Buffer Blog:「Buffer」COOのLeo Widrichです。Bufferは、優れたソーシャルメディアツールをつくるスタートアップです。そんな弊社がセルフマネジメントモデルを初めて導入したとき、完全にフラットな組織構造でした。私たちは完全な自由を求め、その理念は「全員が自分のやりたいことを自分で考える」「行き過ぎたガイダンスやリーダーシップは不要である」というものでした。
「フラット化」が何を意味していたのか、私たちが実施したことをいくつか紹介します。
- 誰がどのプロジェクトに取り組むかを決めるマネージャー職をすべて廃止した。
- トップダウンで影響力が行使されるのを防ぐために、1対1のメンターシップ・セッションをすべて中止した。
- 元マネージャー全員を通常業務に組み入れた。
- それぞれの社員が、自分が取り組みたいプロジェクトや分野を完全に自由に選べるようにした。唯一残したガイダンスは、何に取り組むかの決定をサポートする「アドバイス・プロセス」だけ。
組織構造を完全にフラットにしてから数カ月もすると、ゆっくりと、でも確実に、おかしな事態が起き始めていました。たとえば、社員がすぐに辞めてしまうことが続きました。特に、Bufferに参加したばかりの人たちが辞めてしまうのです。また、経験のある社員たちにとっても、新しく入った社員とプロジェクトの方向性について話し合ったり、サポートしたりする機会がないという状況でした。
おそらく、ガイダンス、期待、説明が一切ない状況において、社員ひとりひとりがあまりに多くの自由を持っていたわけです。
フラット構造にまつわる誤解
私たちはついに、これが本当に自分たちにとって適切な組織編成なのかどうかを話し合うことにしました。結論は否と出ましたが、この先どうすればいいかはわかりませんでした。
私たちはセルフマネジメントとは何か、従来のマネジメントの概念を乗り越えるにはどうすればいいか、話し合いました。そして、やはり階層組織を否定できないのではないかといいう疑問が出てきました。
正直、この疑問を抱えているのは大変なことでした。CEOのジョエルと私の間の議論でも、この疑問をめぐってさまざまな感情が浮上しました。
思うに、私たちがフラット構造を徹底的に追求したのは、セルフマネジメントについて誤解をしていたからなのでしょう。
これは、Bufferがセルフマネジメント組織に移行してからの9カ月で、私たちが学んだ数々の教訓のひとつであり、最大の誤解でもありました。
セルフマネジメント組織における力のパラドックス
このパラドックスは、私を含めチームメンバーの多くが抱えていた(正直に言えば今でも抱えている)のです。『Reinventing Organizations』の著者であるフレデリック・ラルー氏がこのパラドックスをうまく説明しています。
人それぞれ異なるレベルの力を持ったうえで、全体的にパワフルな状態は作れると思います。たとえば、私がオペレーターだとします(そして、私のバックグラウンド、受けてきた教育、関心、資質がその仕事に合っているとする)。一方、あなたの役割が新しい工場全体の設計をコーディネイトすることだとすれば、私の関心領域はあなたの関心領域よりも狭いと思うのです。とはいえ、自分にとって重要な事柄に関してなら、アドバイス・プロセスを活用しながら、必要なアクションのすべてを実行できる。つまり、私は自分に必要なパワーはすべて持っているということになるんです。
私たちは、思考停止することなくこの逆説を受け入れ、再び大きな変革が必要であることを理解しました。こうして、ヒエラルキーが、Bufferでの働き方において、もう一度中心的な位置を占めることになったのです。
ヒエラルキーの現実を受け入れる
ここでの重要な気づきは、誰もがBufferの中でユニークな場所を持っており、それは平等ではないということです。
これは森のアナロジーを思い出させます。すべての木が同じ高さ、樹齢ではなく、水や日光を必要とする量も違います。だからといって、その機能の重要さに差異はありません。それぞれの違いにもとづいて、違う立ち位置を持っているだけです。
一番わかりやすいのは、新しい人たちが会社に入ってきたときでした。新しい人は自然と、前からチームに在籍し、経験とスキルがある人たちの方を見て、まず何をすればいいかを理解しようとしました。
もうひとつ例をあげると、Bufferのメンバーたちは、創設者であるCEOのジョエルと私の方を見て、企業ビジョンに関するガイダンスをもらおうとしており、自分たちがそのタスクを担えるとは考えていないようでした。このように、それぞれが自分に合っている役割を選ぶことから生まれる、自然なヒエラルキーが存在していたのです。
