敏腕クリエイターやビジネスパーソンに学ぶ子育て術「HOW I PARENT」シリーズ。
今回は、大正大学心理社会部准教授で『男性学』を研究、厚生労働省の「イクメンプロジェクト」推進委員や渋谷区男女平等推進会議委員でもある社会学者・田中俊之さんの子育て術です。
——田中俊之さんって何をしている人? 男性学ってどんな学問?
社会学者の田中さんが専門としている『男性学』とは、男性だからこそ抱えてしまう問題について研究する学問のこと。
たとえば、男性=働いて一家の大黒柱として稼ぐべきという固定観念によって、子育て中心のライフスタイルを送りたい男性が肩身の狭い思いをするという現状。
田中さんはこのような『男たるもの仕事第一』という社会の画一されたレールに乗れず、息苦しさを感じている男性の悩みに目を向け、問題提起しています。
理想とするのは、性別や生き方が違っても認め合える、本当の意味で多様性のあるダイバーシティ。
共働きが増えているいま、田中さんは「ワーキングマザーの悩みと男性の生きづらさの問題は、一緒に考えていく必要がある」と言います。そんな田中さんの子育て術とは?
氏名:田中俊之(43歳)
居住地:東京都内
現在の職業:大学教員
家族構成・年齢:妻、長男 2歳8カ月
——最初に家族とキャリアについて。ここまでの人生は計画通り? それとも予想外のことが多かった?
少なくとも自分が大学生のときに、いまの家族もキャリアもイメージできなかったでしょう。とりわけ、仕事は想定外。まさか男性学の研究者になるとは思いもしませんでした。
大学で専攻していた社会学は、みんなが当たり前だと思う常識を疑う学問。周りの友だちが一斉に就活を始めたとき、「どうして定年まで働くことが普通なのか」と疑問に思い、突き詰めていった結果がいまにつながっています。
僕は競い合うことに向いていないし、やる気はあるけれど信念はないので、いまの仕事に就いていなかったら働いていないかも。
——家事と育児をパートナーとどのように分担している?
子どもが保育園に入れなかったので、妻の育児休業が長期化しています。幸い妻の会社は最長で3年まで育児休業をとれる制度があったので、キャリアを諦めずにすみました。
そのような事情もあり、子育てについては、家にいる妻の方がはるかに時間を費やしています。
ただ、僕も基本的には18時までに帰宅し、子どもをお風呂に入れたり、一緒に絵本を読んだり…。
育児経験のない男性からは、その程度のことしかやらないなら仕事をしていてもいいのではと言われたことも。
しかし、僕が子どもとお風呂に入れば妻は一人でゆっくり入浴できるし、二人で絵本を読んでいるあいだは自分の時間を持つこともできます。
この秋からやっと保育園に通えることになったので、いまより仕事を減らして、週1回月曜日は僕が家庭保育をする予定。土日も仕事は一切せず、家族の時間にしています。

——パートナーとの家計管理はどうしている?
妻の育児休業が長引いたこともあって、子どもが生まれてからは僕の給料から家賃、生活費、小遣いを出して管理しています。小遣いは妻が働いているときも育休中も、夫婦同額です。
——パートナー以外に、誰からどの程度育児を手伝ってもらっている?
僕の出張時には、母と義母に助けてもらいました。住んでいる区でベビーシッターの補助があったので、それを利用したこともあります。
——「これがないと生きられない」というガジェット・アプリ・チャート・ツールは?
iPhone、iPad、iMac、MacBook:Macに強いこだわりがあるわけではないけれど、余計な機能がないので使いやすい。
Podcastやラジオクラウドは息抜きに欠かせません。
とくに毎週楽しみにしているのが、Podcastの「髭男爵 ルネッサンスラジオ」(毎週月曜日更新)や「TENGA presents Midnight World Café 〜TENGA茶屋〜」(毎週土曜日放送、月曜更新)。
ラジオクラウドでは、尊敬する社会学者の宮台真司先生が出演されている「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(月〜金曜日 15:30ー17:46)を聞いています。
——子育てをするようになってから仕事のやり方は変わった?
自宅で仕事をしなくなりました。
正確には、できなくなった。子どもが生まれるまで、家は生活の場であり職場でもあったけれど、いまは完全に子ども中心の生活の場なので、仕事がなじまない。
なので、18時に帰宅後は、仕事は一切しません。日曜日に研究や執筆をすることもなくなりました。
何か仕事のやり方で工夫していることがあるのか聞かれるのですが、単純に仕事量を減らしただけ。
僕の場合は、生産性が上がったということはありません。むしろ子どもが生まれてから本の執筆はしていないので、社会的信頼や収入は減ったといえるかも。
不安はないのか? という人もいますが、僕はみんなが普通だと考えていることを斜めに見ているので気になりません。
——日々の息抜き方法、リラックス方法は?
Podcastとラジオクラウドのほかは、ジムに行くこと。
筋トレは自分を裏切らないし、これだけ努力と成果が比例することはなかなかない!
——親として一番誇らしく思う瞬間はどんなとき?
常に。この子の親であることは自分の誇り!
よく親が「うちの子は天才!」と勘違いしているという話があるけれど、僕は自分の子どもは対AI対策として生まれきた“人類最後の希望”だと思っています。
みんなが寝静まっているうちに、人類滅亡0.01秒前というタイミングでマザーコンピューターに塩水をぶっかけて、すでに世界を救っている可能性さえある(笑)。
——逆に、一番情けないと思う瞬間はどんなとき?
何があっても情けないと思う必要はないのでは?
できる限りのことをやっていれば、親は自分の育児に誇りを持つべき。
——子どもたちにはあなたのどんなところを見習って欲しい?
胸を張って見習って欲しいということが思いつかない。親よりも先の未来を生きるのだから、影響を受けすぎないことを期待しています。
——(現段階での)子育てのベストなコツは何?
子どもの様子は日々変化するから、これがベストな接し方という“決めつけ”をしないこと。体調や機嫌など、子どものことをよく観察して、その時々に適切な対応をすることではないでしょうか。
——(現段階で)子育てで一番難しいことは何?
自分の体調が悪かったり、疲れていたりすると子どもへの対応がおろそかになってしまう。でも、いつも元気で健康でいられるわけではないので、そこが難しい。
——1日のうちで一番好きな時間はいつ?
子どもと一緒に過ごす時間。
その日にあった出来事について、いろいろと話します。ときにはiPhoneやiPadで写真を見ながら、旅行の思い出話をすることも。
とくに教育的な効果は狙っていなかったけれど、どのくらい話が通じているか考えずに話しかけるからか、子どもはよくしゃべります。
——家族を持って、将来の夢やプランはどう変わった?
独身時代は夢やプランはとくになかったけれど、家族ができてからはどうやってみんなで楽しく過ごすかを考えるようになりました。

——子育てとキャリアを両立している(させたいと考えている)親御さんたちに伝えたいひと言は?
僕は、家族重視で仕事は二の次だけれど、それが誰にとっても正解だとは思いません。
そもそも独身時代から僕が仕事に熱心ではないことも関係しているし、理不尽な会社のルールや働くということに過度に抵抗するたちなので(笑)。
人がどうしているかではなく、自分と家族にとっての正解がそれぞれあるはずです。
——最後に親として、手渡したい子どもへのギフトは?
無条件に愛される資格があるということ。
つまり、自分という存在そのものが祝福されていることを理解してもらいたいです。
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取材・文: 佐々木彩子