非常に優秀なプレイヤーであるにもかかわらず、リーダーとして部下を動かすことができないーー組織のなかには、そんな人がいるものです。
『部下に9割任せる!』(吉田幸弘著、フォレスト出版)の著者によれば、そういうタイプの人からは次のような意見が出てくるのだそうです。
「部下が以前に失敗して困ったから簡単な作業しか任せていない」
「チームの業務をすべて自分が見ようとしている」
「部下に相談するなんて情けないので、自分1人ですべてのことを決める」
「会議や面談は自分が主導になって進めていかなくてはならない」
「部下の前で自分の欠点などを見せたらナメられてしまう」
「ナンバー2の部下に任せたら、ラクしようとしているように思われそう」
「リーダーはすべての面において、部下に勝っていなければならない」
(「はじめに」より)
こうした考え方をひとことでまとめるなら、「自分でやったほうが早い」ということになるのでしょう。
違う角度から捉えるとすれば、「任せられない人」は、「責任感の強い真面目な人」。
そのため、結局は自分ですべてを抱えてしまうわけです。ところが、それがかえって仇になり、チーム全体の力を低下させてしまうということ。
経営者・管理職に向け、部下育成の研修やセミナー、講演を全国の会社組織や商業団体などで年間100回以上行なっているという著者は、そのようなリーダーのために本書を執筆したのだといいます。
ここで明かされているのは、部下に仕事を任せ、リーダーが元気になるための考え方と技術。
すべて著者自身の実体験、あるいは講演・研修先の会社で起きた事実に基づいたもので、すぐに実践できることばかりだそうです。
そんな本書から、きょうは第4章「任せ上手なリーダーは部下を育てる」に注目してみたいと思います。
部下には仕事をどんどん任せる
「組織はリーダーの力量以上にならない」ということばがありますが、これを誤って解釈している人がたくさんいると著者は指摘しています。
「力量」を「能力」と勘違いし、すべての面においてリーダーが部下よりも優秀でなければならないと思っているというのです。
しかし、そもそもリーダーと部下とでは、果たすべき役割が違います。
たとえば営業の仕事なら、部下は常日頃からお客様と接しているため情報を持っているもの。ところがリーダーは、部下と同じように現場に出ているわけではありません。
つまり、部下のほうがリーダーよりも多くの情報や知識を持っているわけです。
なのにリーダーが対抗意識を持って、部下と同じように現場の仕事に取り組んでしまうと、当然のことながらリーダーが本来やるべき仕事ができなくなってしまうことに。
現場に介入しすぎて部下の仕事を奪ったり、やり方を細かく指示するようになる可能性も考えられます。すると部下は、仕事をしづらくなります。
人は「指示されたとおりにやる」よりも、「自分で考えてやる」ほうがモチベーションは上がるものです。
だからこそ、仕事や権限は部下にどんどん配分するべき。部下の自主性に任せて権限移譲(エンパワーメント)をすることにより、部下も成長できるわけです。
もちろん、最初は失敗することもあるでしょう。しかし、まずは部下に「失敗するチャンス」を与えることが大切。
部下に成長してほしいという思いがあるなら、自分の持っている情報やリソース、権限を与え、部下が自分で考えた方法でやらせるべき。
それこそが、「部下(人)を育てる」ということなのだと著者は主張しています。
逆にいえば、いつまでも「自分が」にこだわり続ける人は、この能力を発揮できず、やがては停滞や自己欺瞞に陥ってしまうということです。(138ページより)
「命令」ではなく「相談」する
部下に対し、売り上げが目標に達していないことを指摘するとします。その際、次のどちらの言い方をすれば、部下はやる気を出すでしょうか?
