スポーツ選手からはトレーニングのコツや極限におけるメンタルの切り替え、仕事や生活の質の向上や効率化など、我々の生活にも役立つさまざまなノウハウを学ぶことができます。
そこで今回は、さまざまなスポーツジャンルが存在する中で、「esports(eスポーツ)」という新しいスポーツムーブメントで活躍するプロ選手ならではのテクニックをお聞きするべく、社会人でありながらプロesports選手という2つの顔を持つネモ選手にインタビューを行ないました。
esportsとは?
esportsはビデオゲームをスポーツ・競技として捉えた「エレクトロニック・スポーツ」のこと。ゲームの中でも勝敗を競う一部のゲームジャンルは、勝ち抜くために高い戦略性や瞬時の判断力、高度なテクニック、戦略などのスキルがプレーヤーに要求され、体を動かすスポーツと同じく、世界規模の大会が行われるまでに発展をみせています。
すでに米国や韓国ではスポーツの1ジャンルとして認知されており、大会によっては高額賞金がかけられたり、プロの選手が登場するesports大会はテレビ中継されたりするなど、注目されるスポーツジャンルとなっています。国内ではプロのesports選手を「プロゲーマー」と呼ぶことも。
ネモ(NEMOTO NAOKI)選手プロフィール
本名は根本直樹。1985年1月5日 生まれ。ゲーミングPCブランドの最高峰 ALIENWARE所属。平日はシステムエンジニアとして会社員の顔と週末はプロゲーマーの顔の2つを両立する社会人プロゲーマー。ストリートファイターシリーズをはじめ、Guilty Gear シリーズや、アルティメット マーヴル VS. カプコン 3、King of Fighterシリーズなどの格闘ゲームをマルチにプレイする。(公式サイトより)
究極とも言える「副業」の形。プロゲーマーになれた要因とは?

── ネモ選手がesports選手になろうと思ったきっかけは何でしょうか。そして、どういった考えで社会人との二足の草鞋を履くことを決意したのでしょうか?
ゲームが趣味で、好きだから続けていたというのが一番の理由だと思います。そもそも子どもの頃から格闘ゲームが好きで、ゲームの大会にも出ていました。そうしているうちにゲーム友達がすごく増え、社会人になっても趣味が合うので仲良くやっていたところ、次第に「esports」が発展してお金になるようになっていったんです。
そんな中で会社員として働きながら、こんなに好きで打ち込めるなら、やはりプロを目指したほうがいいのでは?という気持ちが増していきました。
── esportsのプロ選手というのは、現状では企業にスポンサードされている選手がいわゆる「プロゲーマー」と呼ばれています。ネモ選手はプロを目指すためにどういった工程を踏んだのでしょう?
プロになるには自分で応募して採用される場合や、大会で結果を残してオファーが来るという場合が多いのですが、自分はプロになりたいと思ったときにオファーが来てなかったんです。
そこで、色々な企業にプレゼン資料を持って行き、まずは名刺を配るところから始めました。企業訪問してプレゼンしてを繰り返し、最終的にALIENWAREと契約することができました。なので、プロ選手という立場は自分から掴みに行った形です。
── 会社でのスキルはプロへの道で役に立ちましたか?
会社でもプレゼン資料は作っていたのですが、あまり得意ではありませんでした。人のものを参考にして作るなどもしましたが、やはり自分の好きなことに対しては、ちゃんと自分の考えで資料を作らなきゃいけないなと思ったんです。そこで、自分で資料の作り方や言葉の言い回し、こういった資料ならうまく交渉しやすいといったように、自分なりに調べていきました。
回数を重ねてくうちに、仕事の資料作りもだんだん上手くなっていって、ある日会社の上司に「お前の資料、昔に比べたらすごく良くなったね」と言われたこともありました。
社会人としての仕事とesports選手としての仕事の両立の秘訣は?