ヒエラルキーを再び受け入れたことにより、いくつかの重要な要素が戻ってきました。
より高いレベルの仕事
より高いレベルに位置する仕事、すなわち、ガイダンスやリーダーシップを与える戦略的な仕事の存在を受け入れると、すぐに大きな変化がもたらされました。
私たちは、より高いレベルの仕事がセルフマネジメントと矛盾しないということにようやく気がついたのです。具体的なタスクに取り組む人にとって、より高いレベルからのガイダンスを受けることは大きな価値があります。
「商品の方向性」や「マーケティングの方向性」などは、重要で価値があるものです。こうしたビジョンを打ち出す人が誰もいなければ、私たちはすぐに迷子になってしまいます。
私たちは、Bufferで進行しているあらゆるプロジェクトを図示するソフトウェアツール「HQ」を独自開発しました。下図はBufferのすべてのプロダクトがどうなっているかを示しています。ご覧のとおり、一番上のレベルの「Buffer products」エリアに4つの顔があり、その下に個別のプロダクトが配置されています。それぞれのプロダクトの横にたくさんの顔が並んでいます。

メンタリング・セッション
セルフマネジメントを導入したばかりのころ、私たちは一か八か的に、それまで実施してきたメンタリング・セッションやコーチング・セッションをすべて撤廃しました。
今ではそれが正しいやり方だったとは思っていません。私たちは1対1のメンタリング・ミーティングを復活させました。
内容は少し変えました。メンタリング・セッションは、業績を確認するというより、難しい問題に取り組む実験室のような場所や、自分の悩み事を、似たような状況を経験した人に相談してアドバイスをもらうような場所になりました。
心の中で起きていることを誰かに話すだけでも助けになることが多々あるものです。重要なのは、メンター役の人と、成長を求めてやってくる人の間に安心できる空間を作り出すということが再認識されました。
この変化はとくに私個人にとって大きな影響がありました。チームメンバーとのつながりをより強く感じられるようになり、Bufferで何が起きているか、感じ取れるようになりました。この制度が復活したことをうれしく思います。
現実化したヒエラルキー vs. 従来のヒエラルキー
こうして、私たちがヒエラルキーを受け入れる方向へ動き始めたとき、Bufferチームの誰かがとても大切な質問を投げかけました。
「これはかつて私たちが持っていた構造とどこが違うのか?」
現在のBufferの組織構造が、一般的な組織構造とどう違うのかという質問は非常に重要です。今回の記事についてBuffer内部で話し合ったとき、フロントエンドディベロッパーのニールがすばらしい定義を口にしました。
セルフマネジメント組織におけるヒエラルキーとは、その組織におけるチームメンバーの体験に対するひとつの見方、あるいは解釈かもしれない。でも、同時に、リーダー的な役割を果たそうとする人たちの姿勢や情熱も反映されていると感じます。だから、「現実化したヒエラルキー」という言葉が私にはしっくりくる。それは人為的にデザインあるいは、指図されたヒエラルキーではないヒエラルキーを表現する言葉だと思います。
「現実化したヒエラルキー」という言葉は、私たちの現在の組織編成をうまく説明していると思います。もうひとつ例をあげます。以下のニールの言葉は、「高いレベルの仕事」がほかの人の仕事をコントロールすることではないことをうまく表現しています。
重要なポイントは、セフルマネジメント組織においては、ヒエラルキーにおいて、「高いレベル」に位置づけられている社員に対して、かならずしも拒否権や、下位の人々をコントロールする権限を持たせる必要はないということだ。
あなたの番です
Bufferにヒエラルキーを復活させたことはとても新鮮なことでした。私たちはこの構造の上に、自分たちの考えやプロセスを発展させていくのだと思います。
どこかで、セルフマネジメントチームはフラットであるべきという議論が持ち上がったときには、今回私たちが通ってきた道が参考になればうれしく思います。
このテーマに関しては、たくさんの疑問があると思います。とても逆説的なテーマです。ぜひあなたの意見を聞かせてください。
What We Got Wrong About Self-Management: Embracing Natural Hierarchy at Work|Buffer Blog
Leo Widrich(訳:伊藤貴之)
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