『会社をつぶさず成長をつづける 社長の流儀』(佐々木常夫著、ワニブックス)の著者は本書の冒頭で、日本国内における「会社」の数に焦点を当てています。
総務省統計局によると、全国にある企業数は約410万社(平成24年度)で、うち約4割にあたる170万社が法人企業だというのです(残りの240万社は個人事業主)。
一般的に「会社」は法人のことを指すので、日本には170万社の会社があるということ。だとすれば、社長と呼ばれる人もまた170万人いることになります。
とはいえ現実問題として、会社経営において「赤字を出さない」「会社を潰さない」だけでも至難の技。
大企業はともかく、中小企業の社長の多くは、少しでも利益を上げ、会社を存続させていくことに日々頭を悩ませているのではないでしょうか。
私は四十年ほどのビジネスマン生活でさまざまな経験をしてきました。東レというひとつの会社のなかではありましたが、同じ部署に三年ととどまることなく、つぎつぎに異なる性格の仕事を担当してきたのです。
(中略)私自身が社長の肩書で仕事をしたのは、キャリア最後の数年間、関連会社のトップを務めたときだけですから、その点では、私に会社経営を語る資格は不足しているのかもしれません。
しかし、私にはビジネスマン生活の早い時期から、絶えず経営者の視点をもって仕事をしてきたという自負があります。(「はじめに」より)
「企業経営とはなにか」「経営者の仕事や役割とはなにか」「自分が社長だったらどうするか」「組織のトップの心得やふるまいはどうあるべきか」など、経営者の目線、考え方、感覚を持ちつつ、いつも自分が社長になったつもりでさまざまな業務に携わってきたというのです。
そこで本書ではそうした経験を軸に、「儲かる会社」「つぶれない会社」の経営にはなにが必要で、どんな社長像が求められるのか、その原則やノウハウを考察しているわけです。
きょうはそんな本書の第一章「『会社をつぶさない』社長の鉄則」に注目してみることにしましょう。
よい経営者とは「結果を出す」人のこと
私たちは「あの会社はいい会社だね」「あの会社はあんまり評判がよくないよ」などと口にすることがあります。
でも、「よい会社」とはどのような会社のことをいうのでしょうか?
この点について著者は、「よい会社とは第一に、『お客様をよろこばせる』会社」であることだとしています。
よい商品、よいサービスを市場に提供すれば、お客様は喜んでそれを買ってくれます。
つくったものが売れれば会社はもうかり、その利益をさらなる品質向上や新製品の開発などに再投資できます。
そればかりか消費者の満足や社会貢献にもつながりますから、会社の評価も上がるでしょう。
このつくる→売れる→もうかる→再投資する→顧客満足・評価向上の好サイクルを描くこと、継続していくことはよい会社に欠かせない必須の条件といえます。(15ページより)
次いで第二の条件は、「従業員が幸せである」こと。働く人がやりがいをもって仕事に打ち込める環境が整っている会社は、よい会社だということです。
しかし、その労働環境のなかには当然、給料やボーナスも含まれます。
「生活するのがやっと」の報酬しか出せないのでは、社員が幸せを感じることはむずかしいのです。
従業員の幸せのためには、彼らが満足できる報酬が支払われることが必要となるわけですが、そのために会社は利益を出さなければなりません。
すなわち、よい会社の三つ目の条件は、「利益を出す」会社であること。
利益が出せない会社は従業員を幸せにはできず、利益が出ない=売れない商品しか出せない会社は結局、お客さまを喜ばせることもできなければ、市場や社会にも貢献できないからです。
また、そういう会社は遅かれ早かれ消えていく運命にあるもの。もうからない会社がいずれつぶれるのは自然淘汰に等しいビジネス界の掟だということです。
そして、いま述べたよい会社の条件は、そのまま「よい経営者」の条件にもあてはまります。つまり、よい経営者とはなによりも利益を出せる人のことであり、それができない経営者には経営者の資格はないということです。(16ページより)
お客様をよろこばせるため、従業員を幸せにするために企業経営に尽力したものの、会社は倒産して社員も路頭に迷ったとしたら、やはり経営者失格。
だから、なんとしても利益を上げる、なにがっても会社をつぶさない。
よい経営者には、そうした会社存続のための強靭な気概や意思、使命感や責任感が要求されるということです。(14ページより)
