ハリウッドの大物映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタイン氏が長年にわたりハリウッド女優たちに性的行為を強要してきたことがニューヨークタイムズで公表されたことがきっかけとなり、アメリカではさまざまなセクハラ問題が一気に噴出しています

<div style="border-style: solid ; border-width: 1px;padding: 20px 20px 20px 20px;">米女優のアリッサ・ミラノさんが、これまで声をあげることができずにいたハラスメント被害者に「#Me Too」と書き込んで欲しいと呼びかけたSNSハッシュタグのムーブメントは、アメリカだけでなく世界中に波及。日本でも、作家でブロガーのはあちゅうさんの告発が話題となり、問題意識は高まりを見せています。</div>

エンターテイメント業界、ジャーナリズム業界、政界に至るまで多数の有名人がセクハラや暴行で訴えられており、アメリカ第41代大統領のジョージ・H・W・ブッシュ氏やノーベル平和賞受賞作家のエリ・ヴィーゼル氏など、人々の人気や尊敬を集めていた人物までがやり玉にあがっています。

しかし、少なくとも世の半数を占める女性にしてみれば、これは特に驚くような話ではありません。人生で一度もセクハラを受けたことがない女性はひとりもいないと思うからです。むしろ、加害者である男性たちがはっきりした形で責任を負わされるようになったことのほうが驚きです。今や、彼らが携わったTV番組は放送中止になり、雑誌は廃刊され、映画のプレミアはキャンセルされるという事態になりました。問題はこの状態がどのぐらい続くかです。少なくとも、このうちの何人かは2、3年後には復帰するでしょうから。

卑劣な男性の被害にあった女性たちの話で、最も私の心に残ったのは、上司や同僚の求めに応じたにもかかわらず、ハリウッド女優として成功することも、ジャーナリズム界でスターになることもできなかった女性たちの話です。職場で女性にハラスメントをした男性たちは何の罰も受けず、被害者の女性たちは、泣き寝入りして悔し涙にくれた人もいれば、転職したり、意欲を喪失してその業界を完全に離れてしまった人もいます。

米国の公共放送ネットワークNational Public Radio (NPR)の元編集長マイケル・オレスクス氏にハラスメントされたある女性は、この不快なできごとの結果「彼に私の野心を完全に打ち砕かれたこと」が最悪だったとニュース解説メディアVoxに語っています。

どこからセクハラになるのか

私は20代後半に、この先ずっとフリーランサーでやっていこうと決めました。人に理由を聞かれると、厭世的な性格だしオフィス勤務が嫌いだからと答えてきましたが、本音を言えば、若い女性が社内権力のある年配の男性たちから支配されるという組織の力学に服従したくなかったからでもあります。

私が仕事を始めた頃のメディア業界は男性支配的で、外見や性的誘いに応じそうなタイプかどうかなど、女性同僚について男性同士で臆面もなく話していました。誰も露骨なことはしない職場という場所においてさえ、セクハラと「単なる男同士の軽口」との違いを見極めるのは困難なことが多々あります

以来、私は自分でそれなりのキャリアを築いてきました。私が仕事で関わる相手の大部分が女性であることは決して偶然ではありません。

一方で、この業界で男性ともっとじょうずに交渉できていたら、今頃私の人生はどうなっていたのかなと思うことがあります。この業界では、仕事をやめようかと考えたり、完全に業界を去ってしまう女性がたくさんいます。たとえば、Rebecca TraisterさんはThe Cutで「出版業界で男性たちに士気をくじかれ、ペンシルべニア州の住宅リノベーション業という全くの別業界に転職した女性の話」を語っています。

私は、キャリアの初期に遭遇したセクハラはすべて笑い飛ばしてきました。お尻をわしづかみにされたり、汚いジョークを飛ばされたり、女性の能力に関してネガティブなことをあからさまに言われたりしました。でも、そもそも「笑い飛ばす」こと自体が一種のごまかしです。「大したことじゃないわ」と他人に対して見せかけ、自分自身にもそう言い聞かせているのです。でも、そんなことをしていたら、20年後にはペンシルべニア州の片田舎の住宅リノベに従事していて、自分には別の夢があったことなんかほとんど忘れてしまっているでしょう。

