少子高齢化が進む日本。10年後には、私たちの生きる社会も働き方も、今とは大きく変わっているはず。
貯金はどれだけあれば足りるのか、何歳まで働けばいいのか、そもそも今の仕事は10年後も存在するのか考えるほどに、不安な要素ばかりが頭に浮かび、なんだか怖くなります。
しかし、『未来の年表』(講談社現代新書)の著者である河合雅司さんは、「この先、どんな変化が起こるかをきちんと理解していれば、怖がる必要はない」と断言します。
将来に向けて、私たちが知っておくべきことや準備しておくべきことを伺いました。
河合さんは、変化の激しい時代を生き抜くヒントを具体的に教えてくれました。

河合雅司 ジャーナリスト
1963年、名古屋市生まれ。産経新聞社論説委員、高知大学客員教授、大正大学客員教授。専門は人口政策、社会保障政策。中央大学卒業。現在、内閣府有識者会議委員、厚労省検討会委員、農水省第三者委員会委員、日本医師会「赤ひげ大賞」選考委員なども務める。内閣官房有識者会議委員、拓殖大学客員教授などを歴任。2014年に「ファイザー医学記事賞」大賞を受賞。主な著書に、50万部を突破したベストセラー『未来の年表』(講談社現代新書)、18万部突破の『未来の年表2』(同)、『未来の呪縛』(中公新書ラクレ)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮社新潮選書)などがある。
人口減少は止められない。だったら「戦略的に」縮め

――これからの日本は少子高齢化が進み、人口が減少していく…そんなマイナスな話ばかりが耳に入ってきて、不安に。この先、日本はどうなっていく?
河合雅司(以下、河合):現在でも、街中や電車の中で、高齢者が多いと感じませんか?
ここからの日本は、もっともっと少子高齢化が進んでいきます。2024年には全国民の3人に1人が65歳以上になります。「そんなことはもう知っているよ」と思われるかもしれません。でも、どれだけの人がその数字が意味するところを正しく理解しているでしょうか。
例えば、宅配について想像してください。今はクリック1つで翌日には欲しいものが届く時代です。しかし、10年後、20年後、荷物を運ぶ若い人はどれだけいるでしょうか。
また、人の移動も大変になるでしょう。東京などの大都市では現在、5分を待たない間隔で電車が動いています。それが可能なのは、まだ大半が若者だからです。大半が高齢者となった社会では、スムーズに電車の乗り降りはできなくなり、現在のような短い間隔での運行は難しくなるかもしれません。
自治体の職員なども不足します。何でも役所に頼むのではなく、地域活動など、できることは自分たちでやっていかなくてはならない社会になります。
これまでの日本は便利さを追求し、効率化が進んできました。
でも、そのような社会のつくりや価値観がこの先も成り立つとは考えにくいでしょう。これからはきっと、「スローな」社会、弱者に手を差し伸べることにこそ価値が出るような社会に変わっていくのだと思います。
――超高齢化社会に、大きく社会が変わっていく時代に、私たちがまずすべきことは?
河合:まずは、この状況を正しく認識することが大切です。
国のホームページには、各エリア別、年齢別の人口推計が発表されていますので、一度見てみてください。 残念ながら、人口の減少を止めることはできません。だったら「戦略的に縮む」しかないと私は考えています。
変化に合わせて、どのような社会にしていくのか、方向性を決めて計画性を持って縮んでいくということです。そのやり方次第では、日本はまだまだ成長できますし、個人が豊かになることもできると思っています。
60歳を過ぎてももちろん現役、世の中の役に立つために