「経営に教科書(セオリー)はない」ことを熟知せよ
経営に教科書はないーーそれは著者の長年の持論でもあるといいます。会社経営というのは、変数だらけの数式を解くようなもの。
会社の業種、業態、規模、市場環境、技術や販売力の水準、人材レベル、ライバル会社やお客様の動向など、多くの条件をすべてよく考え併せたところに初めて、そのときどきのベストな戦略が生まれてくるからです。
また、これらの条件は当然ながら、つねに変動しているものでもあります。
よって、導き出される答えもそのつど変わることになります。正解はひとつだけではないということ。
つまりは、いつ、いかなる場合、どんな状況や環境下にあっても、共通してあてはまる不変のセオリーなど経営にあるはずもないわけです。
ところが、あたかもそれが「ある」かのように主張するのが経営理論というもの。著者もかつてはアメリカから直輸入したような経営理論にかぶれ、自分の仕事にしてみたことがあるのだとか。
しかしやってみて、「教科書を現場にあてはめてみても、ほとんど無力である」と実感したのだそうです。
まったく無力だとはいわないものの、現場の体験によってどんどん書き換えていかない限り、教科書が役に立つことはまずありません。
それどころか書き換えていくうちに、その内容が最初とはまったく違ったものになってしまうことも充分に考えられるでしょう。
理論というものは、事前の予測や事後の分析、一般的な傾向などを知るときの参考としては役立つものの、それをそのまま実際の経営に適用しようとすると大きなリスクを生むことになるということ。
MBAの理論どおりにやってうまくいくこともあれば、そのとおりにやって失敗することもあるのが経営の難しさ。
現在のように時代が動き、経営環境の変化も大きいときには、経営の「定石」に頼ることはむしろマイナスの害を生むことのほうが多いもの。
そのことを知っておくべきだと著者は強調しています。(20ページより)
すぐれた経営者は人とちがう「自分だけの経営」をめざす
世の中には、さまざまなタイプの社長がいるものです。
人間的にはざっくばらん、豪放磊落で親しみやすいが、ワンマンで強権的な経営をする人。
部下の声には耳を貸さず、独断専行でことを進め、成功すれば大きいが、失敗も大きいタイプ。
事務処理能力が高く、すべてをそつなく堅実にこなせ、組織の調整力もあるため失敗はほとんどなし。ただし臆病なところがあり、大きな決断がなかなかできない人。
優秀で、なんでも自分ででき、過去に大きな業績も上げてきたが、成功体験の呪縛から抜け出せず、部下に仕事を任せることも苦手なタイプ。
このように、経営者の個性も十人十色であり、その経営手法も百人百様だということ。
いわば、「これが経営者のあるべき姿だ」という理想の社長像などないのです。
雑誌などでは「理想の社長とは」というような記事を見かけることがありますが、そこに現実的な意味はないわけです。
また、松下幸之助のような立志伝中の人物になりたい、第二のスティーブ・ジョブズをめざすといった目標像を描くのもかまわないでしょうが、それを唯一の理想の姿として追いかけることや、先人のコピー版をつくりだすのに精を出すことにも、やはり有益な意味は見出せません。
経営者はそれぞれ、自分流のやり方で会社を経営すればいいのです。(31ページより)
正しいセオリーや定石、こうあるべきだという理想形などは経営にはないということ。
だからこそ社長は自分流のやり方、すなわち自前の理念や手法に基づき、自信を持って会社を運営していけばいいというのです。
先人のコピーではない、人と違った、自分だけの経営をする勇気。それこそが、社長には必要だという考え方です。(29ページより)
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、著者は自閉症の長男を含め3人の子ども、そして肝臓病とうつ病を患った妻を抱えながら、ビジネスパーソンとしても多くの実績を積み上げてきた人物。
数々の苦難を乗り越えてきたバックグラウンドがあるからこそ、本書には強い説得力があるかもしれません。
会社経営者のみならず、あらゆるビジネスパーソンにおすすめできる一冊です。
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Photo: 印南敦史
Source: ワニブックス