「ソロ活」や「嫌婚」という言葉が市民権を得つつあるように、独身のままで人生を謳歌する人は増えています。実際、晩婚化や生涯独身率の増加傾向は、統計的にも明らかです。果たして結婚しない方が幸福なのでしょうか?
パートナーとの幸せを長続きさせる4つの秘訣

幸福学という学術的な視点から、夫婦と幸福の関係を研究する前野隆司さん・前野マドカさん夫妻は、「一人でも幸せを得られます。しかし、パートナーと得る幸せはヒトの可能性をさらに大きく伸ばす、豊かなものです」と説きます。
ただし、夫婦の幸福を長続きさせるには、努力が必要だし、「秘訣」があるとも、共著の『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)で論じています。
その「秘訣」とは、「やってみよう!」「ありがとう!」「なんとかなる!」「ありのままに!」という4つの心的因子。
これらの因子は、個々人の幸福のみならず、パートナー(ニコイチ)の幸福を促進させる重要なファクターなのだそうです。
以下、本書に基づき各因子について説明しましょう。
1. 「やってみよう!」因子とは?

「やってみよう!」因子とは、自己実現と成長の因子で、「得意なことがあり、強みをさらに高めている」といった傾向を持つ人に見られるそうです。
こんな人は、目標を持ち、その実現に向け行動する人。
それを達成すると幸福を感じ、さらに別の目標を掲げて達成しようとします。脳科学的に言えば、目標を設定することで神経伝達物質のドーパミンが分泌されて意欲が増し、達成することでもドーパミンが分泌されて、幸福感が増すという好循環があるわけです。
そして、夫婦の場合も、「やってみよう!」因子を意識することで、もっと幸せになれる道が開かれます。
二人で同じ目標や趣味を持ち、同じゴールに向かって努力すれば、親密さが増します。仕事のプロジェクトと同じです。
また、それぞれが「やってみよう!」とチャレンジしていることを応援し合うことでもいい結果がもたらされるでしょう。まず、相手が持っている、自分にない価値観や世界観を知ることで、自分にも新たな可能性が生まれます。
パートナーの「やってみよう!」の追体験とまではいかないにせよ、その一部を垣間見ることができます。
『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』079pより引用
自分だけであれば「1」の幸福が、パートナーの体験を身近にすることで「1.5」に増すというイメージだそうです。
2. 「ありがとう!」因子とは?

「ありがとう!」因子とは、つながりと感謝の因子。「人を喜ばせたい(支援したい)と思い、人とのつながりに感謝」するタイプの人に見られます。
この因子を持つ人は、誰かとご飯を食べたり、映画を見るなど、親密な関係を好み、親愛の情を抱くことで、幸福な気持ちになります。
前野さん夫妻は、この因子なくして良好なパートナーシップはあり得ないと断言します。
お互いに心から感謝し合うこと、そして、相手のためを思うことは、幸せなニコイチの基本です。
逆にいえば、もしいまニコイチがうまくいっていないのならば、「ありがとう!」因子が弱くなっている可能性があります。
付き合いはじめた頃のことを思い出し、相手に感謝し、相手のことを思って行動してみることです。そうすれば、固まっていた相手の心がほぐれるでしょう。
『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』098pより引用
また、仕事が多忙だったりでイライラが続き、互いの「ありがとう!」因子が不足気味な時は、「口角をキュッと上げてみる」というシンプルな方法が効果的だそうです。つくり笑顔でいいので、やってみるとよいでしょう。
3. 「なんとかなる!」因子とは?

「なんとかなる!」因子とは、前向きと楽観の因子で、「考え込みすぎずに決断でき、失敗しても立ち直るのが早い」といった特徴があります。
そのため、失敗しても落ち込んでいる時間が少なく、そのぶん楽しく幸せな気持ちでいられる時間が長いのです。
この因子が高いと、ニコイチにより良い影響をもたらし、さらに高まります。
自分一人では悲観的になってしまうような状況でも、パートナーが楽観的な態度で励ますことで、ニコイチとして「なんとかなる!」というマインドを持つことが可能になります。
さらに、一人で考えるよりも二人で考えるほうが、問題解決のアイデアもたくさん出ます。
『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』117pより引用
隆司さんは、大学教員になって1年目の大変な時期を迎えた際、「なんとかなる!」因子の高いマドカさんの励ましによって、乗り切ることができました。それによって、隆司さん自身の「なんとかなる!」因子も鍛えられたそうです。ニコイチの関係によって幸福度が高められた1例と言えるでしょう。
4. 「ありのままに!」因子とは?