── 社会人でありながらプロのesports選手となって、会社での仕事とesports選手としての時間はどう配分していたのでしょう?
プロになったときに勤めていた会社はSE(システムエンジニア)で、単純に9時出社18時退社。仕事は通常通りやっていました。残業があれば仕事優先なので残業し、そこからゲームセンターに行って1日平均2時間~3時間ぐらいプレイして帰宅するというライフスタイルでしたね。やはり早くゲームをしたいので、集中して仕事を終わらせていたような気がします。
── SE的な考えが、ゲームに活かされていると感じることはありますか?
上手くなるための効率を重視するというところですね。仕事とゲームを両立するといえど、社会人である以上はゲームに向き合う時間は少なくなってきます。そこで、どれだけ短い期間で上手くなれるのかということを考えています。また、大きな大会という目標があったとすると、それに向かってどうやって練習していくかも考えます。
例えば、2017年5月末に「Red Bull Kumite 2017」という大きな大会がパリであり、招待を受けていました。まずやったことは、それまで何回ほかの大会に出られるのか?というスケジュールの把握です。そして練習としてそのほかの大会に出てみて、今の実力で大会に勝つにはどうしたらいいのか考えました。目標があって、現状把握があって、そこに対する解決を求めるかたちで、本番に向けてプランを立てて練習するというスタイルです。
「Red Bull Kumite 2017」の前には「TOPANGA LEAGUE」という大きな大会もあって、このとき自分は優勝しました。でも、優勝したからといって強いまま次の大会に挑めるかというと、そうではないんですよね。やはり周りも皆強くなっているので、周囲のレベルアップを確認する必要もあります。
そこで自分の実力を改めて確認したかったので、4月に無理矢理中国の大会に行ってきたんです。そのときはベスト4で負けてしまいましたが「今の実力はこうだからもうちょっと練習時間を割いてみよう」というプランを建てました。そして「Red Bull Kumite 2017」で優勝できました。
スポーツ選手ならではの良いコンディションをキープする方法とは?

── ここぞというときの勝負で気をつけていることはありますか?
基本的には普段と同じ状態で挑むということが大事です。体調を崩すとやはり集中力にも影響しますし、自分の場合は寝起きの時間を保つなどしています。また、練習せずにいきなり試合に臨んでも、うまく操作できずに負けてしまうことがあります。しかしそうなると、うまく操作できなかったのは緊張なのか自分の準備不足だったのかわからなくなってしまいますよね。こうした課題を見つけるためにも、試合前のウォーミングアップは必要です。
── それは自分が勝ったときのシーンを描くイメージトレーニングも含まれますか?
自分の場合は実践的にゲームのトレーニングモードを使って、繰り出す技のミスをしないようにキャラクターを操作するといった練習をします。そのために、環境を整えることもしました。
自分が一番後悔したのが「Capcom Cup 2015」という大会で、練習台が人数分なくて早いもの勝ちだったんです。対戦相手はすごく練習している状態だったのに対して、自分はあまり練習できずに試合望んでしまって…。ミスも多くなり、負けてすごく悔しい思いをしました。
今後はそうなりたくないという気持ちから、ALIENWAREにノートPCを提供していただければ、ホテルにも会場にも持っていけて、トレーニングもできて、勝つこともできると思ったので、提供できませんかと持ちかけたことがスポンサー契約の始まりですね。
今後のesportsを見据えた、ネモ選手が持つビジネスモデルとは?

── ネモ選手から計画的に物事を進めるイメージを受け取ったのですが、自分の中で将来のビジネスモデルがあるのでしょうか?
やはり、将来が不安だからプロゲーマーにならないという人は絶対多いと思うんです。自分も周りがプロになっていく中、なかなかプロになる道は歩めませんでした。ずっとそれが続いていたのですが、30歳になったときに、「働きながらプロになれるんだったらそれでいいじゃん」という気持ちになったんです。
自分が兼業としてやり続ける理由は、やはりゲームも仕事も両立して、esportsでやってきたことが仕事でもこう活かせるよ。ということを示したいからです。将来が不安だという人に、自分がこういう働き方があるということを示したモデルとなれれば、プロへの間口も広がっていくはずだと思っています。
── では最後に、プロesports選手であるネモさんから見て、プロになれる人と、そうでない人との差は何でしょうか?
おそらく行動力だと思います。自分はゲームセンターの大会に出たいと思ったら絶対に行きました。ネット配信でも大会の様子は見られますが、ネットでは見られない、現場で起きていることがあります。そして会場に行けば、もしかしたらすごい繋がりができるかもしれない。こんな面白い人と知り合いになれたのか! という出会いもあるでしょう。
そうした面白さがモチベーションに変わり、ゲームを頑張ろうという気持ちになったりしますね。まずは会場に行ってみるのが大事だと思います。はじめの一歩を踏み出すのはすごく勇気がいることですが、まずは行動してみるといいと思います。
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撮影協力: スタジオスカイ
Photo: 小暮ひさのり, ライフハッカー[日本版]編集部
Source: 根本直樹オフィシャル・サイト, Red Bull Esports / YouTube
(文: 小暮ひさのり / 聞き手: 今井麻裕美)