敏腕クリエイターやビジネスパーソンに学ぶ子育て術「HOW I PARENT」シリーズ。
今回は、“完全オーダーメイド”のウェディングで結婚式ビジネスに革命を起こした株式会社CRAZYのCEO・森山和彦さんと、公私ともにパートナーである同社の創業者でブランドマネジャーの山川咲さん夫婦にお話を伺いました。
2012年に創業したCRAZYは、従来のウェディング業界では不可能とされていたサプライヤーや会場に縛られない自由な結婚式が実現できると話題に。
2016年には山川さんがテレビ番組「情熱大陸」で取り上げられるなど、順調に事業を拡大。今年の6月までに約1200組の結婚式をプロデュースしてきたそう。
また、上限のない長期休暇が取得できる「グレートジャーニー制度」や、社食として健康的なオーガニック食材を中心に作るランチを提供する福利厚生など、ユニークな社内制度が注目されました。
昨年10月には、社員の睡眠に対し報酬を支払う日本初の「睡眠報酬制度」を導入。今年2月には、同社初となる式場「IWAI OMOTESANDO」をグランドオープンするなど、新たな挑戦は続いています。
そんな型破りな事業を次々と仕掛けてきたお二人の子育て術とは?

氏名:森山和彦(36歳) 山川咲(35歳)
居住地:東京都内
現在の職業:株式会社CRAZY 代表取締役社長/ブランドマネジャー
子どもの年齢:長女・英(はな・1歳9カ月)
キャリアと家族計画
——キャリアと家族形成は、概ね計画通り? それとも予想外だった?
山川咲さん(以下、山川):事業が忙しくて、いつ子どもを作ろうと考えている余裕もなかったというのが正直なところ。
じつは、27歳のときに一度妊娠して流産した経験もあって…。なので、今回の妊娠出産は予想外? ということではなかったのですが、タイミング的には「えっ、いま!?」という感じでした。
森山和彦さん(以下、森山):結婚して8〜9年経っていたしね。
「ご懐妊」という書をまるで元号の発表のように掲げて、妊娠を伝えてくれたときは本当に嬉しかったです。
山川:よくよく考えてみたら、ここぞという本当にいいタイミングで(英は)来てくれたよね。
創業時だったら事業に影響が出ていたかもしれませんが、ちょうど妊娠がわかったときに私自身が体調を崩していたこともあって、(妊娠出産の)前後1年半くらいは自分のペースで仕事をさせてもらえました。
——妊娠発覚から出産・産後、特に印象深かったことは?
森山:英が生まれてから1カ月間、僕も育休を取りました。
彼女に休んでもらっている間に家事をやるわけですが、それがすごく忙しかった。主夫も大変だなと実感しました。
山川:この1カ月がすごく大切な時間だったよね。
私の希望で広島で出産したのですが、森ちゃん(森山さんの愛称)は、週に数日来てすべての家事をしてくれました。
主婦(主夫)の大変さと喜びを身をもって感じてくれたので、「どうせわかってないでしょ」という気持ちが起きないし、(大変さを)知ってくれているというベースができたのはすごく大きかった。
それって“信頼”につながるじゃないですか。めちゃくちゃ幸せな日々でした!
森山:本当にいい経験だったし、僕も幸せだった!
やっぱり“自分のことを理解されていない”苦しみってありますよね。
男性はどうしてもお腹を痛めて産めないので実感を持ちづらい。だから僕は実感を持てるような行動を取るようにしました。男性のみなさんにぜひオススメしたいのは、男性のカンガルーケア(※)!
英が産まれてすぐに僕が上半身裸になって抱っこしたんです。そうするとちょっとずつ実感が沸いてきて。
産院でも男性でカンガルーケアをした人は初めてだと言われましたが、これは本当に世界中の男性にオススメしたい!
(※出産直後に赤ちゃんと直接肌と触れ合えるように、母親が裸のまま乳房の間で抱っこするケア)
家事と育児の分担・バランス

