。卵をかき混ぜてフライパンに入れ、でき上がる少し前に調理を止めて、熱源から下ろしてください。ねらい通りの状態になるまで火にかけてはいけません。早めに火から下ろすことで、食べる頃にはちょうど良くなっているはずです。たんぱく質の鎖は、火にかけられている時間が長いほど固く締まるのですが、卵は基本的にすべてたんぱく質です(脂肪も少し含まれていますが)。長く火にかけるほどパサパサして固くなります。余熱を上手に利用してみてください。

科学を使って料理する手引きの記事でも、これについて触れました。余熱料理は、手早く作る卵料理から何時間もかけて蒸し焼きにするロンドン・ブロイルに至るまで、あらゆる料理で火の通り過ぎを避ける、手軽な調理テクニックです。調理温度に注意を払うことで、ローストターキーやステーキを確実においしくジューシーに仕上げることができます。また、このとき、性能の良い調理温度計を手に入れることもおススメします。

スパイスを乾煎りしたり油で炒める

調味料を使うとき、ちょっとしたひと工夫で劇的に料理がおいしくなるテクニックをご紹介します。料理に入れる前に、下の動画のように、生のスパイスを乾煎りしたり、上の動画のように、粉末状のスパイスを油で炒めることを習慣にしましょう。特に、松の実などのナッツ類やフェンネルやアニス種子のようなスパイスは、調味料として使う前に、風味をアップさせるために乾煎りしてから料理に入れたり、粗挽きにしてから使いましょう。

このテクニックは、実は多種多様な料理で使われてきた由緒ある方法です。だから、それほど珍しいわけではありませんが、家庭の台所ではあまり実践されていないのが残念です。だって、すごくおいしくなるのですから。ぜひ実践して欲しいケースをいくつかご紹介します。

風味づけに油を利用する場合:バターを使ったり、低温で炒め物をするときならどんな場合でも、スパイスを油で炒めるべきです。バターは、卵を炒めたり、ホウレンソウやケールをソテーするときでも、風味づけに役立ちます。次回は、こうした緑の野菜に(あるいは卵に)味つけするスパイスを先にフライパンに入れてください。挽きたてのコショウでもOKです。1、2分間ほどバターの中で炒めてから入れて、かきまぜましょう。やってみて良かった! と、かならず思うはずです。

大量に作る料理にホールスパイスを入れる場合:大鍋でチキンスープやビーフシチューを作るとき、自家製のスープストックを作るとき、あるいは、パンチかホットワインを作るとき、ホールスパイスが必要でしょう。シナモンスティックやクローブ、星形アニスといったあたりでしょうか。フェンネルシードやカルダモンかもしれません。どんな場合でも、先にスパイスを乾煎りしておくと風味が増します。

スパイスが少し古くなったとき:賞味期限を過ぎたスパイスがいくつかキッチンに残っていませんか? 私のキッチンにももちろんあります。油で炒めたり乾煎りするのは、スパイスが古くなったときは特に役立ちます。そして、乾燥スパイスを乾煎りしても粉になったスパイスを油で炒めても、熱を加えることでスパイスの風味がよみがえるのです。

いつ実践すればいいかわかったところで、次はやり方です。

1. 鍋を中火にかけ、熱します。

2. 作る料理に油分を使用するなら、必要なスパイスを油で炒めて味を引き出します。油か脂肪(たとえば、ギーやバター)を鍋に入れましょう。

3. 油が熱くなってゆらゆらしてきたら、スパイスを入れて、香りが強く感じられるようになるまで炒めましょう。このとき、スパイスはホールでも粉でもいいのですが、このテクニックは粉末のスパイスにもっとも効果があります。次第に新鮮な木の実のような、ちょっとこんがりした香り出るはずです。そうなったら火を止めます。あまり長時間火にかけると焦げるので注意してください。ここでスパイスを取り出して残った油を料理に使うか、スパイスと油を一緒に使うかはお好みで。

油だけを使う場合のテクニックは「Baghaar」と呼ばれ、パキスタン料理、バングラディッシュ料理、インド料理などで風味のついた油を作るために使われています。一方、「Chaunk」はスパイスと油の両方を料理に使うテクニックです。

4. 乾燥したホールスパイスをスープ、ディップ、煮込んだソースのような水溶性のものに入れるなら、油を使わずに乾煎りしましょう。鍋が熱くなったらスパイスを入れて火を弱めます。