1 「おい、あと1000万円、残り10日でなんとかしろよ!」
2 「残り10日であと1000万か……、なんとかならないかな?」
(146ページより)
いうまでもなく、2の言い方のほうが「なんとかしよう」という気になれるはず。
また命令ではなく相談されているので、部下としても「なんとか答えなくては」という気になり、解決策を考えるようになるでしょう。
このように、相談や質問の形式にすることで、部下に「教えてもらう」ことが可能になるというわけです。
反対に、1のような命令口調で伝えると、部下は「やらされ感」を抱くことになり、「丸投げ」されたようにも感じます。
そこで、部下になにかを頼んだり、仕事を任せたいときは「命令」ではなく「相談」のかたちにすることが大切。
×「年末のパーティの会場を押さえておいて」
×「セミナーのチラシ作成、次回から任せたから」
×「来月からE社の担当よろしく」
(147ページより)
↓
○「年末のパーティの会場、どこがいいだろうか? どこかおすすめの場所ある?」
○「セミナーのチラシの作成、次回から担当してもらえないかな?」
○「Gさんが異動したから、代わりにE社の担当をお願いできるかな?」
(148ページより)
同じ内容なのに、相談形式にするだけで、言われたほうは「頼られているな」と感じ、心理的安全性も満たされることになります。
また、命令だと「やっつけ仕事」になってしまうかもしれませんが、相談ならば部下が「自分ごと」と感じ、仕事のクオリティも上がる可能性があるわけです。(143ページより)
部下に仕事を任せないのはリーダー失格
部下に任せず、いつまでも上司が仕事を抱え込んでいると、さまざまな問題が生じることになります。
部下が成長しない
たとえば部下に確実にできる仕事しか任せていないと、その部下はいつまでたっても成長しません。
そこで、予算案や販売計画の作成のような、いままでよりも負荷のかかる仕事を任せるようにするべき。
もちろん丸投げするのではなく、要所要所で確認することは必要。
そのぶん最初は手間取るかもしれませんが、慣れればできるようになるはず。仕事は「できるようになったから任せる」のではなく、「任せるからできるようになる」ということです。
長時間労働になる
リーダーがたくさんの仕事を抱えていると、夜遅くまで残業することになります。すると、部下も帰りづらくなります。
リーダーが自宅に仕事を持ち帰ったとすると、コンプライアンスの問題が生じたり、リーダー自身の健康に支障をきたすことも考えられます。
そればかりかリーダーが自分の時間を持てなくなると、読書をしたり、人と会ったりするなどの自己研磨をする時間もなくなるでしょう。
また、その結果としてリーダー自身の成長が鈍化すると、その人が率いるチームも鈍化することに。
リーダーの不在時に仕事が回らない
リーダーがやっている仕事を部下がある程度できるようになっていないと、リーダーが体調不良などなんらかの理由で急に休んだとき、お客様や関係者に迷惑をかける可能性があります。
場合によっては、信用をなくしてしまうこともあるかもしれません。
そのため仕事を普段から任せるようにしておき、リーダー自身の属人的な暗黙知やスキルをメンバーが共有できるようにすることが重要。
部下に主体性が生まれない
部下に同じ仕事や簡単な仕事ばかりやらせていると、新しいことに挑戦する意欲が落ちてきますし、主体性が生まれません。
また、「失敗しないように」「ミスしないように」「怒られないように」と、最低限の仕事だけやっておけばいいやというメンバーも出てくるでしょう。
このような理由から、仕事はどんどん部下に任せるべきだということです。(149ページより)
著者は会社員時代に、管理職として12年にわたって活動したそうです。しかし、必ずしも最初からうまくいっていたわけではないと当時を振り返っています。
自分の思いどおりに動かない部下に言うことを聞かせようと無理をして、3回も降格人事になった経験があるというのです。
本書の内容が具体的で説得力に満ちているのは、自身の失敗をも含めた体験がベースになっているからなのでしょう。
だからこそ、自分ごととして受け止められることは少なくないはず。リーダーシップの生かし方に悩んでいるのなら、手にとってみてはいかがでしょうか?
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Photo: 印南敦史
Source: フォレスト出版