いったい、これはセクハラなのか。性差別なのか。それとも単に自分に同僚とうまくやっていく能力がないだけなのか

ハラスメントに遭遇している人は、そんな堂々巡りにはまって自分自身にも自分の能力にも自信を失ってしまいます。ですから、私は「セクハラらしきことを目撃したとき、どうやってそれがセクハラだと認識したらいいのだろう」と自問しています。男性と接しているときに、不適切だったり恫喝的なやり取りが発生した場合には「これは本当に起こったことなの?」と必ず自分に問いかける瞬間があります。単なる悪い冗談やお門違いの言葉なのか、目的は何なのか、性差別なのか、いったいどのように判断したら良いのでしょうか

法律の現状

Zuckerman法律事務所で雇用問題専門弁護士としてセクハラや差別に関する案件を扱うEric Bachman氏が、次のようなメールを書いています。

最近セクハラとして報告される事案は、社会的地位のある人たちの暴力行為(性的暴力や暴行など)が増えています。しかし、もっと一般的なタイプのハラスメントが国中の職場で行われています。ハリウッドのように衆目を集める見出しがつくこともなく、明白にセクハラだと断定しにくいものが多いのですが、そうした微妙なかたちの差別も、1964年の民間人権法第7条とその他の法律に則して、違法とされる可能性があります。

しかし、法律は決して職場の公平性を保証するものではなく、裁判所はあくまでも「通常の人」の基準を適用するとBachman氏は強調します。

通常の人が被害に遭った社員の立場に立ってみたときに、それが人を傷つける行為てあると感じるなら、その社員は自分が受けたハラスメントが違法であったことを証明できるでしょう。現実には、敵対的な職場環境に関する訴えを査定する方法は裁判所によって異なり、ハラスメントが単なる不快な行為か、それとも違法行為に至っているかどうかを正確に数字で測定するテストは存在しません

それでは、この「明確にセクハラと断定できない」けれどセクハラと見なさる可能性のある行為とはどのような行為でしょうか。必ずしもセックスに関することに限定されません。

たとえば「女性にはこういう仕事はできない」のように、その人の性別に関連する一般的なコメントも該当する可能性があります。もし周囲の同僚が女性に関する下品なジョークを飛ばしていれば、直接そのジョークで貶められた本人でなくても、セクハラとして訴えることができます。

米ニューヨークのOutten&Gold法律事務所パートナーで雇用問題専門弁護士Kathleen Peratis氏はこう言います。

違法性が認められるには、行為が悪質であるか周囲に悪影響を及ぼす性質である必要があります。ワインスタインやコメディアンLouis C.K.のケースは「悪質」なケースに該当しますし、職場で上司が見返りをちらつかせながらしつこく迫る古典的なケースも同様です。

しかし、性差別的な冗談や冷笑、職場のPCで同僚から「偶然」ポルノを見せられるなど、環境に微妙に悪影響を及ぼす行為は「じわじわと影響を及ぼす」性質だと彼女は言います。

そういう振る舞いは周囲への悪影響を広げる性質がありますが、文脈を無視して切り取ってみるとまったく性的なことでない場合もあります。例えば、あなたがどんなデートをしているかやたらと興味を示してくる同僚のせいで、仕事の能力を発揮する妨げになっていると「あなた」が思えば、「たとえ性的なコメントをしていなくても」それはハラスメントになります。

こうした微妙な行為をハラスメントと立証することは必ずしも容易ではありません。 Bachman氏は、ある社員が「敵対的な職場環境」で働いていることを証明するためには次のような事実が必要だと述べています。