5. スパイスが焦げたり、片側だけに火が通り過ぎたりしないように規則的に混ぜ続けましょう。再び木の実のようなスモーキーな香りがし始めたら火から下ろすときです。火から下ろしてしばらく置いておきます。

6. この時点で、スパイスをそのまま使ってもいいですし、粉に挽いて粉末スパイスの代わりに使ってもいいでしょう。

このテクニックは、「炒める」「焼く」といった調理時やデザートなどあらゆる料理にも応用できます。料理サイトの「Serious Eats」には、炒ったカルダモンのパウンドケーキのレシピがあるぐらいです。おいしそうですね。

ソテーする、煮込む、焦げ目をつける:食べ物を「油で調理する」あらゆる方法

「ソテー」と「フライ」には違いがあることをほとんどの人は知っていますが、その差を正確に示すのは難しいです。

・「フライ(frying)」とは、油か脂肪であらゆるタイプの食べ物を調理する意味の包括的な用語です。すべて包括しています。

・「ソテー(sautéing)」とは、浅い鍋に油か脂肪を少し入れて高温で食べ物を調理することです。通常は薄切りにした食べ物をほとんど液体を使わずに、比較的短時間で炒めます。鍋に油を少し入れてタマネギかニンニクをそこに投げ込んだことはありますか? それがソテーです。

・「焦げ目をつける(searing)」も似たようなものですが、食べ物の表面に焦げ目をつけるプロセスだけを指しています。これは、どんな調理器具でも調理法でも、ソテーだろうと、グリルだろうと、ローストだろうと、それ以外の何であろうと、可能だということです。しっかり熱した鍋にステーキを入れて、表面においしそうな焦げ目をつけようとするときがそれです。

・「煮込む(Simmering)」は、液体がたっぷりある料理を沸騰寸前の温度で作るプロセスを指しています。水、スープ、ソースなどを沸騰させた後、弱火にし、気泡が出る状態でそのままにしておくことです。どんなタイプの加熱調理容器でもできますが、鍋でソースを作ったりスープを作ったりしたことがあるなら、「煮込む(Simmering)」方法を知っていることになります。

・「混ぜながら炒める(Stir frying)」は、高温の油で食べ物を調理することで、常に食べ物をかき混ぜて平均して火が通るようにすることです。炒める点ではソテーと似ていますが、ソテーより調理する食べ物の量が多く、焦げつかないように常にかき混ぜることを指しています。深めの鍋を使うとやりやすいでしょう。

・「炒める(shallow frying)」と「揚げる(deep frying)」は包括的な用語で、調理する際に使う油の量を指しています。たとえば、「ソテーする」は「炒める」と言い換えることができますが、ソテーは少量の脂肪か油で調理するのに対して、「揚げる」は食べ物を熱した脂肪か油に浸すことなので、「ソテーする」と「揚げる」は違います。

・「フライパンで炒める(pan frying)」は、調理中、十分な油を使って鍋を滑らかにすることを指しています。ベーコンのような食材自体に油や脂肪が含まれている食べ物だと、油を使う必要がないかもしれません。揚げたり炒めたりするときとは違って、普通は浅めの鍋を使います。

このリストはまったく特別なものではなく、ほとんどの料理本やレシピに出てくる、もっともよくあるタイプの「フライ」を紹介しています。ここでの要点は、それぞれの方法には違いがあるので、レシピを見るときは留意しなければならないということです。たとえば、「刻んだタマネギをバターでソテーする」とレシピにあったら、少量のバターで比較的高温で調理しなければならないことがわかります。レシピに「フライパンで炒めたソーセージ」とあったら、油は使わず弱火にして、全体に火が通る前に表面が焦げないようにしなければなりません。

料理が得意な人なら、ここで挙げたことはすでにレパートリーに入っているかもしれません。しかし、今まで一度も試してみたことがなければ、クタクタになった茶色いさやいんげんとパリっとした歯ごたえのある緑のさやいんげんの違い、もしくは、乾いたローストと肉汁たっぷりのローストの違いをこれで出せるかもしれません。次に何か新しい料理に挑戦するときは、ここで挙げた調理法を使ったレシピを敬遠せずにぜひ試してみてください。テーブルに出したとき、きっとその結果に満足するはずです。

Alan Henry(原文/訳:春野ユリ)

Illustration by Sam Woolley. Photo by Shutterstock.