海外でお財布を失くしたことがありますか?
アメリカでの大学院時代、わたしは60ドルと身分証明書などの入ったお財布を、学生寮の公衆電話のそばに置き忘れたことがありました(スマホ前時代)。
持ち主が留学生であることは身分証明書から明らかで、わたしも寮の掲示板に張り紙をしたりといろいろな手立てを取りました。でも、何も戻ってはきませんでした。
40カ国で落としたお財布が戻ってくるかどうかの実験をしてみたら
その時すごく悔しかったのです、「これが日本だったら……」。
では、世界の各地でお財布を落としたらどのぐらいの確率で戻ってくるのでしょうか。
ミシガン大学の行動経済学者コーンさんのチームが実験しました。その規模たるや、なかなかすごい。2年以上を費やして、スイスの大学生13人を、世界40カ国、355都市へ派遣。17303個のお財布を落としてどのぐらいの率で戻ってくるかを調べました。
学生たちは落としたお財布を見つけたという前提で、地元の銀行やホテルなどに届け、持ち主に連絡してくれるよう頼みました。持ち主に連絡があった時点で、お財布は「返却された」とみなされました。
お財布は透明で、一目で中身がわかるようになっていました。持ち主の名前やメールアドレスのあるカード、鍵、ショッピングリスト。それだけが入ったお財布と、日本円で約1500円ほどの現地の通貨の現金入っているお財布とが実験に使われました。
その結果たるや、意外や意外。40カ国中38カ国で、お金が入っている方が戻ってくる確率が高かったのです。平均で、現金なし財布が戻ってくる確率は46パーセント、お金が入っているのは61パーセントでした。
そこで、研究者は金額を変えて追実験をすることに。アメリカ、イギリス、ポーランドで「お金なし」「約1500円入り」「約1万円入り」のお財布を約3000個「落として」みたところ、一番お金が入っていたお財布が戻る可能性は72パーセントともっとも高かったのです。
戻ってくる確率が最高なのは日本じゃない!?
この記事を目にして最初に思ったのが、「日本が一番に決まってる」…と意気込んでいたら、国別のトップはデンマークの82パーセント。
「なぜ日本ではないの?」といぶかったら、日本は実験対象国には含まれていませんでした。日本で調査したらきっと世界トップだと思うのですが、皆さんどう思われますか。
アメリカに住むようになって、日本でお財布を落としたり忘れ物をしたけれどそのまま 戻ってきたよ、なんと素晴らしいんだというエピソードをアメリカ人から何度も聞いたことがあります。
落し物を届ける側の心理は?
さて、お金が多く入っている財布のほうが戻る率が高いとわかった研究者の結論は?
上記のアメリカ・イギリス・ポーランド3カ国の調査から、鍵が入っているかどうかにかかわらずお金が多いお財布が戻されたのは、持ち主への思いやりよりは発見者本人が泥棒だと思われたくない気持ちが強いのだろうと結論づけています。
それで思い出したことがありました。わたしは、大学時代に学校の近くの商業ビルで3万円ほど入ったお財布を見つけ、そのビルの管理室に届けたのです。
そのことをいまだによく覚えているのは、後日持ち主の女性からお礼がしたいからと電話がかかってきて、喫茶店で会うことになり、当時人気だったケーキ屋さんのホールケーキをいただいたからでした。
お財布を拾ったときの気持ちは、落とした人は困っているだろうということだけ。お金を取ろうなんてことは念頭にもありません。日本では、泥棒行為を避けるというより相手が困っているだろうという気持ちから落し物をきちんと届ける人が大部分だと思うのですが。
やはり落し物や忘れ物には気をつけたい
ちなみに、アメリカ生活20余年、財布だけは冒頭に挙げた1回ですが、ホテルに洋服などの忘れ物をしたことは数回。持ち主がわかっているのに連絡がきたり返却されたことは一度もありません。ですから、やはり日本と海外(わたしの場合はアメリカ)は違うなと肌で感じています。
わたしが想像していたよりは、海外でもお金が入ったお財布は戻ってくるのかもしれませんが、海外旅行ではやはり貴重品は落とさないように、忘れないように気をつけたいものです。
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Image: shutterstock
Source:Science, NPR, Science News