――ビジネス面では、どんな変化が起こる?
河合:例えば、飲料メーカーの場合を考えてみましょう。
現在主流の500mlや2リットル入りのペットボトルは、高齢者にも最適な重さでしょうか。また、キャップは高齢者でも無理なく開けられるでしょうか。牛乳パックも、今の形のままでは開けるのが困難かもしれません。このように、商品を根底から考え直さなくてはなりません。
これまでの日本は、大量生産・大量販売のビジネスモデルで成功してきました。しかし、ここからは、少量品種・少量販売のビジネスモデルに転換し、付加価値を上げることが日本の成長する鍵になると思います。
日本より人口の少ないヨーロッパの国々が豊かな社会を築けているのは、それぞれに革製品や布地、チーズなど付加価値の高いブランドを持っているからです。
新幹線や車の部品を作っていた中小企業があるとしましょう。同じ職人さんが、同じ機械と技術を使いながら、もっと高く売れる部品やこだわりの製品づくりに転じたならば、付加価値は高くなり、生産性が向上します。
どうやって自分の技術力を高く売っていくのか、知恵を絞らなくてはなりません。
――ビジネスパーソンに求められるこれまでとは違ったスキルとは?
河合:まず意識してほしいのは、皆さんの先輩である今の40代後半や50代の人たちの成功モデルは、もう自分たちには当てはまらないということです。
これまでは、効率的に業務をこなしパフォーマンスを発揮できる人が有能だと評価されてきたけれど、これからの時代に合った新しい価値を生み出すことが求められていくのです。
モデルがないのだから、自分たちで考えるしかありません。
今の30代、40代の人には、どうやって学び直していくのかがすごく問われます。この国の豊かさ、成長分野を伸ばしていくために、今持っている強みや技能を磨いていかなければなりません。
一つの産業が成長力を持つ時期は、おそらくこれまでよりも短くなります。
――産業の命はどんどん短くなるけれど、働く年数は長くなる…。どんな風に働くのが良い?
河合:今の30代、40代も、いずれ高齢者になっていきます。
その時代には、さらに若い人たちが減少しています。だから、せめて60代後半くらいまでは社会の第一線で頑張らなければ、この国は成り立ちません。
引退するのは簡単ですが、それは貧しい社会に生きる高齢者として自分がいることになりかねません。働いて得る収入と年金の両方で生活を成り立たせていくライフプランを考える必要があります。
今のうちから、どうやって世の中に役に立つ自分であり続けるかを考えておきましょう。30代のときは役に立っていたけれど、60歳になったら役に立たないというのでは困ります。
そのためにも、自己投資を惜しんではなりません。新しい発想を得るために、自分と違う分野の人たちとコミュニケーションを図り、常に学び直し、経験を積んでください。40年、50年働くということは、何度も何度もチャレンジし続けるということなのです。
縛られない身軽な暮らしで変化に備える
――プライベートはどう変わる? 結婚して家庭をつくり、家を買い、車を所有するというような従来の価値観は変わっていくの?
河合:不動産については、人口が減少していくためにどうしても供給過剰になるでしょう。
もちろん、築年数や立地にもよるのですべてとは言いませんが、不動産そのものが今までのような価値を持つことは、おそらくないだろうと思っています。
だから、家に縛られるような暮らし方や人生設計はあまり成り立ち得ないんですね。
社会の変化に自分たちが合わせていこうと思うのであれば、なるべく身軽な暮らしぶりというのを考えていったほうがいいでしょう。
もちろん、今までと同様に家や車を持ち、一つの場所でずっと暮らす人も残ります。ただ、今まで「大半の人がそうしていた」から、これからは「そういう暮らし方の人もいる」というぐらいに社会が変わっていくと思います。
未来を担う子どもたち、ミレニアル世代に伝えたいこと

――子どもたちには、どのような教育が必要?
河合:世界に通用するためには語学が必要と言われますが、語学は、これからAIが補ってくれるようになると思います。
むしろ私は、原点に立ち返り、「日本および日本人を知る」教育をしていくことが大事だと思います。日本人の良さ、強み、ポテンシャルはどこあるのか。日本人が持つ伝統は何で、何を見て美しいと感じ、どんなことを得意とするのか。
今よりもっと海外と接していくことになる子どもたちです。海外の人に「あなたは何者ですか?」「何ができますか?」と聞かれたときに、答えられることが求められるでしょう。
相手が困っていることに対して、「自分たちにはこれができる」とプレゼンができる。これがビジネスにもつながるはずです。
――これから変化の時代を担っていく20代、30代の人々に一番伝えたいことは?
河合:「ピンチはチャンス」という言葉がありますが、これはなかなかそうならないこともあります。ただ、絶対に言えるのは、「変化はチャンス」だということです。変化があるところには、必ずチャンスがあります。
そこにどんなニーズが生まれてくるのか、変化の先を早く自分なりに見据えることが大切です。
社会が上り調子で誰もが成功していた時代、あるいはそこで安定していた時代というのは、実はチャンスは少なかったのです。しかし、これからは誰もがどう変化するか予想しきれないほど、人口動態が大きく変わっていきます。
それは、まだ誰もやったことないことに挑戦して名前を残せるような成功を掴める、ものすごく大きなチャンスですよね。
そして、自分の生涯をかけて、社会の激変に伴う課題を解決し、この国をさらに豊かにして、それを次の世代につなげていく。そんな生き様もまたダイナミックなものだと思います。
私は、子どもの頃から「人と同じことはしない」ということを意識してきました。小さな頃は体が弱く、病気がちで、特別勉強ができたわけでもなかったので、その中で自分自身の存在価値を出すのに、一番簡単な方法だったのです。
人と同じことをしていても、なかなかチャンスはつかめません。 つまり、
- 過去の成功パターン、これまでの価値観を否定し続ける。
- 社会の変化に対応するために、自分に投資し鍛え続ける。
- 人とは違う視点・発想を持ち、人がやらないことをする。
これらを意識することで、若い皆さんの未来は明るいものに変えていけると確信しています。
ぜひ、意識変革のための小さな一歩を踏み出してみてください。
――河合さん、ありがとうございました。
決して未来はネガティブな世界ではない。自分なりのライフプランを描いて新しいことに挑戦していく。
まずは、本当に必要とされているものはなんだろう? と考えてみることから、明るい未来は拓けていくのかもしれません。
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取材・文:尾越まりえ
企画・編集・写真: ライフハッカー[日本版]編集部 丸山美沙