前回の記事でスウェーデン人の夏休みの取り方について取り上げました。 スウェーデン人は年間5~6週間の有給休暇の大半を夏にあてて夏休みとするのが一般的。男性が数カ月もの間、育児休暇を取ることもしばしばあります。平日の昼間にベビーカーを押す父親の姿はまったくもって珍しい光景ではありません。

では、具体的に彼らがどんな風に育児休暇を取得しているのか、実際に育児休暇真最中の友人を訪ねてきました。

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友人のNiclas Peterssonと長女。彼の弟と私は日本にいたとき職場の同僚だったため、彼ともスウェーデンに移住する前から面識があった。移住当初からいろいろとお世話になっており、付き合いはかれこれ5~6年になる。
Photo: 吉澤智哉

友人のNiclas Petersson(40)は一児(長女1歳2か月)の父。職業は数学博士で、研究機関に勤務しています。今年の7月から12月まで6カ月間を育児休暇としているそう。

どれぐらいの期間育児休暇を取るのか、それはどうやって決めるのか?

まず、スウェーデンでは子どもが生まれると、父母で合わせて480日分の育児休暇が与えられます。

参考:スウェーデンの会社員が6週間の夏休みを取っても企業が倒産しない理由

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Image: 吉澤智哉

育児休暇手当は社会保険庁より支払われるのですが、給付金の割合と休暇日数の減り方に関係性があります。例えば、1日当たりの給付金を満額受け取る場合ですと休暇は1日分減り、手当てを半額にすると半日だけ減ります。つまり、太く短く使うのか、細く長く使うのかを個人で選択できるようになっています。

また、育児休暇は子どもが8歳になるまで使えるので、子どもが学校に行く年になったときの夏休みなどに備えて、いくらか残しておくのも一般的。少々制度がややこしいかもしれませんが、私の周りの男性の同僚や友人を見渡すと、有給休暇もつなげて4~6カ月ほどの人が多い印象です。

スウェーデンの夫婦やカップルがそれぞれの収入をふまえ、毎月どれだけの給付金をもらえば生活していけるかを考慮し、双方の育児休暇取得日数を決めます。多くの夫婦・カップルは、まず母親がおよそ1年間の育児休暇を取得し、子どもが歩けるぐらいになった頃から父親へバトンタッチします。国も男性の育児休暇取得をバックアップしており、最低90日取得することが事実上の義務となっています(片方の親が最低90日取らないと、単にその90日が消滅してしまうルール)。

また、給付額が100%といっても所得に上限があるので、割と稼いでいる人は普段通りの収入は得られません。そのため、育児休暇中はちょっとだけ財布の紐が固くなります。

しかし、スウェーデン人はお金よりも子どもとの時間をはるかに大切にしており子どもと過ごすためならギリギリまで生活水準を落とすことはよくある話です。例えば私を雇った元上司は1年の育児休暇中。とはいえ、彼の場合はお金には困っていないと思われますが。

何はともあれ、スウェーデンでは各家庭の考え方や収入に沿って自由に育児休暇期間を設定できます。また、時短勤務もかなり浸透しており、私の勤める会社でもそこかしこにそういった社員を見かけます。とにかく、お金よりも子どもと過ごす時間を何よりも優先しています。

休暇中に毎日何をするのか

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一概には言えないが、スウェーデンの男性は子どもと遊ぶのが上手な人が多い印象。やはり育児休暇を経験しているのとそうでないのとではその後の子どもとの接し方もだいぶ変わってくるのかもしれない。
Photo: 吉澤智哉

育児休暇中の過ごし方は各家庭で様々なわけですが、友人の場合はいつも7時前後に起床し、朝ごはんを終えたら着替えをして9時頃に外出をします。たいていは児童館へ行くそうですが、毎週水曜は徒歩圏内の森の集まりへ参加し、自然と触れ合います。帰宅後、昼寝、昼食をしたら再度外出。家の周りの森や近所をお散歩したりします。彼の場合は「一日最低3時間は外出をする」という独自のルールを設けているそうです。

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自宅バルコニーから眺める景色。ストックホルム中心部へは30分ほどで通勤できる距離だが湖と森が溢れる環境で子育てを楽しんでいる。子どもがいない頃はさらに都心のアパートに住んでいた。スウェーデンでは子どもができると引越すのが割と一般的。
photo: 吉澤直哉

ちなみに、スウェーデンでは育児休暇中の男性がそこかしこにいるので、同じタイミングで育児休暇を取っている近所のパパ友がすぐにできます。互いの家を行き来したり、どこかへ一緒に出掛けたり、父親同士で工夫し、時には励まし合って育児休暇を楽しんでいます。

私も何度か長女を連れて児童館へ行ったことがありますが、常に男性が一定の割合存在します。児童館に父親がいないということは、まずありませんでした。

この点は、父親が育児休暇を取るうえで日本とは大きく異なる点だと言えます。私が日本にいた頃、平日に何度か長女を児童館へ連れて行った時は“紅一点”の存在で、特に子どもたちから珍しがられたのを覚えています。子どもによっては「パパ~!」と呼んでくる子もおり、少々困惑した記憶もあります。

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スウェーデンではキッチンに男性が立っているのをやたらと目にする。料理好きの男性も多い印象。
Photo: 吉澤智哉

話を友人に戻します。友人が特に気を使っていることといえば、妻の帰宅時だそうです。妻の帰宅と同時に子どもが妻にベッタリとなってしまい、身動きが取れなくなるとのこと。ですから暑い日など、友人の妻は帰宅後にまずはシャワーを浴びたいので、帰宅直前に夫へメールを送っておき、玄関の扉をそーっと開けてこっそりシャワーを浴びて準備を整えてから子どもの前に登場するそう。男女平等社会が進んでいるスウェーデンといえど、やはり子どもからすれば母親が一番のようです。

最後に

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筆者と友人。彼と私は、湖や海の上を滑るスケートの共通の趣味があり、この冬は頻繁に会うことになるだろう。
Photo: 吉澤智哉

子育てに寛容な社会と言われるスウェーデンでも、育児休暇に関するルールは変わり続けています。政府としては、男女が完全に平等となっているとはまだまだ言い切れないようで、この制度は随時変わっていくことでしょう。

私も来年の夏頃、次女が1歳になるころに3~4カ月の育児休暇を予定しています。そこで新たに感じることがあるはずなので、この記事の続編としてお伝えできればと思います。

吉澤智哉(よしざわ・ともや) | Blog | Facebook |

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東京都出身ストックホルム在住。妻と4歳の長女、生後6カ月の次女と暮らす36歳。2016年3月より、スウェーデンの自動車部品メーカー Öhlins Racing ABにて研究開発業務に携わる。

12~14歳は米国オハイオ州で過ごす。日本大学理工学部機械工学科を卒業後、(株)本田技術研究所及び(株)ホンダレーシングにてオートバイの車体設計に9年間従事。娘の誕生をきっかけに、ワークライフバランス向上を目指し32歳でBMW Japanへ転職、品質エンジニアとして2年間勤めた後に更なる家族の幸せを求めスウェーデンへの移住を決意。

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