ネットで情報発信する人が星の数ほどいるのだから、「著名人ではない自分の文章がバズるなんて無理」と思っていませんか?
ですが、ブログやTwitterの文章にちょっと工夫を加えれば、多くの人に拡散することも夢ではありません。
そう語るのは、京都大学大学院で『萬葉集』を研究した後、会社員・文筆家・書評家として活動中の三宅香帆さんです。
地味な書評が「はてぶ年間ランキング」2位に
三宅さんは、大学時代にアルバイト先の書店のブログに書いた本の紹介記事が、サーバー落ちするほどアクセスを得て、その年の「はてなブックマーク年間ランキング」で2位にランクイン。その後も、書いた記事がちょくちょくバズるようになります。
意図してバズることを狙ったわけでもない自分の記事を分析した三宅さんは、「どうすれば読み手に楽しんでもらえるか?」という視点で書いていることが、キーポイントだと気づきます。
それからは、「人気の作家さんをはじめ、アイドルからインフルエンサーの文章にいたるまで、私はおそらく日本中の誰よりも“読んで楽しい文章の法則”を研究」し、バズる力を高めてきたと言います。
そうした、いままでは漠然と捉えられてきた「文才」や「文章力」というものを見える化して1冊にまとめたのが、著書『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)です。
本書は、「バズるつかみ」「バズる文体」など4章に分かれ、様々な例を引き合いにしながら、バズる文章のコツが披露されています。今回は、そこから3つを紹介しましょう。
最初に意味不明な言葉を放り込む
三宅さんは、文章の序盤で「なにか“ひっかかり”があると、どうしても続きが読みたくなるんですね!」と述べます。
その一例が、占い師のしいたけさんが、精神科医の名越康文先生の合宿に参加したもようをつづったブログ記事の一部です。
すごく実り大きな2泊3日になって、改めて、なんで「合宿」というものに参加しようと思ったかと言うと、合宿ってポロリが多いんですよね。
ここで“ひっかかり”になるのは、「ポロリ」。読者をドキッとさせる言葉を登場させることで、その先を読まずにはおれない心理状態に持っていくのが、バズる文章の1つの秘訣だと、三宅さんは説明します。
こんなふうに、先にあえて“刺激的かつ意味不明な言葉”を放り込み、後から「実はこういうこと」とやさしく説明する流れをつくることで、読み手をするっと巻き込むことができます。(本書27pより)
カギカッコの中でお芝居をする
こちらは、感情をこめたいところを、説明的な文でなく台詞にしてしまい、読み手の印象が尾を引くという文体のテクニック。
その例として三宅さんが取り上げたのは、林真理子さんが『anan』で連載しているコラム「美女入門」です。
私はこの年になってやっとわかったことがある。他人の恋愛にむやみに興味を持ちたが女というのは、決して主人公にはなれないのだ。
「あの人とあの人とはデキているらしい」 という噂に異様に興奮したり、張り切って言いふらす女というのは、絶対に、「デキているらしい」方の女の人になれないのである。(中略)
特に男性関係に関しては、ものすごく慎重である。
「すっごくモテるんですって」 と水を向けても、 「ふ、ふ、ふ……」 と笑うだけである。
会話文が3か所ありますが、ここがポイント。単に“すっごくモテるんですって、と水を向けても、ふ、ふ、ふ……と笑うだけである。” では、「読み手は一瞬で読み飛ばしてしまう」と三宅さんは指摘します。
あえて会話文にすることの意義は、次の点にあるそうです。
会話文って、だいたい書くのも読むのも楽。疲れたときに小説なんか読むと、情景描写は頭に入ってこないけど、会話文だけは目で追える、なんてことはありませんか? もともと会話文は「読みやすい」「読ませやすい」という特徴がある。(本書75pより)
もし、自分の書いているSNSに会話文がなければ、さりげなく採り入れてみるとよいかもしれませんね。
オチを先に書いてしまう
笑えるエッセイで読み手を魅了する、さくらももこさんの文章の秘密は「古畑任三郎方式」。つまり冒頭で「犯人=オチ」が開かされることにあると、三宅さんは読み解きます。
例えば、『名前の分からない物の買い物』というエッセイ。大滝詠一さんのヒットソング『A LONG VACATION』には「うす~く切ったオレンジを」というくだりがありますが、さくらさんの姉はこの歌い手も曲名も歌詞も思い出せないまま、レコード店でそのレコードを探そうとします。
この時、店員に「えーと、あの、ミカンをこう、うすく切って輪切りにして……というか、あの、そういう内容のレコードありますか」と尋ね、はたから見て愉快な状況が描かれます。最後は、偶然この曲が店内で流れて一件落着。
大事なのは冒頭で、「うす~く切ったオレンジを」という歌詞が記され、読者には何が正解かが知らされている点。「古畑任三郎」でも、犯人は冒頭で(視聴者には)判明しており、どうやって追い詰められてゆくかがドラマの面白さになっていますが、それと同じだと三宅さん。
主人公が「あの、ミカンをこう、うすく切って輪切りにして……」としどろもどろに説明する様子が面白いのは、読み手が常時「ミカンじゃなくてオレンジだし、輪切りって(笑)」とツッコミのギアを入れっぱなしだからですよね。警察は無実の人を犯人だと疑っているけれど、本当の犯人を読み手は知っている。(違うよ! 私は真実を知っているよ!)と心の中で叫びながら読むわけです(本書171pより)
何か面白体験を共有したいときに、オチは最後に持ってきて、終わりまで読んでもらいたくなるものですが、たまにはあえて「古畑任三郎方式」でいくのも良さそうですね。
本書にはこのように、普段は考えもしない多種多様な文章術が盛り込まれています。文章の力でフォロワー数を増やしたいと思ったら、参考にしてはいかがでしょうか。
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