——子どもが生まれてからの家事と育児はどのように分担している?
森山:試行錯誤をへて、いま明確に分担しているのは、子どもの保育園の送り迎え。
週1日は彼女に完全フリーな日があるように、朝の送りから夜のお迎え、寝かしつけまでを僕が担当。それにプラスして週に1回、夜のお迎えをしています。
掃除などの家のクリーンナップは週1回、外部の家事代行サービスを利用するようになりました。
洗濯などのその他の家事は、気づいたときにどちらかがやるようにしていますが、食事づくりも含め育児のメインは彼女が担当してくれています。
でも過去には、そのバランスがうまくいかなかったこともあって…。
山川:揉めたよね〜(笑)。
とくに生後半年が過ぎて、私が仕事復帰するようになってからは「もっとここまでやって欲しい」という思いが出てきて、それをぶつけるようになって。
でも、昨年の12月に英と二人で2週間ほど海外旅行をして、そのときに一緒にいる幸福感を全身で感じて、「この瞬間はいましかないし、もう少し側で(英を)見ていたいなぁ」と気づいたんです。
それで今年の始めに、「仕事の責任者は森山、子育ての責任者は私(山川)」と決めて、お互いに感謝しながら自分の領域をもつという大枠を決めたら、うまくまわるようになりました。
もちろん、目先の仕事をやりたいなぁという思いはあるのですが、人生においていま私がやりたいのはこれなんだという明確な軸はぶれない。
それにやっぱり経営者の森ちゃんにしかできないことがあるし、パパがどんなに頑張っても埋められないものもありますし。
森山:僕の場合、まず取り決めたことをしっかりやりたいタイプ。でも彼女が大切なのは「いま」なので時間軸が違う。そこのズレがいつも生じていました。
たとえば、英が大泣きしていて彼女が大変なときも、僕は仕事に集中して休みの日に家族で過ごせばいいと、合理的に考えてしまうんです。
でもそれが「冷たい」と感じるようで…。
余裕があるときは「僕が見るよ」と言えるんですが、会社が大変なときに子どもという変数が加わるといっぱいいっぱいになってしまって。彼女の訴えにどう返すかは器が試される日々でしたね。
山川:もともと森ちゃんは器が広いタイプなんですが、こちらが英のことで大変なときに涼しい顔で問題解決しようとしていることにイラッとしてしまって。
でも、論理的に考えたら正しくないのは私なので、心の中で文字起こしして冷静になって(笑)、「私が悪かった、仕事して」って。
森山:でも言われたときに、2つの選択肢があって葛藤するんですよ。
「言ってくれた通りに仕事をする」のと、「言ってくれたことに感謝して、育児を手伝う」のと。
「仕事してもいいよ(でも一緒にいたいな)」という彼女の後半のカッコのニュアンスを感じて日々揺れ動いています。
山川:カッコを期待しちゃうんですよね(笑)。
でも、この期待をしてしまうことがコミュニケーションの難しさなので、できる限りカッコを持たないように努力しています。
愛情があるからこそこういうやり取りをするわけです。
そうじゃなくて「もう一人でやるからいいや」ってなったら、取り返しのつかないところまで行くんだろうなと。
森山:そうはなりたくない。このカッコは夫婦の永遠のテーマだし、小競り合いはあって当然ですよね。
家事と育児のサポート事情

——パートナー以外に誰からどの程度家事・育児を手伝ってもらっている?
山川:4月に保育園に入るまでは、社内託児制度(※)を利用して、専属のベビーシッターさんに見てもらっていました。
(※CRAZYでは、子連れ出勤が可能。仕事中は社内の専属ベビーシッターに見てもらう社内託児制度がある)
森山:お互いの実家もわりと遠いので、基本的には会社の制度のみです。
家事に関しては、外部のクリーンナップサービス。
家事ができていないのは二人の責任だし、僕の方から提案して利用し始めたのですが、これが本当に便利。家が散らかっているのは精神的にも疲れますしね。
仕事と子育てのバランス・働き方の変化
——子どもが生まれてから、仕事のやり方は変わった?
山川:死ぬほど変わりました!
もともとは、自分が全部やりたいタイプで、細部まですべて魂を宿して世の中に出すというくらいやっていたんです。
でもいまは、ミーティング以外で作業できる時間が1日にあっても1時間くらい。この時間のなかで何をどうするかと考えたら、ミーティング自体もでるかどうか精査する必要が出てきました。
絶対に私が死ぬほどやらなきゃいけない10個のなかの3つ、この3つの中でもどうしても私がやらなきゃいけないことはこの2つと決めて、あとは責任者に任せています。
この建物(IWAI)を作るのも、子育てしながらだったので、建築の詳細などはデザイナーにお願いしたんです。結果、私が一人でやるよりもずっといいものができた! と実感している初めての経験です。
森山:僕も仕事時間が減りました。必然的に仕事量や質はもちろん、出産を機に引っ越しもして、生活スタイルを変えました。
でも、どんなに時間を作っても(子育ては)足りないですよ、いまだって(英と)一緒に居られていないですし。
そこで僕が決めたのは、“子育ての定義”を自分の中でしっかり持つこと。
たとえ週1回でも(英と)二人きりの時間をもって愛情表現をたっぷりして、父親だと認識されて常に“二番目”の存在(母親の次)でいられれば、それで十分だという定義です。
子どもにとってあの人が親だという認識=安心感というのは、何かあったときにすごく大事だと思っていて、僕はそれができるだけの範囲でやっていきます。
いまは、仕事を通して世界に貢献したいという思いが強い。だから、時間があれば育児をしたいとは思わないですね。それは(定義を)決めている強さなのかも。
とはいえ、そんなに合理的にも進まないのですが…(笑)。
でも、男性側もちゃんとポリシーを持って、(妻と)共有することがスゴく大事。ポリシーを持たないことが育児放棄につながるのではないでしょうか。
ストレス解消・リラックス法

