料理研究家として50冊以上の著書を持つ行正り香さん。
インテリアやアートにも造詣が深く、関連書籍も人気。そして満を持して4月に出版した『ビリからはじめる英語術』(新泉社)は英語学習本の上位にランキングされるほど話題を集めています。
なぜ料理研究家が英語の本を?
「なぜ料理研究家が英語の本を?」と疑問に思っていたところ、テレビでは行正さんが流ちょうな英語を話しながら料理番組を進行しているのに遭遇。さらに英語学習アプリも開発したのだとか…。 他にもレストラン経営や会社社長というさまざまな顔を持つ行正さんに、書籍『ビリからはじめる英語術』にまとめられた英語学習法や、日々マルチタスクをこなす方法を伺うべく、ご自宅を訪ねました。

行正り香さん
1966年、福岡県生まれ。料理研究家であり、アクティブラーニング教材「カラオケEnglish」、キッズ無料サイト「なるほど!エージェント」、料理アプリ「今夜の献立、どうしよう?」などを手がける株式会社REKIDS代表。
高校時代はビリであったが、高校3年の留学をきっかけにカリフォルニアの短大に入学し、カリフォルニア大学バークレー校に編入。同校政治学科卒。帰国後は広告代理店でCMプロデューサーとして仕事をしながら、在職中に料理本を出版し、現在までに著書は50冊以上。中国語版、韓国語版にも翻訳されている。2011年よりNHKワールドの英語料理番組「Dining with the Chef」に出演中。新橋でステーキハウス「FOOD/DAYS(フードデイズ)」も運営している。
高校時代「ビリ」だった行正さんが「ペラペラ」になれたわけ
――著書『ビリからはじめる英語術』出版の経緯は?
タイトルにある「ビリ」とは私のことです。高校時代、居眠りばかりして成績が悪く、ある日担任の先生に母が呼び出されて「今のままでは進学は難しい」と告げられました。しかし、意外だったのがそれを聞いた母の言葉です。「先生は、大学に行くだけが幸せだと思っているんですか。私はそうは思いません」。このひと言で私の人生は一変しました。
翌朝、父には「高校を出て働きなさい」と手に職をつけることをすすめられました。とはいえ私には得意なことがありません。「英語の発音はマシだと言われたことがある」と話したら、「じゃあそれで行け」と(笑)。
こんな冗談のようなやり取りがきっかけで、近所の子どもに教えられるぐらいの英語力を身につけるために、私は高校卒業を待たずして、半ば職業訓練のように留学しました。
ビリからのスタートだった留学時代はとても苦労しました。でも、独学で英語を覚えるなかで得た気づきを本にしたいと思ったとき、私がビリでネイティブではなかったことがかえってよかったなと思ったんです。ネイティブではどうして英語が話せないかがわかりませんし、専門家では「学問」になってしまうからです。

娘たちが大きくなり、英語を学ばせるために探してもなかなかいい教材が見つからなかったので、3年かけて「カラオケEnglish」という英語学習アプリを作りました。その考え方を体系化したのがこの本です。
――「料理研究家がなぜ英語学習本を?」と思う人は多いのではないでしょうか。
留学時代、とにかくお金がなかったんです。それでも私が大学に進学できたのは「学費も生活費も面倒を見るから、その代わりに家族みんなの食事を作るように」とホストファミリーのお父さんが言ってくれたおかげ。
料理なんてしたことがなかったので戸惑いましたが、自分なりに工夫して作った料理をみんなが褒めてくれるのはうれしかったですね。帰国して広告代理店に勤めながら料理の本を出し、やがて料理研究家として独立しました。
私は料理よりもレシピを書くほうが好き。レシピに必要なのは材料や量だけでなく、忙しく働く女性たちがどうやれば料理のポイントを押さえ、うまく手間を省いておいしい料理を作れるかということ。
そんな「インストラクションマニュアル」を書くのが私は得意なんです。料理の学び方と英語の学び方はつくづく似ていると思います。
ポイントをおさえて工夫し、必要な手順さえ省かなければ、おいしい料理はできる。
英語も同じで、だしを取らなくてもだしを取ったようにおいしくできるよって伝えたい。そういう意味では、私の英語は主婦の料理に近いと言えるかもしれません。
「日本人が英語が話せないのは文法のせい」って本当?

