人間は次に何が起こりそうかということを考え、予測することのできる生き物です。

こうした認知機能のおかげで何かトラブルになりそうなことに対して回避したり、それを迎え入れたり、対処する準備ができます。

ただこの脳の働きが、かえって私たちにマイナスな作用を引き起こすことが今回ペンシルベニア大学の研究で明らかになりました。

朝起きた瞬間に1日の善し悪しが決まる?

目覚まし時計を止める女性
Image: Boszyy Artist/Shutterstock

ペンシルベニア大学の研究では、朝起きたときに「今日は嫌な日になりそうだ…」と思うだけで、実際にその日嫌なことが起こったかどうかは関係なく、脳にマイナスな影響があるということが実験結果から明らかになったのです。

具体的に影響があるのは脳のワーキングメモリー(作業記憶)という部分。

このワーキングメモリーは脳が短期的な情報を貯蔵するために必要な部分で、新しい情報を処理・維持するのに不可欠な機能です。

今回の研究では、朝起きたときのネガティブな感情のせいで、実際にその日に起こった出来事のストレス度に関係なく、脳のワーキングメモリーの機能が低下してしまうというのです。

ストレス予測が日常生活に支障をきたす恐れ

ペンシルベニア州立のヘルスエイジングセンターSliwinski氏によれば、脳の作業記憶は私たちの1日の活動において極めて重要な役割を果たしているのだそう。

この部分の機能低下は個人の日常生活に大きな悪影響を及ぼし、特に認知の低下が進んだ老年の方はその影響度合いが強く表れるようです。

脳の作業記憶が低下すると仕事でミスが多くなったり、集中力が低下します。

お年寄りになればなるほど高いリスクがあり、間違った服用薬を飲んでしまったり、運転中のケアレスミスに繋がり、命の危険に関わる可能性もあります。

ストレスのかかる出来事は感情や認知、心理的に影響を及ぼすことは以前から明らかになっていましたが、ストレスを予想するだけでこれだけ日常生活に支障をきたす恐れがあると分かったのは今回の研究が初めてです。

スマホで被験者の実態に近しい状況を観察

今回の研究では、人種や経済状況など条件が異なる被験者240名に対して実験を実施。2週間の間、被験者にはスマートフォンのアプリから1日で合計7回質問に答えてもらいました

朝はその日のストレスレベルを予測し、日中の間に5回、その時々のストレスレベルについて回答します。

1日の終わりにはその日1日がストレスの多い日になりそうだと予想していたかどうか。

さらにこの回答にプラスして、1日を通して5回作業記憶をチェックするための簡単なタスクをこなしてもらいました。

同大学の博士課程生であるHyun氏は、今回の実験において、研究者側で被験者の行動をある程度コントロールしている状態にあったといえど、スマートフォンを利用してデータを逐次収集できたことは大きなメリットでもあったと話しています。

1日を過ごす中で逐一こまめにデータをとることができたおかげで、被験者のストレスレベルや認知機能が日常生活においてどのように変化しているのかをよく観察することができたわけです。

研究室で限られた時間の限られた回数で収集したデータとは異なり、ある程度長期間に渡ってデータを集めることでより実態に近しい状況を観察できたのではと推察しています。

くよくよ思い悩むのは前日の夜まで

悩む男性
Image: Billion Photos/Shutterstock

同研究者チームは、ネガティブな状態から1日をスタートさせた場合、この作業記憶は、特に夕方から夜にかけて低下が著しいことも発見しています。

さらに興味深いのは、前日の夜にストレスについて予想することはこの作業記憶の低下には関連性がないのだそう

Sliwinski氏はストレスがかかる出来事が起こるどうこうの前に、何よりも朝のマインドセットが重要だという事実がこの研究で証明された、と述べています。

自分の認知機能の変化をよく理解することは、自分の行動パターンやパフォーマンスをコントロールできる可能性が高まるということ。

とにかく嫌な予定を抱えた日は、悩むのは前日の夜までにして、朝には気分をリセットしておくのがベストだと言えるでしょう。

スマホを活用してミスを防ごう

Sliwinski氏は、もし朝目覚めて、どうしても面倒な日になりそうだなと思ってしまうのであれば、スマートフォンなどでタイマーを設定し、1日が始まる前に深呼吸をしてリラックスする時間をとるのもよいとアドバイスを述べています。

また、集中力が途切れて何かミスをしそうな時間帯には、重要な作業を避けたり、運転を控えるなど、自分に対してのアラートが届くようにメッセージを送信するよう設定しておき、自分の予定を上手にコントロールするのも良いでしょう。

同氏は今後、体に装着するウェアラブルセンサーなどを活用してより多くのデータを収集し、ストレスが被験者の心理的状態にどのような影響を及ぼすのか、調査をさらに進めていくとのことです。

もし何か仕事やプライベートで嫌な予定がある方、朝の気分で本当にその日を最悪な日にするかどうかはあなた次第!

朝一番は気持ちをすっきりと切り替えて、良いスタートダッシュを切れる日を増やせるといいですね。

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Source: Penn State