OECD(経済協力開発機構)が行った2018年の国際比較調査(参考データ/Excelファイル)によれば、加盟28カ国と中国、インド、南アフリカをプラスした31カ国の中で最も睡眠時間が少ないのは日本だそうです。

OECD平均の8時間25分に対して、1時間近くも短い7時間22分。日本人の中で見ると、働き盛り世代はこれよりも短い睡眠時間の人も多いはず。

社会人に睡眠負債ゼロは皆無、日本人は眠りが足りない

その理由として「働きすぎている」、「通勤時間が長すぎる」、「スマホ時間が長すぎる」の3点を挙げるのは、医学博士で秋田大学大学院 医学系研究科精神科学講座教授の三島和夫氏。

日本睡眠学会の理事なども兼務する三島教授は、著書『睡眠と覚醒 最強の習慣』(青春出版社)で、「働き盛りのビジネスパーソンで睡眠負債ゼロの人は、ほぼいません」とも言います。

日々の睡眠不足が積み上がる「睡眠負債」は、もはや聞きなれた流行語となっていますが、具体的にどんな悪影響があるのでしょうか。

三島教授は、以下のように述べています。

「単なる睡眠不足ではすまなくなり、深刻な睡眠障害や、うつ病、がん、血管系疾患などの、重篤な病のリスクも高まっていきます」

睡眠と覚醒 最強の習慣』41ページより引用

睡眠負債(睡眠不足)が厄介なのは、長く続くと慣れが出て、それに気づかなくなること。

目覚めが悪く、寝足りない気分があっても、そのままやり過ごしてしまう危険性があります。

もし、キーボード入力のミスタッチが増えたり、会議中にふとうわの空になることがあったら、睡眠負債がたまっているサイン。

このままパフォーマンスが低下し、健康に問題が生じる前に手を打つ必要があります。

では、よく言われているように「8時間」眠ればOKなのでしょうか。実はこれは「都市伝説」だと、三島教授は言います。

最適な睡眠時間は個人差が大きく、誰もが8時間必要というわけではありません。

6時間で十分な人もいれば、9時間以上眠らないと日中に眠くなってしまうという人もいます。同年代であっても個人差が3時間以上あることが分かっています」

睡眠と覚醒 最強の習慣』55ページより引用

こうした、従来の常識にとらわれず、最新の研究成果に基づいた「新しい常識」が網羅されているのが本書の大きな特徴です。

その「新しい常識」にはどんなものがあるでしょうか。以下いくつか紹介してみましょう。

何時に寝るかより「寝始めの3時間」が大事

「成長ホルモンがよく分泌される午後10時から午前2時が睡眠のゴールデンタイム」と聞いたことがあるでしょう。でも、これも「都市伝説」だそうです。

三島教授によれば、「成長ホルモンは、時間指定で分泌される性質のものではなく、主に深いノンレム睡眠(徐波睡眠)の最中に分泌される」のが正しいそうです。

深いノンレム睡眠は、眠りについてから約3時間の間によく出現します。

そのため、午後10時から午前2時でなくとも、例えば夜勤明けの朝方に熟睡すれば、成長ホルモンは十分に分泌されます。

靴下は深い睡眠の妨げになる

これからの寒くなる季節は、靴下を履いたまま布団に入りたくなりますが、これは原則的にはNG。

というのも、良い寝つきには、脳の温度(深部体温)を下げておくことが大事だから。

就寝時は深部体温を下げるため、毛細血管が拡張して手のひらや足の裏から放熱が行われます。しかし、靴下を履いて眠ってしまうと、この放熱がうまくいきません。

結果として、脳の温度も下がりにくくなり、睡眠の質も低下してしまいます。

布団の中の冷たさが気になる場合や冷え性の人は、靴下を履いて布団に入り、中が暖まったら脱ぐなど工夫することを、三島教授は勧めています。

パフォーマンスが上がる昼寝のコツ

企業が従業員に昼寝タイムを推奨するなど、昼寝の効用が見直されています。でも、やみくもな昼寝は禁物。

三島教授が教える昼寝のコツは、

・できるだけ早い時刻にすませる

・20~30分以内にとどめる

この2点を守れば、昼食後の眠気を解消して、すっきり冴えた気分で午後の業務に取りかかれます。

逆に注意したいのが、遅い時間の昼寝。夕方近くになってしまうと、夜の睡眠が浅くなってしまいます。

特に、電車通勤の人は帰りの電車で眠ってしまうと(これはもはや昼寝ではありませんが)、悪影響はもっと大きくなります。

また、昼寝が30分以上になると深い睡眠に入ってしまいがちで、これも夜の睡眠の妨げに。

くれぐれも上記のコツを遵守するようにしましょう。

短時間睡眠法は存在しない

ちなみに、三島教授によると短時間睡眠法というものは存在せず、カフェイン飲料は眠気を一時的に抑えても疲労まで取ってくれる便利なものではないそうです。

やはり、質の高い睡眠を適正時間とるのが正解。本書では、そのためのコツもいろいろと紹介されているので参考にすると良いでしょう。

Source: 『睡眠と覚醒 最強の習慣』,OECD Gender data portal(Excelファイル)

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