ここ数年、世界的なブームとして、日本食だけでなく、日本のウイスキーの人気が高まっています。とくにサントリーのウイスキー銘柄「山崎」「白洲」「響」は、約10年以上前から断続的に世界中のウイスキーコンテストでの受賞を重ね、着実にブランドを確立してきました。
また近年、イギリスの権威ある専門誌『ワールド・ウイスキー・バイブル2015年版』にて、サントリー「シングルモルトウイスキー山崎シェリーカスク2013」(ヨーロッパ限定発売品。すでに完売)が世界最高のウイスキーに認定。一方で、王道ブランドのイギリス・スコットランドのスコッチウイスキーは、上位ランキングから外れて、日本のブランドが首位に立ったこともあり、国内でも話題になりました。
日本が世界に誇るクール・ジャパンアイテムとなった日本のウイスキーは、欧州でどう評価され、ビジネスにつながっているか、現場の声を聞きました。今回、お話を伺ったのは、ドイツ・バイエルン州の州都ミュンヘンにある超人気日本料理店「sushi&soul」オーナーのクリス・ヘルブストさん(52歳)です。

ドイツといえば、ビールの一大消費国。また、ドイツ・ミュンヘンといえば、世界最大級のビアホールやドイツ最大のビール製造所を近郊に抱え、600万人規模の人を集める世界最大のビール祭り「オクトーバーフェスト」が有名です。
そんなビールの世界的な発信地ともいえるドイツ・ミュンヘンで、今、熱いブームとなっているのが、日本のウイスキーなのです。「sushi&soul」は、日本のウイスキーを200種類以上所蔵する世界屈指のレストラン。180席という大きなキャパシティなのにも関わらず、日本の寿司とウイスキーを目当てに、連日予約でいっぱいで、満席状態が続いています。

1本約200~300万円という高値で取引される日本のビンテージウイスキー
クリス氏は、確実に今、ドイツ国内でジャパニーズウイスキーが一大ブームになっていて、その背景に世界的なウイスキーブームがあると語ります。
また、希少な日本のビンテージウイスキーは、香港でオークションにかけられて高値で取引されるほど、世界中に愛好家がいます。そうした希少な日本のビンテージウイスキーをヨーロッパのバーで飲むと、1杯50ユーロ(日本円で6750円)ぐらいするのですが、たとえば、年代もので限定発売の「軽井沢」などの銘柄は、入手困難なものだと1本1万5000~2万ユーロ(225~270万円)で取引されるものもあるので、その価格もうなづけると思います。

食後の嗜みとしてウイスキーで締めるのがドイツ流
日本では、数年前のウイスキーブームにともない、ソーダ割りのハイボールが定着するなど、ウイスキーの飲み方のバリエーションが広がり、若いOLから年配層まで、幅広い年代に浸透しています。ドイツでウイスキーを楽しむスタイルはどんなものなのでしょうか。また、ドイツでの「日本ウイスキーブーム」前後で客層に変化があったのか、気になるところです。
店のオープン当初の16年前は、少なくともウイスキーを売りにした店ではなかったし、日本のウイスキーブランドといえば、安っぽいとかマニアックといったイメージが一般的で、日本のウイスキーは見向きもされませんでした。
ウイスキーを店に置くようになったのは、たまたま数年前に知人から紹介されて飲んでみたのがきっかけです。はじめはその良さがわからなかったのですが、店で提供してみたところ、とにかくお客さんの反応がすごくよかったんです。それから、イギリスのスコッチをはじめ、アイルランド、アメリカ、カナダといった世界の主要産地のウイスキーを飲み比べてみて、私自身もその良さがわかり始めました。
オープン当初の客層は30代前後の女性がメインでしたが、ここ数年でウイスキーを出すようになってから、あきらかに客層が変化しました。現在は30代後半の客層が中心で、男女比は半々となり、新たな顧客を開拓できたと実感しています。
ドイツ人にとって日本のウイスキーは特別な嗜み
日常的にビールを飲んでいる印象のドイツ人にとって、日本のウイスキーはどんな存在なのでしょうか。

今後注目の日本ウイスキー銘柄はベンチャーウイスキーの「秩父」
現在、日本のウイスキーメーカーは、サントリーやニッカウヰスキーが市場のほとんどのシェアを占め、キリンのグループ企業であるキリンディスティラリー、宝酒造などのほか、地ウイスキー醸造所が複数あります。年に2~3度は日本のウイスキーの買いつけに来るというクリスさんは、今後どの銘柄に着目していくのでしょうか。
また、今後は日本食によく合うワインの開発も進めていきたいです。ウイスキーブームが去った後に考えているのは、やはり寿司によく合う日本酒を押していきたいですね。
(写真・通訳/tomo、文/庄司真美)