――行正さん流の英語学習法が、他と違うユニークなところは?
ペンも、高いレッスン料もいらない。ただ中学文法レベルの英語を徹底的に声に出して覚えようというところです。
英語学習アプリの開発に際し、日本の英語教育についてはいろいろ調べました。
意外にも教科書も進め方も日本人にあうようにしっかり作られているんです。それなのに話せるようにならないのは、文法を「知識」として学んでしまい、習った文法に基づいて『使う』ことを教わっていないから。
中学文法は英語の土台を担う大切なものなのに、中学一年生の一年間で習うカリキュラムが多すぎて大変。これではなかなか身につかないのでは?と思ってしまいます。
大切なのは、同じフレーズを何度も繰り返し「英語耳」を作ること
――なぜ、音読が必要なのですか?
「音読」が大切な理由は、英語を発するのに必要な口の周りの筋肉が鍛えられるからです。
ピアノを弾けるようになりたいなら、まずは「ハノン」(指を動かすための練習本)で指の動かし方を繰り返し学ばなければ、ショパンが弾けるようにならないのと同じ。
音読は、発音のチェックにもつながりますし、声を出すことに恥ずかしさを感じなくなってきます。アプリ(カラオケEnglish)でも声に出す練習を壁打ちのように繰り返して、それを録音して聞いてみて、うまく言えなければやりなおすということを繰り返して学習できるようにしています。
声に出して読みたい中学レベルの例文が載った教材を探すなら、やはり中学の英語の教科書がいいと思います。
そして、大切なのは同じフレーズを何度も繰り返すこと。料理に例えるとパスタが上手になりたいと思ったら、毎日違うメニューを作るより、トマトソースならそれを繰り返して作るほうが上手になる、それと同じです。
まずは3カ月、発音(本では必須な9つの発音が紹介されている)に気をつけて音読を続けると「英語耳」ができて、英語を学ぶ入り口に立てると思います。
学びはエンタテイメント、もっと楽しく続けられる
――英語を楽しく続けるコツはありますか?
ビジネスマンにとって、英語が「できなければいけないもの」「勉強しなければいけないもの」という、ちょっと厄介な存在になっているのであればもったいない。私はこの本を「豊かな人生を送りたい」と願う人に読んでほしいと思っています。
TOEICやTOEFLの点数を上げることも確かに大切なことかもしれませんが、それだけではつまらないでしょう? 英語はいろんな可能性を持っています。英語ができると海外旅行も快適に、得られる情報も増えてマーケットも広がります。そして何より楽しいですから。
「英語はいろんな世界へ連れていってくれる靴で、自分の人生を豊かにしてくれる」というイメージを持ったら、時々お休みしてもいいから、とにかく続けてみるといいと思います。私も未だに毎日英語の音読レッスンはしていますよ。
私にとって、学びはエンターテインメント。楽しまなきゃ。知らないことを知ったら得した気持ちになりますし、答えを知るとパズルが解けたみたいでうれしくなります。
たとえば、「どうしてパスタは塩を入れてゆでるんだろう?」っていうぐらい小さなことでも、毎日の暮らしにもちょっとした学びを見つけることで、若々しくいられたらいいなって思っています(笑)。
マルチタスクは、優先順位をつけて上手にトレードオフする

――さまざまな顔を持つ行正さんが、マルチタスクをこなす秘訣は?
物事に優先順位をつけることですね。
私は1日のなかで重要度の高いことを3つほど選んでトレードオフしています。1日スパンだけでなく、1週間、1カ月間、1年間でも考えていますよ。
それから「逆算」も大切ですね。私の場合は18時にワインを開けることを楽しみに日々を送っているので(笑)、その時間に仕事を済ませるためにはどうしたらいいかを考えて進めます。
人生にも優先順位をつけて、健康で長生きするために、歳を重ねてもおいしいワインとおいしいごはんを楽しめるように、ヘルシーなものを食べたり二日酔いを反省したりしています(笑)。
Education can’t undo〜教育は元通りにすることができない〜
――ご両親は、行正さんに英語を学ばせてよかったと思っているでしょうね。
とても喜んでくれています。両親の教育のおかげで落ちこぼれだった私の人生は変わりました。留学時代、ホストファミリーのお母さんから言われて素晴らしいなと思った言葉が「Education can’t undo」、つまり教育は元通りにすることができないという言葉。深いでしょう?
正しい教育を定義するのは難しいですし、ご家庭ごとに方針は違いますから一概には言えません。だから、私はいつも教育をデザインするという感覚を持っていてあげたいなと思っています。重要度が高いものを決めたら、他のことはできなくてもあきらめてもいい。
我が家の場合、将来のために子どもに身につけてほしいのは英語とITリテラシー。お金や宝石といった財産ではなく、その2つをギフトとして娘たちに残せたらと思っています。
<読者プレゼント>
行正り香さんより、英語もインテリアも学べるセミナーへ無料ご招待!
2018年8月5日(日)14〜16時<13時45分受付>に新宿・リビングデザインセンターOZONE 5階 セミナールームで開催される行正さんのセミナー「英語を学んで、インテリアも学ぼう!」に10名様を無料ご招待します。
セミナーの内容は、行正さんが開発した英語学習アプリ「カラオケEnglish」の学び方や、アプリを素敵に彩るイラストの大切な要素となっている家やインテリアについて。1時間は座学、その後は学んだことを確かめつつリビングデザインセンターOZONE内を実際に歩きながら、素材や家具について行正さんが語ります。英語を学びたい人、インテリアが好きな人、その両方に興味がある人にはまたとない機会です。
【応募方法】締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました。
※ご記入いただいた個人情報は、当日の受付に必要になるため、株式会社REKIDSに共有いたします。
※当選者の方にはメールでご連絡いたします。
【応募締切】締め切りました。
撮影: 中山実華