——日々の息抜き・リラックス方法は?
森山:僕はサウナ。
業務時間中でも2時間空いたらすぐに行きます。あとは、事前に計画して、東京を離れて仕事するようにしています。
山川:私の場合“一人の時間”というだけでも、すごく息抜き。
もちろん子どもと一緒の時間はすごく楽しいのですが、生後半年くらいまでは社会から取り残されているような気分になってすごく辛かった。
いまは、月曜夜がフリータイム。なるべく外の方と会うようにして、週に1度は飲みに行くようにしています。最近調子がいいのは、そのおかげかも!
親になって感じた喜び・悩み

——親として一番誇らしく思ったことは?
山川:自分が自分の人生を妥協なく生きていること。
子育てに専念した方がいいかもと迷った時期もありましたが、子どものためにも自分が信じる道を歩んでいくというのはすごく大事だと思うんです。
じつは私の父がすごく破天荒で、私が2歳のときにフジテレビのアナウンサーを突然辞めて、ワンボックスカーで日本を放浪。たどり着いた千葉県の農村で育ったのですが、すごく閉鎖的だったのでいじめられて。
その境遇が本当にイヤだったのですが、結局この体験がいまの私のアイデンティティーを作っていて、このことがなければいまの事業は立ち上げていなかった。
自分の父親を見て、自分らしく生きることの大切さを知りました。
森山:僕が一番誇らしいのは、愛情を表現できているとき。
毎日何十回も英に「愛しているよ」と伝えているんですが、最近「ん?あいちてる?」と返答するようになって。「そうそれ!愛しているの意味、わかっている?」と聞き返すと、「うん!」って。
人間にとって、愛情を伝えてそれが受け入れられるというのが一番大事なことだと思っているので、それができている瞬間、とても誇らしいです。
山川:森ちゃんの話を聞いてもう1つ思い出したんですが、自分が子育てを経験することで、自分も親から同じことをされてきたのだと知るのはすごく大事だなと。
このプロセスって、人が自分の人生を素晴らしいものだと受け入れるためにとても重要だと思うんです。
それは結婚式を通じて、私たちが伝えたいことにもつながっています。
単に式の数時間を楽しむだけでなく、0歳からの人生をすべて振り返って、たとえ人生に否定的だった人でも、こんなに愛されて肯定されて生きてきたんだ、自分の人生は価値のあるものなんだと気づく機会にしてほしいという思いでやってきました。
IWAIという会場も、自分が親になったことが起因していて、自分の人生を知る機会がもてるツールがあるといいなと思い作りました。
だから、親がしてくれたことを順々に知っていき、それを結婚式という事業やIWAIを通じて世の中にコミュニケートできるということはとても誇らしいです。
森山:改めて親の愛情を知って、自分たちがやっている事業の深みが増したっていうのは本当にあるよね。
仕事と育児を両立するためのアドバイス

——子育てと仕事を両立している親御さんたちへアドバイスは?
森山:おもに男性へのアドバイスですが、(奥さんと)話し合って具体策を出さないと両立はできるわけがありません。
普段の業務に新しい何かが加わるわけです。いまのままではやれないので、何かを変えていく、辞める、加える、をしないと。
両立ってキレイな言葉ですけど、そもそも両立すべきか、というところから考えること。変に両立しようとするとお互いに何も変えようとしないので、何かしらの変化を前提に話し合ったほうがいいです。出だしが肝心!
山川:森ちゃんとスタートは同じで、最初に両立したいかどうかをまず問うたほうがいい。
すべての物事にしなければならないことは存在しないし、したいのかどうか、したいのであればどうやってやるのか、そのステップを自分でちゃんと踏むことが精神的にもとても大事だと思います。
そして両立すると決めたときに、“この人と一緒にいる”という原風景があることはすごく大切。
私にとっては、産前の1カ月と広島で過ごした産後1カ月のことなのですが、人生でもっとも幸せな時間だったので、あの風景を思い出すとがんばれる。あそこには真実があると思えることがすごく大事で。
妊娠中の10カ月はカラダ的には難しくても、休みがあれば、そういう原風景をつくる時間が取れるし、自分自身の変化を生み出していく時間に当てられるといいのではないでしょうか。
子どもへ送りたいもの・残したいもの

——最後に親として、手渡したい子どもへのギフトは?
森山:「優しさ」と「賢さ」。
それ以外の教育方針はなくて、僕はそれだけで育てています。
本当に愛情深い人にはどちらも必要だなと思っていて、優しさ=共感性を持って欲しいっていうのはずっと言っています。それをベースに、加えていうならば、音楽とか芸術的なものは身に付けさせたい。
賢さについては、詰め込みというより知識の量ですね。
リベラルアーツから数学まで含めてしっかり勉強すべき。知識があると世の中を多面的に捉えられるので、それってすごく強い。脳の開発は絶対にさせたいと思っています。
山川:私は、自分のように「没頭する力」や「姿勢」。何かに傾倒したり、集中したりする力を身につけて欲しいです。
英が求めるものに対して向き合い続ける姿勢を育ててあげたい。
AIが仕事をこなしていく時代に一般教養は必要ないと思うんです。あれもそれも平均的にこなす力や平均的に育てるのは、一番リスクがあるなと。
均等を壊すような、「私はこれ!」というものを許可して、応援していきたいです。
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Photo: 伊藤晴世