「ありのままに!」因子とは、独立と自分らしさの因子で、「(お金や社会的地位といった)地位財型の競争を好まず、自己像が明確で、他者への許容度が広い」という特徴があります。
他者との比較で一喜一憂せず、妬みそねみとも無縁なので、幸福感が高いのです。
この因子はニコイチの間柄でも大事です。「ありのままに!」因子が低いと、自然体ではない、演出したかのような自分をパートナーに見せ続けようとし、無理が出てくるからです。
逆に、両者の「ありのままに!」因子が高いと幸せに直結します。
何も隠しごとなくオープンに自分をさらけ出し合って、わかり合っていると、実は楽です。
何しろ気取っていなのだからストレスがありません。自分が開くと相手も開きます。よって、信頼関係も高まります。つまり、より幸せになります。
『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』135pより引用
また、これからパートナーを見つけようとする人も、「ありのままに!」因子の高さは有利に働きます。自己肯定感があり、素の自分でアピールできるからです。
4つの因子を伸ばすためにできること

ここまで読んできて、「自分は4つの因子が弱くてダメだ」と落胆された方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これらの因子はいずれも後天的に高めることができるのです。
前野さん夫妻によれば、「幸せとは筋トレのようなもの」。トレーニングによって、因子を強化し、よりよいパートナーシップを築くことが可能なのだそうです。
本書では、すぐにできる方法として、「猫背にならず、姿勢を正して胸を張る」などが列挙されています。ただし、そうしたやり方は、あくまでも対処療法的なもの。地道に取り組む必要がありますが、各因子を伸ばす方法についても解説されており、要約すると以下のようになります。
4つの因子を伸ばすコツ
「やってみよう!」因子:
心からやってみたい、短期で達成できる小目標へのチャレンジを繰り返し、目標値を高めていく。
「ありがとう!」因子:
身近なところから新しい出会いと交流を築き、感謝の機会を増やす。趣味、ボランティア、習い事をはじめる、講演会やセミナーに行って輪を広げるのもおすすめ。
「なんとかなる!」因子:
規則正しく朝起きて、外に出るようにして、(情緒の安定にかかわる神経伝達物質の)セロトニンの分泌を促す。たくさんの選択肢から何かを選ぶのに、徹底的に突き詰めすぎない。趣味・スポーツなど没頭できる機会を設ける。
「ありのままに!」因子:
自分自身の心を客観視する「メタ認知」が有効。例えば、「人の目が気になる」タイプだったら、自分は「人の目を気にしているな!」と客観視することで、心が落ち着き、不安に捉われなくなる。そこから発展して、「人の目を気にせず自由な自分」に変えるなど目標を設定し取り組む。
あらゆる人間関係に役立つアドバイスも
4つの因子の考え方は、既に夫婦・恋人となっている人たちだけでなく、シングルの人やパートナーの関係が危機に陥っている人にも有効とのことで、ケース別にアドバイスもされています。
例えば、「長年婚活しているが結果が出ない」場合。
こういう人は、周りを見る余裕がなくなりがちなので、「あえて自分以外のところに目を向けてみる」。
ボランティア活動という利他的な活動にチャレンジするなどして、「やってみよう!」因子や「ありがとう!」因子を高め、幸福感も増し、結果としてよい縁に巡り合うチャンスも増やすことができます。
隆司さんは、パートナーシップのよさは、「1+1」が「2」にとどまらない、可能性として「∞」にあることだと述べています。それは、「相手の幸せのため」に生きるという、新しい幸せを感じられるから、というのにとどまりません。
関係する周囲の人たち(子ども、双方の家族、友人…)から始まって、やがて知らない人々の幸せを願う気持ちにつながり、その範囲は世界全体にも広がり得るそうです。そう考えられる時、人は大きな幸福感を味わえます。
そのための一歩となるのが、パートナーの助けも借りて、各因子を伸ばし育むこと。本書には、そのノウハウが凝縮されているので、興味がある方は読んでみてはいかがでしょうか。
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Source: 『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)
Image: Shutterstock.com