・ 彼女は不愉快な嫌がらせを受けた。

・ 嫌がらせはセックスに関するものだった。

・ その嫌がらせのせいで、不当に彼女の勤務実績が悪くなった。

・ 雇用主は、そのハラスメントが行われていることを知っていたにも関わらず、是正措置を講じなかった。

シリコンバレーのベンチャーキャピタル企業Kleiner Perkins Caufield&ByersのジュニアパートナーだったEllen Pao氏は、2015年に差別に対する訴訟を起こして裁判になりました。The New Yorkerによると、Pao氏はKleiner Perkins社が「性差別的環境を公然と作り出し、彼女のキャリアに傷をつけた」と主張しました。

彼女の訴えは、ある男性社員が女性社員たちにハラスメントをしたこと、一例をあげるとバスローブ1枚まとっただけの姿で、女性社員に言い寄ったりしたということです(いったいどういう状況なんでしょうか)。この男性とごく短い間男女関係にあったPao氏は、2人の関係が終わったのでその男性が報復行動に出たとのだと主張しています。結局、彼女は敗訴しました。

しかし勝訴の例もあります。たとえば「男性社員の誕生日には地下室でストリッパーを呼んでお祝いしていた」という件で23人の女性社員が1996年にSmith Barney社に対して訴訟を起こした、悪名高い「ブーム・ブーム・ルーム」事件です。同社は最終的に1億5000万ドルの罰金を支払いました。

自分を信じて、改善のために働きかける

性差別的なジョークを飛ばしたり、かつて男女関係にあった上司からバスローブで迫られるといった、セクハラかどうかの判断が明確にしにくいケースの事例リストがあったとしても、訴訟を起こすに足るケースかどうか判断するのは難しいことです。しかし、女性は自分の本能を信じて行動すべきだとBachman氏は言います。

セクハラに耐えている女性たちが次々に声を上げるようになってきました。あなたに対する上司や同僚の態度に常に不快を感じているのなら、あなたは有毒な職場環境にいる可能性があります

たとえそれが違法なレベルにまで達していないとしても、社員はこのような振る舞いに対して泣き寝入りすべきではありません。信頼できる責任者がいるなら、社員は懸念事項について話し合うことで、建設的な変化に結びつけていけるかもしれません。

でなければ、弁護士に相談して、何らかのアクションを取るべきか決めることもできます。Bachman氏もPeratis氏も数の力を指摘しています。一緒に声を上げてくれる女性の数が増えるほど、勝算は高くなります。一方で、訴訟を起こすと精神的にも経済的にも職業的にも大変な負担がかかります。人事部に訴えに行くだけでも辛いことです。

個々の断片でなく総合的に判断する

Peratis氏は、この敵対的環境をひとつひとつの出来事で分析しようとすると、訴えは簡単に論破されてしまうと言います。

被告側は「この事柄に関してはそれほど酷いことではありません」とか「この事柄に関してはどうしてそうなったか説明できます」とか「この事柄に関しては実際にはそんなふうには起こっていません」などと釈明するでしょう。ひとつひとつの事柄だけ見れば、何も違法性はないように見えます。

でも、「環境」という総合的な見方をすると、悪意や誹謗中傷に浸食された環境であることが見て取れます。そのせいで貶められた女性にとって、他の同僚たちに比べて働きにくい環境になっていたのです。自分がハラスメントを受けているかどうか確信が持てないときは「この敵対的環境のせいで、私は他の人たちより働きにくくなっていないかしら」と自分に問いかけてみましょう。

職場では、ハラスメントかどうか判断しにくい微妙なことがよくあります。あなたは会議で意見を発表するときやカンファレンスで同僚と交流するとき、男性同僚に比べてやりにくさを感じていませんか。男性同僚はボディタッチされたり不快な性的ジョークを我慢していないはずです。

ハラスメントかどうかは、自分でもなかなかはっきり認識できないので「何となく居心地が悪いわ」と言って受け流してしまいたくなります。「#MeToo」のムーブメントが後押ししてくれているからといって、躊躇する人も多いでしょう。しかし、今日この記事を読んで得た知識は、今後忘れずに役立てていきましょう。Bachman氏も言うように「声を上げる人が多いほど、事態は改善されるのです」 。

Image: Angelica Alzona

Source: Vox, The Cut, The New Yorker

Reference: The New York Times

Leigh Anderson - Lifehacker US[原文